目的
飴と鞭とはよく言ったものだ。
鞭で打たれた人間に飴を差し出せばいとも容易く懐柔できる。それが例え鞭で打っていた張本人であっても。
労せずして死兵が手に入ったのだ。この作戦は上々と言える。
「ヒトラーさん!」
「レイモンドか。どうした?」
「もう日も暮れたし、全員寮舎に行かせたけど、それで良かった?」
「ああ、問題ない」
私と並ぶ様に歩いていたレイモンドは突如として立ち止まった。まるで何か悩んでいるかのように視線を下にして。
「どうした?」
「ごめん、今のはただの口実。本当はそれでいいっね分かってた。ねぇ、教えてくれないかな? 何故ヒトラーさんは彼を落とさなかったの?」
「あれは体力を見る事が主たる目的ではないからな。その点彼の忠誠心は本物だ。それを無下にできるほど私は冷酷ではないよ」
「嘘だ」
「――何?」
「何で全員終わってから報告って形にしたの? 忠誠心を見るためだったら各自報告にすべきだ。だけどヒトラーさんは態々全員で報告という非効率的な方法をとった。何かもっと別の裏があるんだろう?」
頭が回るとは思っていたが、ここまで余計な詮索をし始めるとは。
どうする? このまま泳がせるのは危険か?
「君の過去に何があったかは知らないし、詮索するつもりもない。だけどいろんな話をして、いろんなとこを見て回って、短い間だったけど、寝食を共にしてきたじゃないか。そんなに僕が信用出来ない?」
芝居か? ジェンキンス辺に唆され、私から情報を盗もうとしている可能性もあるが、そう簡単に寝返るとは思えない。
「嬉しかったんだ。取材の時、君と僕だけの秘密だって言われた時、やっと信用された気がして」
いや、これは……。
「レイモンド、私の目を見ろ」
レイモンドは私の目を一切逸らすことなく見返してきた。しかしこれで安心するほど私は馬鹿ではない。
人の嘘は目に出る。が、その事を知っている者は逆に見返してくるのだ。だからこそ帰って不自然とも取れる。
「君は誰かに寝返ってはいないか? ジェンキンスやサドラに唆されたのではないか?」
「は? 僕が? 何で?」
「噂を聞いたのだ。君がジェンキンスやサドラの所へ出入りしていると」
「僕が!? そんなわけない! ジェンキンスさんの所へは最初の取材の時だけで、サドラさんの所へは行ったことすらない!」
目を逸らすことなく、瞬きの数にも変化はない。という事はこれは本心か。
ということは、だ。
「すまない、嘘をついた」
「え、嘘?」
「ああ、この事は誰にも漏らされる訳には行かないのでね。詫びと言っては何だが、部屋で今回の訓練から生じる真の目的を話してやる。但しこの情報は誰かに漏れれば私今まで積み上げたものが一瞬で崩れ去る。君は誰にも漏らさないと誓えるか?」
「誓うよ、神様じゃなくて、君自身に」




