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この世界は

 改新暦0年、割拠していた列強諸国が統一され、民主主義の元、合衆制度をとっている。そして四年に一度選挙が行われ総裁が決定された後、改年と同時に新たな総裁が就任する。それがこの国の統治体制らしい。

 軽く聞いた程度だが確信した。私はどうやら全くの別世界とでも言うべき場所へ来てしまったらしい。

「――ルフさん」

 原因は不明。神による思し召しか将又別の何かか。何れにせよ目的が分からない以上下手に動くことも出来ない。

「――ォルフさん」

 急くべきはやはり情報収集だろう。国が違えば価値観や常識も異なる。ましてや世界が違うとなると共通点を探す方が難しいだろう。

「――ヴォルフさん!」

 体を揺さぶりかけられる声に私は目を開けた。しかし眼前に広がる景色は暗闇のみ。

 ああ、そうだ。日差しを遮るため帽子を顔に被せていたんだったな。

 帽子をとると夕陽によって赤く染められた小さな町が広がっていた。

「今日はひとまずこの宿場町に泊まろうか。ここからさらに二つの宿場町を経由して首都アブロミヤには三日目に入ることになると思う」

「美しいな。一見シンプルな町並みに合理的な配置。建物を詰め込まず幅を開け、景観を損なわないよう配慮されている」

「建築学に興味が?」

「ああ、自ら造形するには至らなかったがな」

 馬車に繋がれた馬が私を急かすように小さく唸りを上げる。動物好きの私にとってそれは女性の懇願にも等しかった。

「馬車を置いてくるからこの宿屋で待っててくれるかな?」

「何から何まですまない。命を助けてもらうどころか宿まで用意してくれるとは、君には千の言葉で感謝を述べてもまだ足りない」

「そんな大袈裟な。ただ申し訳ないんだけど、予算の都合上相部屋になってしまうんだけど大丈夫?」

「何から何まで世話をしてもらい、その上文句を垂れるほど私は常識外れではない。それに見たところ君は人格者だ。何を懸念することがあるだろうか」

「はは、それはどうも」

 宿屋の中はかなり質素な作りとなっていた。

 中にいる人々は疎ら。筋肉質な小人から全身緑の巨人。果ては二足歩行の爬虫類や獣の如き者まで。多種多様な人種が見て取れる。

 総じて言えることは中に入ってきた私を怪訝そうに眺めていることくらいか。

「ごめん、お待たせ」

「いや、寧ろ速いほうだろう。それとも急いだことと、私が睨まれていることに何か関係があるのか?」

「それも知らないのかい?」

「そうだな、出来れば話してもらいたい」

「……わかった、部屋で話そう。すみません、予約していたレイモンド・パラッシュです」

 奥から出てきた宿屋の主人はレイモンドは別種族でありながら特に諍いもなく、一人部屋から相部屋への変更もスムーズに事が進んだ。ということはどうやら人間だけが軽蔑されているらしい。

「これは何だ?」

 部屋に入ると部屋が薄く照らされていた。ベッドの横にある蝋燭立ての様なものから発光しているが、中にあるのは蝋燭などではなく、小さな石ころだった。

 触れてみるも熱はなく輝きを減らすこともない。

「発光石だけど、見たことないのかい?」

「発光石? なんだそれは?」

「無原石に光魔法を使える人が魔力を込めると発光するんだ。他にも火炎系だと火炎石になるし、氷系だと氷結石になったり色々あるよ」

「そんな便利なものがあるのか」

 なるほど、科学技術が発展しない訳だ。より効率のいい方法があるのならば必要が無い。

 ベッドに腰掛けたところ寂れた見た目とは違い、なかなかに柔らかい。これならば安眠できるだろう。

「では早速だが話してもらっても宜しいだろうか?」

「改新暦0年に起こったことは話したよね?」

「ああ、列強が統合し民主主義となったと聞いたな」

「その統合の方法がね、ちょっと強引だったんだ」

 強引、となると方法は一つしかあるまい。

「君たち人族が武力行使で他種族を併合したんだ。あ、無論そこは問題じゃないよ。殆どが賛同してる」

「では何故あそこまで軽蔑する?」

「種の数は人族が圧倒的に多い。次いでエルフとドワーフ。そこに竜人族とオーク、獣人族が続く」

 なるほど、ようやく理解出来た。何故人間が侮蔑されているのか。

「人間が政権を手放さないのだな?」

「そう、しかも経済は衰退の一途を辿ってる。だからみんな人族を嫌悪し始めているんだ」

「ならば何故他の候補者に協力して入れない?」

「それこそ無理な話だ。人族の組織票がある上、種族同士の蟠りも無いわけじゃない」

 それだけではあるまい。種族こそ違えど、思考回路は人間のそれと等しい。だからこそ分かる。

 変わることを恐れているのだ。

 一度政権を変えたとして、その任された者が失敗すれば再起は難しい。

「なるほど、理解出来た。礼を言う」

「それほどでも。取り敢えずシャワーを浴びておいでよ。僕なら大丈夫、外に出ているから」

「ここは君の部屋だ。私に気を使う必要はないが?」

「いいんだ。それに仕事ついでさ」

「仕事? そう言えば君は何をしているんだ?」

「ただのしがない新聞記者だよ」

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