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裁判

「これより裁判を開廷する」

 裁判長が重低音ながらも、響く声で開廷を宣言する。その声に身を引き締める検事と弁護士の二人に対し、ヒトラーは薄っすらと笑みを浮かべていた。

 傍聴席には多数の記者。その中にレイモンドの姿はなかった。

「検察官、罪状の読み上げを」

「被告人、アドルフ・ヒトラーは7時75分、84名の部下を引き連れ、議事堂へと侵入。議事堂に務める職員を拘束し、占拠。そして同日10時89分、民衆選択党党首ジェンキンス・ブロッサム率いる魔導師団がこれを制圧し、被告人アドルフ・ヒトラー及びその部下を拘束。以上のことから計画的な犯行であることが伺え、よって刑法第32条2項国家反逆罪による死刑を求刑致します」

 検事が罪状を読み上げる間、このどうあがいてもひっくり返し様のない状況下、冷や汗をハンカチで拭いながら、必死に頭を張り巡らす弁護士とは対象的に、ヒトラーははぬたでも歌い出しそうなほど楽感的な様子だった。

「被告人、以上のことについて何か相違はありますか?」

 裁判官の問に、ヒトラーは黙って頷いた。否定するでもなく、言い訳をするでもなく、素直に認めるその行為に弁護人は目を見開いて驚いた。

「では弁護人。弁護をお願いします」

「はい。では承認として、記者レイモンド・パラッシュの入廷をお願いします」

 レイモンドが入廷すると、心配そうな顔をしてヒトラーに視線を送るが、ヒトラーはその視線に対し、心配するなとでも言うように、しっかり見返した。

「承認、職業とお名前をお願いします」

「はい、レイモンド・パラッシュ。センディンス社で記者をしています」

「あなたは最近、被告人アドルフ・ヒトラーと行動をともにしていましたね?」

 弁護士とレイモンドの問答が繰り返される。それだけでレイモンドが緊張している事実を法廷にいる誰もが察した。

「あなたは被告人アドルフ・ヒトラーから、議事堂を選挙する旨を聞かされていた。もしくはその予定を予感するような出来事がありましたか?」

「いえ、そのような事は一切耳に入って来ませんでした」

「裁判長、これほど近い人間にすら情報が入っておりません。以上のことから分かる通り、今回被告人の起こした行動は突発的なものだと考えます」

「では検察官、尋問を」

「はい」

 検事かゆっくりとレイモンドの前を歩く。しかし、レイモンドの目はその姿を追うこともせず、ただただ泳いでした。

「承認、あなたは先程被告人の行動に関する一切の情報は耳に入ってこなかったと申しましたが、それは間違いないですか?」

「はい、もちろんです」

「ではあなたの耳に入らなかっただけで、計画はされていたという可能性はないと言い切れますか?」

「それは……」

 ありえないと言おうとしたレイモンドの口が止まる。一瞬よぎってしまったのだ。自分が、まだヒトラーに信用されていないのではないか、という考えが。

「考えてみて下さい。議事堂はそれなり以上に広く、入り組んでいる。しかし被告人率いる数十名はわずか15分にしてそこを占拠した。これを突発的な行動で完遂させるのは流石に無理があると思いませんか?」

「しかし僕はずっと一緒にいました! そんな計画があれば隠し通せる訳が──」

「──ないと言えますか? あなたは先程言葉を一瞬詰まらせましたね? それは何故ですか? 隠されたことがあるからではないからですか?」

「異議あり! 検察官は明らかな誘導尋問をしています!」

「弁護人の異議を却下します」

 これ以上喋らせてはまずいと弁護人が止めにかかるも、裁判官は考えることもせず、異議を却下した。

「もう一度お聞きします。本当に彼女たちの犯行は、計画的ではないと言い切れますか?」

 レイモンドは答えられなかった。一度膨らんだ疑惑を収めるのは至難であり、それ以上に自分がまだ信用されていないとかという落胆が大きかった。

 ただでさえ勝機のない裁判に、役立たずの承認。終始検察側有利の裁判についに判決がくだされようとしていた。

 一人証言台に立つヒトラーに、裁判官が問いかける。

「被告人、アドルフ・ヒトラー。貴殿の犯した罪、国家反逆罪について、何か弁明はありますか?」

 普通ならば以下にして罪を逃れるか考え証言するだろう。しかしヒトラーは違った。小さく笑い、口にした言葉は──

「──今回の件、これは私の責任の下、計画的に行われたものだ」

 その返答は、その場にいる全員の度肝を抜く物だった。

「み、認めるのですか!? 自らの罪を!!」

 あまりにもの意外さに、罪を請求する立場である筈の検察官が言葉を荒らげ問う始末。

 しかしそんな事は気にせずヒトラーは続ける。

「今回起こした行動については認めるが、私が犯罪者かと問われれば答えは、否だ」

「馬鹿な。犯罪者でないとするならば、何だと言うんです?」

 裁判官の言葉を最後に法定が静まり返る。

 ヒトラーは周りの人々を順々に見渡し、一呼吸ついて、言葉を紡いだ。

「私は──”愛国者”である」

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