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 予想だにしない言葉に反射的に目が丸くなってしまった。そんな私の表情が面白かったのか、レイモンドは声を上げて笑った。

「その反応、当たりだね?」

「……何故わかった?」

「ヒトラーさんに言われた通り思案してみた。あの人達を奮起させたいならグランドの端で睨んでたほうが効果があるはず。だったら何でここで本を読んでいるのか。そこで僕も走っている立場になって考えてみた。そしたらヒトラーさんの隙を覗ってる自分がいた」

 どうやら私はこの男をまだ過小評価していたらしい。……これは扱いようによっては危険だな。

「それで? そこで終わりではあるまい?」

「……この目的は昨日と同様、前例を作ることだ。今度は罰に対しての」

「よく見抜いたな」

 そう、罰を与えるという言葉だけでは人は恐怖を感じない。恐怖は一度体感してこそ最も力を持つ。

 今走っている奴らは互いの限界を探り合っている。恐怖を感じていないとは言え体感したくはない。しかしあの訓練は体力が顕著に表れる。故に脱落が避けようにないと思えば、人は簡単に断念する。

 その最初の一人こそが祈念すべき罰の前例となる。

「おや? 話に集中しすぎたか。早速一人姿がないな」

「よくわかるね」

「わかるとも。よく私に意見を宣う喫煙者だからな」






「そこで何をしている? エファル・ヘッジ」

「なッ――」

「その体の震えは私の言葉に対する驚きか? それとも訓練をサボり、喫煙するという規則を二つも破ったことに対しての恐怖から来るものか?」

「いや、これはッ……」

 なるほど、その二つに対してか。どちらか片方だけならばまだ言い訳の一つでも出るのだろうが、煙草を隠そうともしない所を見ると茫然自失となっているらしい。

「来い。逃げるなよ」

 念のため釘を刺したが、必要はなかったか。あのふてぶてしい男が顔面が蒼白になるとはな。

 既に整列させた志願兵の前に立ち、哀れみの視線に晒される様から来る羞恥心は全裸にも等しいだろう。

「諸君、非常に悲しいことが起きた。皆の前に立っているこの男、訓練をサボり喫煙をするという規則を二つも破る行いをした。誠に遺憾だが、これに対し私は罰を与えねばならない。でなければ規則が機能しなくなる上、厳守している君達にも示しがつかない。エファル・ヘッジ、私の言い分に何か異議はあるか?」

「……ありません」

「当事者本人が私の言葉に間違いはないと認めた。まさか諸君等に異議のある者はいるまいな?」

 無言の肯定。当然だ。他の者はただの傍観者。ここで手を挙げられる者など――

「――碓かアジフェリオ・ヴァッツァだったな。君は私が何か間違いると言うのか?」

「……確かに彼は規則を破りました。しかし煙草にまで罰を与えるのは如何なものでしょうか。確かに煙草は体に悪いです。しかし止めるにしても唐突ではないですか!? せめて期日を設けるべきです!」

「なるほど、いきなり止めろというのは酷だということか。確かに一理ある。煙草は依存性があり、止めたくても辞められない者もいるくらいだからな。よろしい、期日を設けよう。今日から一月以内だ」

 アジフェリオの顔から笑みが溢れる。それほど嬉しいか。

「ただし彼はまだ規則で禁止している時に喫煙した。故に罰はそのままだ。彼を十度鞭で打つ」

 私は何も友の減刑を認めたわけではないのだがな。

「そんな……!」

「分かっている。私も鬼ではない。私に具申した君の勇気にも免じて、彼に鞭を振るう役目を君に与えよう」

 アジフェリオをエファルの友人だろう。それもかなり親しい間柄。

 あの緊迫感の最中私に意見を述べる行為など余程の親交がなければ出来ない行いだ。頻繁に二人で会話をしている姿も目にしているしな。

「……できません!」

「私はやれと命じているのだが?」

「それでも、できません!」

「意味が分かっているのか? 拒否すれば命令違反で君も罰を受けることになるのだぞ?」

「構いません!」

 やはりそう簡単にはいかないか。寧ろ人間らしい行動と言えるだろう。

 故に想定内。だからこそ理性を”壊しやすい”。

「どうやら君は興奮しているようだ。いいか、冷静に考えたまえ。彼の鞭打ちは決定している。君が拒否した所で別の誰かが鞭で打つだけだ。それも二人揃ってな」

 一瞬目が泳いだな。私が言っていることが事実だからこそ何も言えまい。

「世の中には数多の趣味嗜好を持つものがいる。中には他者に痛みを与えることを喜びとする者もいるだろう。そんな者が君の友に鞭を振るったらどうなる? 皮膚が破けるどころか、肉が剥がれ落ちるかもしれない。十度振るえど、私の制止も聞かずに振り続けるかもしれない。そうならないためにも、君が鞭を振るってやることこそが友情ではないか?」

 目は最早留まることを知らないほどに俊敏に動いている。落ちたな。

「君と彼は親友だろう? 君が善意から鞭を振るうことも彼は分かってくれる。何よりこれは君の意思ではない。私の”命令”によるものだ。責められた所で私に命じられたと”責任転嫁”をしてしまえばいい」

 人は他者からの命令されればいともたやすく理性を無くす。何しろ命じられたの一言で言い訳ができるからだ。

「ではもう一度”命令”する。アジフォリオ・ヴァッツァ、エファル・ヘッジを十度鞭で打て」

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