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質問

「……遅いな。宗教で偉くなると時間にもルーズになるのか?」

「彼は毎度遅刻することで有名ですから。もう少し待ちましょう」

「私が元首になった暁には遅刻を禁じてやる」

 一つの机を挟み、私を眺めるジェンキンスの様は、以前会った時のようなたどたどしさから一転、威風堂々としたものに変わっている。どうやら向こうも準備万端らしい。

「それにしてもまさか貴方が立候補するとは思いませんでした。演説台に立った貴方を見た時は棍棒で殴られたかのような衝撃でしたよ」

「”今は”と言ったはずだが? それに大して驚いてもないだろう? しっかりと対策してきているようだしな」

「対策とは?」

「とぼけるな。君の後方に立っている連中のことだ。それが噂の魔導師団というやつか?」

「よくご存知で」

 何かあれば私を殺す、という訳ではあるまい。そんなことをすれば支持率がガタ落ちだ。

 恐らくこれは力の誇示。権力を示すには大多数の人間を引き連れて歩く方が手っ取り早いからな。

 ジェンキンスが考えたものではあるまい。察するに誰かの入れ知恵。更に言えば支持率二位のサドラ・マシェリ。

 宗教で上り詰めるということはそれなり以上に人を洗脳する術を知っているということ。そしてこの遅刻。

 ただの寝坊や、怠慢ではない。敢えて遅刻することで自身の力を誇示しているのだ。私は待たせる側の人間であると。

 私の仮説が正しければこの二人は既に手を結んでいるということになる。

 街頭調査では私の支持率は既にサドラを抜いて二位に躍り出ている。このままいけば一位を勝ち取るのも時間の問題だろう。だがもしサドラが当選を諦め、ジェンキンスに付いたとしたら――

「遅れて申し訳ない。如何せん朝に弱くてね」

 上から下まで白一色の衣服。如何にもな風貌だな。

「問題ありませんよ」

「予定はずれるのが常。大切なのはその後の対応だ」

 遅刻を意欲なしと叱咤することもできるが、ジェンキンスが擁護した以上悪手か。態々相手に手を組む理由を作る必要もあるまい。

「では揃いましたし始めましょうか」

 率先し場を動かすことによりリーダーシップをアピールする作戦か。確かに効果的な上、今私が主導権を得ようとすれば出しゃばりすぎだと叩かれかねんな。

 そして何よりこの次が問題だ。出来ることならばサドラ・マシェリとは敵対したくはないが――

「では早速、私サドラ・マシェリからアドルフ・ヒトラー殿へ質問する」

 ――だろうな。







 潰すのであればジェンキンスよりも支持率が低い私。組むのであれば私に追い上げられ不安を感じているジェンキンス。即ちどちらにせよ私を叩けばいいのだ。サドラにとってはとてもわかり易い形となっている。

「貴公が公約に掲げる政策の中に、一定の利益を得る企業に公債を買わせるとあるが、企業側が拒否した場合どうする?」

「そのような事も見越せない企業に、公債を買えるほどの利益を生み出せるとは思えないが、まぁ良いだろう。簡単な話だ。公債の購入を義務にする。それだけだ」

「義務に? 企業側がとても了承するとは思えないが? 」

「だからどうした?  この不況は誰が引き起こしている? 十分な金を溜め込んで尚も民衆から金を搾取しているのは誰だ? 貴様等金持ちが溜め込むことしか考えていないからではないのか?

「そんな事はありません。私達も国民に──」

「前にも行ったはずだ! そんな綺羅びやかな服装に身を包み何を言うのかと!」

「それは──」

「国民に金を還元するというのであれば、何故必要以上に稼ごうとする? 何故貯め込もうとする? 答えは一つ、私腹を肥やすためだ」

 私の主張を肯定するやじが飛び交う。その光景に平静を保ちつつも、若干サドラ・マシェルに顳顬が動いた。

 そうだ、サドラ・マシェリ。貴様が思っている以上に私の牙城は堅牢だぞ?

 なにせこの国に不満を持っている全員が私の味方になりえるのだからな。

「故に国を上げて、貴様らクズから金を取り戻し、国民へ再分配する。それが私の政策だ」

 私の主張に対する二人の返事は沈黙だった。

 何かを言いたげな表情を浮かべて入るものの何も言わない。

 察するに私を論破するというリターンと私に停滞反撃を食らうというリスクを天秤にかけた。そして何より私が人民を焚きつける手法を取るということが判明した為、様子見もかね、一旦慎重になったのだろう。

 つまりこれは私にとって攻めるチャンスであるという事。問題はどちらをどう攻めるか。

 普通に考えればジェンキンスだろう。

 私の立場は現政府に反する立場。であれば現在支持率は負けているものの、順調に行けば追い抜く事は確実な上、与党でもないサドラを攻める必要性はない。

 しかしジェンキンスを攻めるにしても、奴も無能ではない。私がしうる質問に対する回答を、予め用意しているだろう。

 そこをかいくぐり、論破に持ち込むのは至難の業。

 ならばどうするのか。答えは単純明快。

「では私から──」

 サドラ、ジェンキンスが打ち合わせしたかのように同時に身構える。きっと二人の脳内には前日まで叩き込んだ質疑応答の内容が駆け巡っているのだろう。

 だが無駄だ。

 私が質問するのはジェンキンスでも、サドラでも、ましてや二人同時でもない。

 私の武器、それはあくまで────演説だ!

「"全国民"に質問する!!」

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