表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪と善と妹(仮)  作者: 結城コウ
11/59

彼女が変わった瞬間、彼女が終わった瞬間

その瞬間は網膜に焼き付いていた。

刀の根本に向けて、『悪』の弾丸が当たると確信した時、刀に当たるより先に弾丸が斬り裂かれた。

それは跳ぶ斬撃――風圧を刀の形のまま押し出した、風の刃。

それは数メートル離れていたはずのこの身にまで届いた。

咄嗟に盾にした銃のお蔭で致命傷は避けたがその風は確かにこの身に届いていた。


「ほう、立っていられるか」

ポニーテールの声には確かに驚愕の色があった。

しかし、それは例えるなら絞めたはずの魚がまだ生きていたような……所詮は俎板(まないた)(こい)だと言わんばかりの、その程度の驚愕にすぎなかった。

「とはいえ、(これ)で“ちぇっくめいと”だ」

頭だけで背後を確認すると援護担当が此方に銃口を向けていた。

「く……そ……」

のろりと観念したように両手をあげる。

仮にそれでも容赦なくトドメを刺しにくるならおしまいだ。

だが、後数秒、時間が欲したかった。

「……降参のつもりだというのなら、その得物を捨てろ」

盾にした銃が左手に残っていた、銃身が潰れて使い物にならない。

「もう使い物にならない。親父の形見なんだ、勘弁してくれ……」

「駄目だ。抵抗の意志がない事を見せなければ……」

さもなくば、斬ると言わんばかりにポニーテールは刀を構えた。

「……わかった」

左手を開く、支えを失い銃が零れ落ちると同時に――ポニーテールは斬りかかった。

――――だが、間に合っている。

その刃がこの身に届く直前に、銃の裏に隠していた転送装置を起動する。

時間制限が解除されていた事はヘルメットのモニターに表示されていた。

ポニーテールの背後へと転送される。

それと同時に落下する銃からカートリッジを引き抜く。

その形状と予備がある事実、八木に見せられた最新型。

それらの事と自身の能力への理解によって、気づいていた。

このカートリッジは単なる弾倉ではなく、八木のそれと同じく、刃になるのだと。

一瞬で構築した分、その長さは短刀程のもの。

だが、今、長さは大した問題ではない。

今、問われるのはどれだけ早く、この刃を目の前の女の脳天に振り下ろせるかだ。

「く、あっっっ!」

貫いた感触はやがて落胆に変わる。

カートリッジから引き抜く時間が僅かに相手に防御をする時間を与えていた。

ポニーテールは身体を反らし、左手を上げる事でその左手を盾にして頭を守った。

そのまま転送で逃げる事も出来たのにそれをせずに奇襲をかけたのだ。

片腕を貫いたところで、倒せなければ意味はない。

これは必殺ではなければならなかった。

そうでなければいけない、自分が使える手札を全て使い切ったのだ。

これでは割に会わない。

「和菜っ!!こいつっ!」

援護担当が此方に狙いを定める。

「ちっ!」

ポニーテールが刀を回すのが見えた。

咄嗟にマシンガンの射線にポニーテールを蹴り出し、その両方を(しの)ごうとする。

「『induction』」

マシンガンから放たれた銃弾はポニーテールの手前でその軌道を変え、弧を描いて此方にまで銃弾の群れが襲ってきた。

「なっ……くっ」

後退してそれをやり過ごす、それでも此方に迫る弾はなんとか『悪』の刃で弾きかえした。

公園の端にまで押しだされてやっとマシンガンの連射が止まった。

厳密にはマシンガンよりも援護担当の限界が来たのだろう。

先程述べたようにSTRIKERSはヒロイン候補生・その成り損ないだ。

故に本来なら使えていたはずの魔法だったり超能力だったりといった特殊能力を不完全な形ながら使用する事が出来る者もいる。

