判決
『愛国者』
その一言に皆々が息を呑む。この時点でこの空間が既にヒトラーの支配下にあることに、誰一人気付いていなかった。
「何故君たちはこの腐れゆく国を思い、立ち上がった人々を犯罪者と呼ぶ? ただ国が死にゆく姿を傍観している人々を何故犯罪者ではないと言いきれる?」
ヒトラーは理解していた。裁判官といえど人間。検察官といえど国民。
この国の現状に不満がないわけがないのだ。
「この裁判は私が犯罪者であるかとう裁判であり、同時にこの国の進退を決める裁判でもある。もしこの国が死にゆく姿を眺めていたいと言うならば、私を死刑にするがいい。だがその判決を下すと同時に、君たちは国民の”敵”となることを忘れるなよ? さぁどうする裁判官?」
長い、長い沈黙の後、ついに裁判官が口を開く。
「被告人、アドルフ・ヒトラーを──」
「無茶してくれるね全く」
「そうか? 割の良い賭けだと思うが?」
「君にとっては軽いものかもしれないけど、こっちはヒヤヒヤしたよ。事実ほぼ死刑で決まりだったと言っても過言じゃない」
「だが勝った。ならば問題はないということだ。まさか三食庭付きの別荘での2ヶ月の謹慎処分で済むとは思わなかったがな」
「では私達はこれで失礼します。何かご希望があれば何なりとお申し付け下さい」
看守が態々敬礼をして部屋を後にする。
「これでは看守か護衛かわからんな」
「……」
気まずい雰囲気。あの検事に服こまれたことがよほど気になるようだ。
「ねぇ、ヒトラーさん。なんで教えてくれなかったの?」
「……まだそんな事を気にしているのか」
「そんな事じゃないよ! まだ僕を信用してないってことじゃないか!!」
「落ち着けレイモンド。私は一々声を荒らげる愚者と話をするきはない」
発せられようとした言葉をレイモンドは何とか飲み込んだ。
だがここですぐ話し始めればまたレイモンドの頭は怒りに支配される。故に私は暫く間をおいた。
「……たしかに私は君を疑っている。しかしそれは君の素性ではなく、演技力についてだ」
「演技力?」
「そう。たしかに君に入れ知恵をすれば、裁判を有利に進められたかもしれない。だがそれでは困るのだ」
「訳が分からない。どうして裁判が有利に進むと困るのさ?」
「言っただろう? 実力を示す必要があると。味方である証人が説き伏せられ、誰もが私は死刑になると思っただろう。その絶望的な状況こそ、私が望んだ状況なのだ」




