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石屋

「地図によればこの辺りのはずだが……」

 初めての土地というのはやはり厄介だ。土地勘が働かない。

「……ん? あれか?」

 渡された手書きの地図と同じ建物の配置。どうやらやっと目的地に辿り着いたようだ。

 ふと店の前に設置してある看板が目に映る。どうやらこの選挙区の候補者たちらしい。

 威風堂々とした面々。雰囲気からして党首達だな。その中には昨日不機嫌にさせてしまった男が一際異彩を放っていた。

「……才能はそれなりにあるんだがな」

 まぁいい、さっさと用事を済ませて観光でもしていよう。

 店に入ると陰鬱とした空気が肌にまとわりつく。商品らしき石には埃が被っており、もはや閉店してしまっているのではないかという不安が押し寄せる。

「失礼、店主はおられるか?」

 声を掛けると店の奥から店主らしき大男が姿を現した。肌は緑で下顎から巨大な犬歯が飛び出している。

「……なんだテメェ?」

 私を頭の頂点から爪先を訝しむように眺めたあとのこの台詞。人種の違いから来る嫌悪ではなく、単純に女一人でこのような場所に姿を現した事への不信感だろう。

「射録石なる物を頂きたい。レイモンド・パラッシュの使いだと言えば伝わると聞いた」

「あぁ、奴のか。ちょっと待ってろ」

 名を聞いただけで伝わるということは結構な常連なのだろう。

「待たせたな。射録石十個でニ四九マジコだ」

 この値段も高いのか安いのか。態々この寂れた店を界隈しているのだから安いのだろうが、客が少ない分単価で稼いでいる可能性もある。

 やはり情報不足は早急に何とかしなければな。

「おめぇ、あいつのアシスタントか?」

「そのようなものだ」

「昨日の取材、どんなだった?」

「……なかなかに好感触の様だった」

「そうか、そいつァ良かった」

 店主が口角を上げ、目頭を押さえた。その様子は誰がどう見ても涙を堪えているようにしか見えないだろう。

「店主、如何した?」

「……あいつァダチの倅でよ。ガキん時から記者になりてぇって。国中の皆が記事を読む記者になりてぇって。あいつがいつも使ってる店っつう事で今に有名になるからって。お陰でこんなに寂れちまって、あいつ以外誰も来ねぇのに店仕舞いが出来ねぇでよ。……ずっと三流って言われてたあいつが……やっと……」

「まだ泣くには早い。その涙は彼が一流と言われるまで取っておくべきだ」

 幸いにして生前使っていたハンカチがポケットに存在していることを昨夜確認していた為、即座にハンカチを取り出して差し出すと、店主はすまないと小声で謝罪をしつつ、大粒の涙をハンカチで拭った。

「ほら、射録石を持ってけ」

「お代がまだだと思うが?」

「いいんだ。あいつへのお祝いとハンカチの礼だ」

「という事は受け取らねば失礼だな。感謝する」

 思わぬ得をしたが、さてレイモンドに何と説明をしたものか。

「ああ、それとあいつに伝言してくれるか? おめでとうってよ」

「……心得た」


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