援護担当の銃弾操作とポニーテールの風の太刀は恐らく奴らのその特殊能力だ。

だが、あくまでも成り損ないは成り損ないに過ぎないようだ。

「操作限界か」

「くっ……」

援護担当は悔しげに此方を睨みつける。

ここで演技が出来ない限り、多少は御しやすい相手なのだと判断できる。

「助かった、遥香……援護を」

そう言うとポニーテールは立ち上がり、此方を見据えた。

「和菜!?その状態で戦うつもりなの!?」

「言わずもがな。この程度の逆境を乗り越えるか否か、ヒロインの素養を問われているのだ」

その判断は誤りだと感じた。

ポニーテールは下がり、援護担当と一対一で戦うほうが向こうには分がある。

此方の武器に飛び道具はもうない。

初めと違い、向こうの武器は変わっている。

この距離で援護担当との戦いになれば、敵に届く前に此方は蜂の巣だろう。

そうなった場合、逃走を考えなければならない。

だが、逆にポニーテールが出てくるのなら、援護担当の位置にさえ注意すれば援護担当は先程の銃弾操作の限界もあり、フレンドリーファイアを恐れ手出ししてこないだろう。

そうなれば、手負いかつ此方と射程距離が近いポニーテールとの一騎打ちに持ち込める。

そこを破りさえすれば、後はなんとでもなる。

完全に殺さずに息のある状態でポニーテールに勝てば、援護担当も簡単に手出しできなくなる。

その状態でまた援護担当の撃破か退却を考えればいい。

「……中々言うな、(さむらい)(もど)き」

「……なにを?」

安い挑発だったが、簡単に乗った事に内心苦笑した。

「片手で勝てるなんて思いあがっている辺り、お前は(まが)(もの)だ」

「貴様!」

一瞬、ポニーテールの刀に風を視認できるほど強くなった。

「こっちから行ってやる。その傲慢(ごうまん)を叩き潰してやる」

「ならば、斬り伏せるのみ。貴様に(それがし)の風は破れぬ!」

援護担当に少しの警戒を遺したまま、ポニーテールに突っ込む。

五歩、最速で行けばそれだけで互いに斬りつけあう距離になる。

その直前で、グリップに『悪』の力を注ぎ込む。

それで刃はより長く、濃度のより濃いものになる。

根拠はないが、それでやりあえる自信があった。

目の前の敵は片手を失いながらも未だ此方を侮っていたのだから。

「はぁっ!」

「……」

互いの一振りが交差した。

「っ」

「……」

『風』と『悪』の力は均衡しあい、どちらかが欠ける事なく、激突の衝撃により互いに押し戻された。

「はっ」

「……」

その事実に動揺する事はなく、二撃目、三撃目、四、五、六……と互いの刃をぶつけ合う。

力が均衡する事は予想出来ていた。

だが、このままではジリ貧だ。

先程、ポニーテールが『悪』の弾丸を切り裂いた時は、『風』は今以上の力を、『悪』は今より濃度の低いものだった。

『悪』の理由は武装の性質上、この身から遠くなればなるだけその濃度が薄くなる為だ。

その分、今の剣状の状態なら、より濃い状態で戦える。

『風』の理由も推測はついている。

ポニーテールにとって、居合抜きは必殺技のような扱いになっている。

その為、より威力のある『風』を出そうと本人の意識している、していないに関係なく機能している。

実を言うと、仮にポニーテールが居合抜きで立ち向かわれたら、危なかった。

挑発が良いように作用した結果、そうはならなかったが。

ただ、予想と違ったのは力が余りにも均衡し過ぎていて互いに消耗が少ない事だ。

此方の見立てでは均衡しても、多少の余波が生まれるはずだった。

その余波で互いに消耗するとしても、此方の武装は水と『悪』によるエネルギー体、対して向こうは実体(カタ)()

