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悪と善と妹(仮)  作者: 結城コウ
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戦いの先にある当たり前

母の時とは何か違った。

確かに数時間前とは違う要素がある。

まずは一度経験している事。

次にこの場には母の張った結界がない事。

そして、母の言う業、親殺しの呪いが完成している事。

母の時のように重要なモノだけを奪う事にはならなかった。

援護担当――()(はし)遥香は端からその身を喰われ、消滅していく。

そう、この手の中の呪いによって。因果に作用し消えていく。

「あ、い、嫌、嫌ぁぁぁぁあっ!」

知りたくもない事を知ってしまう。

出来る事なら、殺す相手の情報なんて知らないままでいたい。

それでもこの力――呪いは此方の意志など関係なく、彼女の記憶を映しだす。

三橋遥香はヒロインだとかヒーローの系譜なんてない一般家庭に生まれた娘だった。

趣味は家庭菜園と友人との長電話。それ以上の特筆するような事はなく、ヒロインの事がなければ、普通の娘として過ごすはずだった。

兄弟はなく一人っ子として過ごし、十歳の時にヒロインの才能が発現する。

その才能は超能力。

特に移動物の軌道を変える事が得意だった。

本来ならそれ以降も様々な能力や元ある能力が強化されるはずが初期の状態で能力の成長が止まり、STRIKERSにスカウトされる。

元は平凡などこにでもいるような娘だった三橋遥香はヒロインに対する憧れと自分もそうなれるという希望を捨てきれなかった。彼女はそのスカウトを受けSTRIKERSに入る。

三年間の訓練の後に相方である、(つじ)和菜とコンビを組む事になる。

それから彼女は辻和菜と共にSTRIKERSとして『悪』の残党狩りに勤しむ事になる。

その中で彼女は辻和菜に対して、一番の信頼と絆を感じるようになる。

だから、彼女は――あの時、逃げずに、命を掛けて――

「……それでも駄目だ」

「――死にたく、ない」

「駄目だ。今まで大義名分の元に殺してきただろ?」

その事実が消える訳じゃない。

「でも――」

「その覚悟がなければ、戦いに身を投じるべきじゃなかった」

「でも――」

「自分だけが違うと思うな」

「でも――」

「誰だってそうだ。いつかは終わりが来る。何を成そうと成さなかろうと」

「でも――」

「自分の選択の結果だよ。諦めろ」

「――嫌だ」

「諦めろ」

「――嫌だ」

「恨みたければ、恨め。俺もいずれ――」

「――それでも嫌、だ」

「時間だ」

その命の最後の一滴を飲み干した。

そして残ったモノ、此方が喰えなかったモノが宙に漂う。

それは三橋遥香の中にあったヒロインの因子。

『善』の光が掌の周りをキラキラと漂っていた。

「……遥香」

ポニーテール――辻和菜はそれを見て一筋、静かに頬を濡らした。

「……悲しむ必要はない。お前も同じ場所に送ってやる」

再度、右の掌に『悪』の塊――否、『親殺しの呪い』を展開する。

「死後の世界とやらがあるかは知らないが、な」

そうして、辻和菜に呪いを叩き落とそうとした時、視界の端で光が見えた。

「――!!」

ヘルメットのモニターがなければ、見えたところで気付かなかった。

ソレが死の塊だとは。

「くっ」

咄嗟に飛び退くと、光が元居た場所、辻和菜の上を通過していった。

「これは……!」

光の来た場所を見る。

その予想は半ば確信であり、その瞬間、事実となった。

ただの候補生が助けに来たところでこうはならない。

その主は紛れもない本物。

正統なるヒロイン。

その名は魔法少女。

「よくも仲間を!」

魔法少女はその衣装に羽根を生やし、空から飛来する。

「くそっ、仕掛けてきたのはそっちだろうが!」

転がっているカートリッジを回収する。

まだ使えない事はないが、現状、魔法少女と戦う事を考えれば無謀と言える。

『親殺しの呪い』を叩き込む事が出来れば、勝てるかも知れないがそれはせめて万全な状態かつ対策を練ってからではないと勝機は見出せない。

モニターの転送装置の冷却時間を見る。

後、三十秒――それだけの間、耐久するしかない。

「キミがぁっ!」

魔法少女がステッキを振るう。

ただ、それだけの事で先程の光を発生させる。

驚く事にそれは純粋な『善』の塊。

魔法少女とは言え、得意な・使える魔法は限定される。

炎だとか水だとか雷だとか……それをヒロインの力の根源である『善』を扱うという事はより純粋な『善』なる存在――つまりは強敵だという事だ。

概念としてはこちらの『悪』の対となる力――だが、実力(ランク)が余りにも違う。

「くっ、被害者ぶるなと言ってるだろ!」

『悪』で跳ね返したり受け止めたり等は不可能だ。

そんな真似をすればその場所からこの身体は消えてなくなる。

何とか回避したが、僅かにヘルメットを掠めた。

それだけでモニターに亀裂が走った。

「しまっ――!!」

それに気をとられたのが失策だった。

『浄化(クリーンアップ)の柱』(・ピラー)!」

足元に魔法陣が浮かび上がった。

「消し飛んじゃえ!」

口調こそ、そんなものだが、口にした事は事実だ。

この魔法を喰らえば、この身は消滅する。

モニターは亀裂で正常ではない。

とはいえ、確認する余裕などない。

だから、三十秒耐久した事を信じて転送装置を押した。


「――え?」


飛んだ場所は駅のトイレだった。

成功した事に安堵し、思わず座り込みそうになるのを、手洗い場を掴んで持ちこたえた。

幸い、トイレは無人で突然現れた自分を見た者はいない。

ひとまず変身を解除しようと転送装置を持った時、違和感を抱いた。

足を上げて見るとブーツの底が焼け切れ、露出した足の裏が(ただ)れていた。

紙一重だったという事実を知り、ふと窓をみると自分が元居たであろう場所に光の柱が立っていた。

それが消えるまで十五秒は経っていただろう。


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