表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/36

規則

「本日より規則を定める。レイモンド、例のものを」

 レイモンドがプリントを一人一人に配っていくが、反応はそれぞれだった。

 移動するレイモンドを眺める者、緊張から私を凝視し続ける者。だがその尽くはプリントに書かれた内容を理解した途端絶句していた。

「そこに書かれた規則を破った場合、問答無用で罰を与える」

「あの、ちょっといいですか?」

「なんだ?」

「独断での戦闘行為を禁ずるとか自堕落な行動を禁ずるってのはわかるんですけど、煙草を禁ずるとか人の趣味嗜好にまで規則が有るのはちょっと……」

「煙草など自身の体にも良くなく、周りにいる人間にまで害が及ぶ。我々はこれから国民のために働くのだ。毒を撒き散らすなど言語道断だとは思わないか? それでも我慢ならないというのであれば、ここから立ち去るがいい。私は引き止めているわけではない」

 人間は少なからず捻くれた所がある。そしてここに集った者達は皆私を慕う者達。その私にここまで無関心に去っても良いと言われれば、少なからず苛立ちを覚える。結果意地が邪魔をする。

 そして煙草という飽く迄趣味嗜好。それくらいならばという心の油断、バレないように吸えばいいという慢心。今ここで去れば叱咤を受けるかもしれないという不安。その幾つもの要素が去ることを選択肢から排除する。

「他に質問のあるものはいるか? ……いないようだな。では訓練に移る」

 有無を言わせないためには話を切り替え状況を作ってしまえばいい。それだけで人間は口を閉じる。

「内容は単純だ。またグランドを走ってもらう。だが安心するがいい、また何十周も走らせるわけではない。十周走れば昼食まで休憩しても構わない」

 一時的に起こったざわつきが、直ぐに平静を取り戻す。どうやら昨日のランニングは相当堪えたらしい。景色の変わらない単純作業であれば当然か。

「本当にそれだけですか?」

「ああ、それだけだとも。ただしこの六十五キロのリュックを背負いながらだがな」

 落ち着きを取り戻した集団が再び喧騒に包まれる様は見ていて面白いな。

「あの、もしかして何かの冗談――」

「冗談に見えるか?」

 言葉を意図的に被せるということは余計なことを抜かすなという意味だと人間は無意識の内に知っている。この世界でもそれは例外ではないようだ。

「さて全員にこれを配る、と言いたい所だが……ウェルズ、君は怪我人だ。今日は見学でもいいが、どうする?」

「……走ります。走らせて下さい!」

「だそうだ。怪我人の彼が走ると言っているのだ。まさかこの中に挑戦もせず逃げ出そうという”自堕落”な者はいるまいな?」

 気力のある者がいるというのは便利なものだ。否応なしに比較され、劣等感に苛まれ、私からの低評価を恐れてくれる。

 ウェルズが我先にとリュックを取り、他の者もそれに続くように走り出した。ここから何人残るか見ものだな。

「さて、レイモンド今日も持ってきたか?」

「ああ、一応持っていたけど、でもいいのかい? 昨日の歴史書だってまだ読み終わってないんじゃない?」

「何を言っている? あの程度の書物に二日も費やすなど時間の無駄だ」

 この国も文化、思想、群衆心理は理解した。次は一人一人の思考回路だ。この世界にも心理行動を分析した書物はあるようだが、どの程度のものか。

「ヒトラーさんって速読だよね。どうやって読んでいるんだい?」

「私は効率的に読んでいるにすぎない。逆に聞くが君はどうやって読んでいる?」

「どうやってって、普通に一ページめから」

「やはりな。私から言わせれば無駄だらけの行為だ」

 レイモンドが案の定頭の上に疑問符を浮かべる。察するにレイモンドはさほど読書をしない。物事を効率化するには繰り返す必要がある。さほど取ったことのない行動を効率化しろという方が酷だろう。

「読書でまず見るべきは目次だ」

「目次? 今まで読み飛ばしてたけどそんなに重要なの?

「読書とは知識の補填だ。知っている事を学んだとしても意味が無いだろう? まず目次で見るべき情報の取捨選択をする。そして足りない知識を補い、思案し、自身の蓄えとする。それが読書だ。最初から最後までただ読むなど馬鹿のすることだ」

「でも知識は付くんじゃない? ほら、再確認という意味でもさ」

「確かに大量の本を読み、知識が膨大なやつはいる。しかしそういう奴らは大抵知識の使い方を知らない。金も知識も同じだ。使って初めて価値が生まれる」

 眉を寄せ、首を傾げている。どうやら納得ができないようだ。

「例えば瓶の蓋が開かない時、君はどうする?」

「そりゃ蓋をお湯で熱するけど」

「それは何故だ?」

「熱で金属でできた蓋が膨張して取りやすくなるからだろ?」

「そう、普通ならばそうなる。だが知識だけあり、使い方を知らない者は違う。熱膨張という単語は知っている。瓶を熱せば開くことも知っている。しかしその二つの知識が繋がらないのだ。故に瓶ごと熱湯に突っ込み、このままでは握れないと言い冷水で覚まし、挙句の果てに蓋が開かないと困り果てる。そんな思考能力が欠如した人間にならないためにも、知識を付けた後、自身で思案することが大切なのだ」

「なるほどね。にしても目次かぁ。これは盲点だったな」

「思考することも大切だが、行動してみなければ見えないことも有る。まずは本を手に取り読んでみろ。私が教えた方法でな」

 素直な人間はいい。人のアドバイスを受け、自身の糧とし、着実に成長する。人類皆素直であればどれほど楽か。

「そういえば今日は態々皆から見えるところにいるのは何か理由があるのかい?」

「こちらから見えているということは向こうからも見えているということだ。私の姿が見えていれば殆どの者が奮起し、手を抜こうとは思わないだろう」

「どちらかと言うとサボってほしそうに見えるけど? その為に本を読んでいるんだろう?」

瓶の話は父の実話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