つまり、此方は『悪』が尽きない限り、性能が落ちる事はないが、向こうは多少の刃こぼれでも打ち合いを続ける限りやがてそれは致命傷になる。

ポニーテールの刀が消耗していく事で此方に勝機が生まれるはずだった。

だが、それが望めない中で持久戦になれば、数の利がある向こうに天秤は傾いていく。

「――っ」

援護担当が動きだした。

初動が遅れてはいるが、その行動は正しい。

「……ちっ」

「余所見をしている暇が貴様にあるのか!」

初めて正面から受け止めず、横に受け流す事でその太刀を凌ぐ。

ポニーテールの言葉は確かにその通りだ。

だが、援護担当に背中……否、彼女が援護可能と判断できる場所に着かれれば終わる。

斬り合い、打ち合いの中で援護担当の位置に合わせて、互いの位置を誘導する――それが出来なければならない。

だが、そんな事は不可能だ。

ポニーテールの場数は此方より上で、技術も負けていると打ち合いの中で感じた。

仮にポニーテールが両手を使えていれば、敗北は必至だった。

「く……っ!」

自分が出来る事は後退していく事、それでのみ援護担当と迫る太刀を凌ぐ方法はい。

だが、それでもいずれ限界が来る。

しかし、そうしなければ死へのカウントダウンが近づいていく。

何か手筈はないかと考えても、既に使える手は全て打ったつもりだ。

せめて、転送が使えればと思うが、モニターに映る冷却完了時間までに五分ある。

それまでに後退不可能な場所に追い詰められる予感があった。

だから、目の前の敵と援護担当の位置に注意を割きながら、必死に考えた。

何かまだ手が残っていないか。

何かまだ――

このままでは死ぬ。

父と母が託した計画を、何一つ成せぬまま。

それは駄目だ。

それでは母より己の命を優先した意味がない。

それではあの時、母に殺されなければならなかった。

もしくは……もしくはただ、普通に、こんな殺しあいなんて、せずにふつうにいきたかった。そうだかあさん、なんでこんなことをしなくちゃいけないんだよ?

