変えられた認識
フラフラと足元も覚束ず、ラミドは街を歩いていた。すれ違う人々はラミドの顔を見ると決まって小声で話をしていた。
しかしそんな状況でもラミドは足を止めず、ある場所に向かっていた。
「……金を、預けていた金を下ろしたい。全額だ」
何をするにも金がいる。銀行員が怪訝な顔をするが、それで日和るわけにはいかなかった。
「ラミド・メーテッドさん。あなたの口座の残金はゼロですね」
「なっ、そんな事はない! よく見てみろ!」
「いいえ、確かにゼロです。3時間ほど前に全額下ろされてます」
「馬鹿なことを言うな! そんなこと──」
あるはずがない、と言おうとした瞬間、ラミドの脳裏に自分を陥れた人物の不敵な笑みがよぎる。
「……そうだ、奴だ。ヒトラーだ! 奴がやったんだ! 親衛隊を使って私の帳簿を複製したんだ! 親衛隊は常に私の屋敷にいた、掃除夫として! 奴が私の金を奪ったんだ!!」
「あんたの金じゃないだろ」
叫ぶラミドに吐き捨てるかのように銀行員が漏らした。そしてラミドの心にはその言葉を無視できるほどの余裕はもうなかった。
「何だと? もう一度言ってみろ?」
「あんたの金じゃないだろつったんだ、この税金泥棒が!」
「誰にッ、誰に向かって口を利いている! 私は共労党党首ラミド・メーテッドだぞ!!」
「何が党首だ!! 人の金を散々使いやがって!!」
「黙れ凡人が! あれは私の金だ! 私が稼いだ金だ! どう使おうと私の勝手だろうが!!」
ヒトラーはラミドが去った官邸で優雅に紅茶を飲んでいた。これまでラミドが座っていた党首席に座りながら。
「ヒトラーさん、ラミド・メーテッドだけど」
「あの男がどうかしたか?」
「銀行で暴力沙汰を起こして勾留されたって」
「そうか、ならば丁度いい。これで衣食住に困ることもあるまい」
ヒトラーさんの勢いはとどまることを知らない。順調に行けば当選できる可能性はある。
けどなんだろう、この胸のうちに引っかかるような感覚は。
「……なんだ?」
路地裏が騒がしい。影から察するに二人? いや、三人だ! 一人が二人に暴力を振るわれているんだ!
「おい、やめろ!」
こちらに気付いた暴力を奮っていた二人は、ありがたいことに素直に逃亡してくれた。
「大丈夫ですか!?」
うずくまる一人に声をかけると、ちょうど月にかかっていた雲がさり、月明かりに照らされた
「……ラドー? なんで君が」
そこにはかつての友人、人族のラドー・ローレンスの顔があった。
「いいのか? 俺を匿って。お前はエルフだろう?」
「友人を助けるのに理由はいるのかい?」
「助ける理由は必要なくても、助けない理由はあるだろう?」
「どういう事だい?」
ラドーの口を濡らしたタオルで吹くと、痛みに耐えるようにラドーの口から声が漏れた。しかしすぐに慣れたのかラドーは口を開いた。
「ヒトラーて知ってるだろ?」
「あぁ、最近支持率が急上昇してる人だね」
「あいつのせいで俺たち人族は大変なんだよ」
「大変? なんで──」
言われて気付いた。確かにヒトラーさんの論述だと……。
「あいつが人族を目の敵にするせいで、俺たち人族の肩身は狭くなる一方だ。暴力を振るわれても弁護士や警察は取り合ってくれず、取り合ってくれても証拠不十分で不起訴になっちまう」
「そんな事が……」
思い返してみれば確かにヒトラーさんの最近の演説内容は過激になっている気がする。
いや、なってる。最初は政治批判だったはずなのに、今では人族自体を政治から排除しようと動いている。
事実僕自身も前は種族にこだわりなってなかった。なのにラドーとあったとき、ラドーが人族であることを意識してしまっていた。
ヒトラーさんはこの事態知っているのだろうか?
まさか意図的にこの状況を作り出している……? まさかそんな事、あるはずが──




