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悪と善と妹(仮)  作者: 結城コウ
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若月光治郎

「失礼します」

出ていく前に礼儀として光治郎氏に挨拶ぐらいすべきだと思い部屋を訪ねた。

「そうか、もう行くのかね?」

部屋に来た時点で感づいていたらしく、説明の手間が省けた。

「はい、お世話になりました」

「それは構わないが……その前に少しこれからの事を話そうじゃないか、二神君」

光治郎氏は公私を区別すべく、プライベートの時は下の名でビジネスの時は苗字で呼ぶ。

「……護衛の件ですか?」

「いや、違う。それは今のまま継続して欲しい」

「ではどのような件で?」

「ああ、まず今回の事は大分前から計画されていた事は知っているかね?」

一瞬、言葉に詰まった。

光治郎氏がどこまで父達の計画を知りどこまで協力的なのか図りかねていたからだ。

「ある程度は」

無難な返答で茶を濁す。

「ふむ、では話しておこうか。どういう話になっているかを」

「……はい」

父と光治郎氏の間で、という事だろう。

「元は同じ『悪』の残党として旧知の仲であった君の父と私は、プライベートでも良い友人だった。だからといって、それだけで君を全面的にバックアップ出来る程お人よしという訳ではない」

まぁ、『悪』の残党が単なるお人よしなら笑い話でしかない。

「何か益があるからこそ、協力するって事ですよね。でなければ、元は残党であっても今はクリーンなイメージを大切にする若月グループが余計なリスクを背負わない」

聡明(そうめい)だな、君は。そういうところ、父親にそっくりだ」

「それはどうも」

光治郎氏の言葉に皮肉めいた響きを感じたが、追及はしなかった。

「そういう素っ気無いところもだ」

互いに一瞬笑いあったが、すぐに表情を戻した。

「それは結構ですが、今はビジネスの話なんですよね?」

「そうだったね。では、話を戻すが。私の個人的な思想はともかくとして、若月グループの目的はデータだ」

「データ?父の技術の、という事ですか?」

「半分はそうだ。アレの技術は十年近く経った今でも十分通用……いや、最先端の技術と言っていい」

「それは……確かに」

転送装置やCITADELでの事を考えれば不自然ではないだろう。

「君の父、二神()(つみ)はその能力の百%を会社に貢献していた訳ではなかった」

「……」

「求められた物を求められた水準で開発していた。それでも他の開発者、研究者の倍以上の力量を発揮していたがね。そんな状態だ。他の者から文句はおろか、意図的に手を抜いていた事なんて誰も気付かなかったよ」

「だからこそ、その本気で打ちこんだ技術が交換条件と成り得た……」

「そうだ。恐らくはCITADELとの提携を解除した事で『悪』のバックアップでは動かないと踏んだのだろう。初めはしてやられたと思ったよ」

と言うよりは組織に属しているとはいえ、自分達の思想は全ての敵と成り得ると自覚していたのだろう。だからこそ、交換条件がなければ思惑通りにならないと父は思ったのではないだろうか?

「加えて、その本気の技術は二神悪人にのみ合わせて設計されている。それでは今のウチの研究者達でも応用する事は出来ないだろう」

「?……なら、その技術の中身を知っても無意味なものになるのでは?」

「二神君、君に言うのも難だが、そこがあの男の(いや)らしいところだ」

「……へぇ?」

「実は私のところにこの話を持ってきた時にね。実働データと基本データがあれば一般にも応用可能になるソフトウェアを持ってきたんだよ」

そういって光治郎氏が出したのは父が作ったというあのメモリーカードだった。

「ああ、成る程」

先程、光治郎氏が述べたデータについてのもう半分の意味はこれの事のようだ。

加えて、これは長期的にバックアップを受ける為の父の策略らしい。

「まぁ、そういう訳だ。当面はビジネスライクに行こうじゃないか」

「はい、助かります」

「いや、こちらとしても、助かる。」

ふと、八木との話を思い出した。

若月グループは表向き戦闘アンドロイドの製造を中止している。

だが、現在……いや、CITADELが襲撃された今はわからないがつい先日まで武器の横流しが行われていた。

そして、此方の技術のデータの提供……

一般にも応用可能になるとは言っても基本的には戦闘に関する技術ばかりではないのだろうか?

不必要な戦力の増強……若月グループは今でも裏でも何かをやっているという八木の言葉……もしかすればそれは今後自分に関わってくる何かになる可能性がある。

「ん?どうしたのかね?」

光治郎氏の声で我に返った。

「ああ、いえ……これからの事を考えてまして」

「そうか、色々やる事が増えるだろうからな」

「はい。そう思うとあまりゆっくりできません」

「そうか。では」

「はい、失礼します」

光治郎氏に頭を下げ、部屋を出ようとする。

「……アクト君」

「はい?」

「頑張れよ」

「……はい!」


――――事実として、若月光治郎に直接会ったのはこの日が最後になる。


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