なんでいのちをかけてまで―――

「――――――ハ」

閃光がこの身を駆け巡った。

そうだ、母だ。

母が最期に命を掛けて教えてくれた、手がある。

「なにかおかしな事でもあったのか?」

「……」

ポニーテールを見据えると、その顔には余裕があった。

だが、そんな顔は戦場では――よろしくない。

「ふっ!」

「はっ!」

渾身の一撃で振り抜くと、ポニーテールはそれを受け止め、(つば)()り合いになった。

「……お前にはどう見える」

「さて?其方の顔は見えぬからな」

貴様、とは言わない分、ポニーテールに余裕が戻ったのは明らかだ。

「なら、一つだけ教えてやる」

そこで左手を離した、互いに片手だ、力勝負なら持ちこたえてみせる。

「例え、どんなにおかしくなろうと戦いの中で笑うかっ!」

「っ!?」

それは相手にはどう映っただろうか。

剣から離した左手を、身体ごと鍔迫り合いの中に突き出すのは。

掌に込めたのは『悪』の塊。

水で薄めていない純正だ。

仮に力が均衡しているのが濃度のせいだというなら、その身に届かなくてもその刀を溶かす事は出来る。

「和菜、下がって!」

事態を把握した援護担当が迂回をやめて此方に突撃してくる。

そうはさせまいと、刀を捕まえようと手を伸ばすが寸前でポニーテールは飛び退いた。

「くそっ!」

悪態をついた時には援護担当は援護担当でありながら、かなりの至近距離まで迫っていた。

「うあああああっ!」

援護担当の射線からポニーテールが外れると同時に引き金を引こうとした、その瞬間、持っていた剣をダーツの要領で投げた。

「ああっ!?」

剣はマシンガンに突き刺さる、これで武器と呼べるものはなくなったが、援護担当は無力化した。

そして、ポニーテールを追撃しようとした時――

「『風迅』――」

ポニーテールはもっとも迎撃に適した位置で構えていた。

「――」

駄目だ、躱せない。

飛び退くには遅すぎる。刀から逃れたところで風がこの身を切り裂く。

受け止めようにもアレだけは無理だ。

いくら濃度の高い『悪』でも、素手と刀というリーチの差は埋められない。

刀を溶かしたところでその前に、真っ二つになってしまっては意味がない。

それでも――

「うおおおおおおっ!」

それでも、僅かな可能性に掛けて、突っ込んだ。

その場で待っていても退いても死ぬ。

なら、あり得ないと分かっていても先に此方が届く可能性を信じて、前進するしかない。

「――抜刀」

その瞬間、僅かな閃きを感じた。

原因は鞘の位置が先程と違う。

――――だから、なんだというのか。

それで何が変わるというのか。

わからないまま、突き出した手を降ろし、姿勢を低くする。

強いていうのなら、それはタックルの体勢でポニーテールに突撃した。

「!?」

衝撃が互いを襲った。

一瞬、視界の機能がオフになった。

そして、強風を背中に感じながら、地面に倒れこんだ。

視界が戻るとすぐに立ち上がる。

二メートル程前でポニーテールが起き上がろうとしているのが見えた。

「うっ……なにを」

その右手を踏みつけた。

「き、貴様っ!」

右手に『悪』を込める。

母の時のような制限もない中で込めたそれは今までで最も濃厚な闇となった。

その闇は自分の中心と繋がっていて、それが生への実感になった。

――――先程の居合抜き。

あれは左手が使えない事で鞘の位置を上手く調整できなかったのだろう。

そのせいで不完全な一太刀になり、内側の下部に潜り込める安全圏が出来たのだ。

「戦いの場で余裕じみた顔――自分はこんなところで死なないとでも思っているのか?」

ポニーテールの顔が()()る。

そこで理解した。

この女は今までずっと狩る側の人間だったのだと。

ならば、思い知らさなければならない。

「それは傲慢だよ。そんな奴はいなくなったほうがいい」

躊躇いはなかった。既にこの身は親殺し。

目の前の傲慢な女を葬る事に心痛めたりしない。

……だが、腕は振り上げたところで止まった。

後ろを振り向くと援護担当が右手にしがみつき、此方を制していた。

「に、逃げて和菜っ!」

それは無理な相談だ。

抵抗される前に踏みつけていた足に力を込める。

「ああああっ!」

「和菜っ!」

叫ぶ援護担当の力が少し緩んだのを感じると右腕を寄せると同時に左の拳を援護担当の横腹に叩き込んだ。

「ぐぶっ!」

援護担当は堪らず、手を離したかと思うとその場にしゃがみ込んだ。

正規のヒロインでもなく、恐らくは銃に関する訓練しかしていないのだろう。

この程度の痛みで悶絶するのでは戦いの場に出るべきじゃない。

「判断を間違えたな、その友情は――まぁ、ヒロイン的とは思うが」

これ以上の武器はなかったのだろう。それでもナイフの一本ぐらいは隠しもつべきだと思うが……それでも逃げようと思えば一人で逃げられたし、仮にポニーテールを助けようとするなら丸腰で飛びつくのは間違いだ。

己の格闘術に自信があるならともかく、それならばそれなりの重さのあるもので後ろから殴りかかるべきだ。

この場でいうなら、戦いの中で生まれた破片や破壊された銃達も殴りつける用途なら使えただろう。此方の剣はこの手を離れてからはただの水に戻っているので使えないと思うが、まだ形状を維持していたなら最優先で使えた。

――――いや、そんな事を考えたところで意味は無い。

「悪いが、先にお前に死んでもらおうか」

援護担当の腕を掴み無理矢理起き上がらせる。

「あ、ああ……あ」

「……は、はる、か」

右手に展開したままの『悪』を握りこむとその拳で援護担当の胸を貫いた。

「――あ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