初めての『お帰りなさいませ』
「お帰りなさいませ、アクト様」
「……」
新居に初めて入ったと思ったら、既に先客がいた。
催眠術だとかストーカー的な何かかと一瞬考えかけたが、彼女が光治郎氏のつけた家事アンドロイドだと気付いた。
「ああ、君が……実物のアンドロイドを見たのは初めてだけど、人間そっくりなんだな」
現在のアンドロイド技術が極めて人間に近いものを製造できるという話は聞いていたが、自分の周りには所持している人間が(若月家を含めても)いなかった
「はい、はじめてお目にかかります。KA‐37(5)型・登録名ミナ、アクト様用にカスタマイズされております」
アンドロイドは最敬礼で頭を下げる。
元は売り物という事もあってか、その造形や所作は美しい。
「堅苦しいのはいいよ」
「そうですか……では言語モードはカジュアルに変更でよろしいでしょうか?」
「言語モード……まぁ、それでいいよ」
「はい……反映したよ。もし気に入らなかったら後からでも変えられるからいつでも言ってね」
「お、おう」
こういったところはどことなく機械のような印象を受ける。
「いやー。実はあのしゃべり方疲れるから助かるよ、アクトさま~」
……前言を撤回しようと思う。
「あ、それとこの身体どうかな?部品の交換で髪の長さと色、プロポーションを変えられるよ?」
アンドロイドは長くて、人ならば染めない限りは出ないであろう紫色の髪をシニヨンで纏め、本来家事には不必要なはずのプロポーションも恐らくは極端な体型が好きという人種以外は男なら好むであろうラインを描いていた。
「……いや、体型って」
本来、家事を目的にしたアンドロイドのはずだが?
「あ、身長は変えられないの、ごめんね?」
「あ、そう……」
「一応、開発中の超最新型からは出来るようになるそうだけど……はっ、今日ハジメマシテで、もう捨てられちゃうの!?」
本当に作り物なのだろうか……?
「口調は変えろと言ったが性格までとは言ってないんだけど」
カジュアルというよりポップとかの次元だろう。
「あ、ごめん。鬱陶しかった?性格は……ごめん元からこんななの、不満なら言語モード変えるけど……」
「そう、ならいい」
いい加減、玄関で立ち話は嫌だったので上がる事にした。
「え、いいの?」
「そっちのが素なんだろ?」
「わっ、アクト様ってばイッケメ~ン」
「やっぱ、鬱陶しいなコイツ」
その後アンドロイドに新居の中を説明させた。
母が予め送っていた荷物は此方のプライベートな物を除き、全て荷が解かれて然るべき場所に直されていた。
「勝手にやっちゃったんだけど、よかった?嫌なら指示の通りするけど」
「別に拘りはないから、いい」
家の中を一通り見た後はその裏にある施設に行く、『悪』としての活動をするための拠点だ。
「そっちはノータッチなんだけど」
「そうか。じゃあ食事作っといてくれ、一通り見たら飯にする」
「はぁい、了解っ!」
アンドロイドは警官や軍隊がやるような敬礼をした。
「……ああ、そうだ」
「ん?なに?」
「お前の名前ってミナでいいか?」
「一応はそうだね、ただ人によっては好きな名前を付けるからアクト様も好きな風に呼んでいいよ?」
「別になんだっていいけど」
「む~つれないなぁ、一応、アクト様用にカスタマイズされてるんだよ?」
「さっきも気になってたんだが、俺用ってどういう意味なんだ?」
「そ、それは……こ、こんなところでいわせないでよ」
アンドロイドは照れるように頬を赤く染めた。
「いやそれ、本気か冗談なのかわからないから」
「えへへ、それは……後のお楽しみでね?」
造形が美しく、そういった仕草が似あう分、あざとく鬱陶しい。
「あ、でも……」
「ん?」
「一応、わたしのミナってKA‐37の37だからミナって安直な名前なんだよね」
「それが?」
「でも、アクト様用にカスタマイズされた分バージョン違いの型番で(5)が追加されたの」
「つまり?」
「だから、厳密にはわたしは37(5)でミナコになるかなって」
「その理屈ならミナゴだろ」
「あ、確か……いや、イナゴの発音で言わないでよ!」
本当は皆殺しの発音で言ったつもりなのだが、それには気が付かなかったようだ。




