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最期の12日間

 最終選挙まで残り12日。ジェンキンスは暗い部屋の中で十数人の部下達に囲まれながら、新聞記事と支持率がまとめられたデータを睨んでいた。

「ジェンキンス閣下、現在ヒトラーの支持率は40%を超えました。ヒトラーを否定していた新聞社もこぞって彼を持ち上げています。このまま行くと確実に当選するかと」

「まだサドラの支持があります。それさえあればまだこちらが有利です」

 ジェンキンスが余裕を持って言葉を返す。しかしそれは見せかけで、内心焦っていることは誰の目から見ても明らかだった。

 そして、その見せかけの余裕でさえも、部下の一言で消えてしまう。

「閣下、サドラですが──」

「──サドラ・マシェリはヒトラーを支持すると発表しました。我が党への支持者はいません」

 予想だにしていなかった言葉に、ジェンキンスの胸中に怒り、憎しみ、不安様々な感情が瞬間的に駆け巡る。

 それでも尚抑え込もうとするも、脳が手を激しく震わす。

 その覚束ない手で、何とか眼鏡を外したジェンキンスは言った。

「……以下の四名を部屋に残し、退出して下さい。ルンゲン、クラリッヒ、ナンジェル、ヒルム」

 胸中を察してか、無意識に恐怖を感じたか。部下達は大人しくジェンキンスの言葉に従った。

 そしてジェンキンス含む五人を残した部屋の扉が静かに閉められた。

「──一体どういう事だ! 献金までしたんだぞ!」

 瞬間抑えていたはずの感情が一気にジェンキンスの口から飛び出した。

「結局私を利用しようとしかしていなかったんだ! 党員も、魔導師団でさえもだ! 皆が嘘を付く! 民選党の党員全員が下劣な臆病者だ!」

「それはあまりの侮辱です!」

「臆病な裏切り者、負け犬だ!」

「いくら閣下でも──」

「党員共はこの国のクズの寄せ集めだ! 畜生め!!」

 反論する部下の言葉さえ聞こうともせず、ただただ怒り散らすジェンキンス。その言葉は廊下に立っている部下達にもはっきり聞こえるほどの声量だった。

「党員とは名ばかり、考えているのは金の稼ぎ方と、美味い飯の食べ方だけだ! いつも皆私の計画の邪魔をする! あらゆる手を使い、私の邪魔をし続ける!。私もやるべきだった! 邪魔な党員の排除を、ヒトラーのように!」

 一通り怒鳴り、少し落ち着き疲れが出たのか、ジェンキンスは再び椅子に腰掛けた。

「私は皆の様に両親が議員だったわけではない。それでも独力でここまで上り詰めたッ!」

 だがその怒りは落ち着くことを許そうとはしなかった。

「裏切り者共め……。思い返せば奴らは最初から私を裏切り、騙し続けた! 国民への酷い裏切りだ! だが見てるがいい。今にその代償を払う時が来る! 己の欲望に溺れるんだ!」

 今まで誰にも見せたことのないジェンキンスの態度に、直視していないはずの廊下で聞いている女性の部下が涙する。そこには憧れたはずのジェンキンスの姿が微塵も感じられなかったからだ。

「ゲレド、泣かないで」

 もう一人の女性がゲレドと呼ばれた女性を慰める。自身の涙を堪えながら。

 ついに暴れ疲れたジェンキンスの怒りは収まり、残された感情は喪失感だけであった。

「私は落選する。こんな状態では支持を得られない。……終わりだ。」

 全員がわかっていた。ジェンキンスさえも、サドラが裏切る前から。だからこそ現実を直視せず、信じていた。例えそれが一本の藁だとわかっていても。

「──この選挙は負けだ」

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