興味
街の大通りへ行くと幾ばくか友好的に手を振ってきたり、話しかけてきたりする者も多い。
しかし人通りの少ないところへ行くと一転、まるで興味がなさそうに私を一瞥する者達が大半を占めていた。
「支持率からしてもう少し声を掛けられても良さそうなものだけど、意外と少ないね」
「当然だ。人間は周りの空気を読む生き物だ。大通りの様に人々が喧騒に包まれていれば私に話しかけようとも不自然ではない」
実際問題話しかけづらい人物もいるだろう。しかし逆に当然とばかりに話しかけてくる者もいる。
そしてそのような人物が現れれば釣られるように行動に移すことは容易い。
「だけど大通りから外れると人が少なくなる。=率先して話しかけてくる人もいなくなる、か」
「だが説得するには好条件だ」
軽動車と呼ばれた三輪の客車の様な乗り物を降り、道の端で煙草をふかしている青年の目の前に立つと、朧気に景色を移していた目を私へと移した。
「初めまして、私の事をご存知かな?」
「あー……あぁ、この前の選挙の」
「覚えてもらえて光栄だ」
男は私を一目見て直ぐに視線を横へとずらした。即ち私に興味が無いということ。
ならばまず私に興味を持たせねばな。
私はまず正面ではなく、横に並んだ。
説得するには正面がいい。私だけを見てくれるからだ。
しかし説得の前に私に親近感を感じさせねばならない。故に私は横に並んだ。同じ景色を見ているという親近感を湧かせるために。無論それだけならばほぼ意味が無い。しかし小さな共通点が重なれば人は無意識のうちに好意を抱き始める。
「君はこの街が好きかね?」
「別に。ガキの頃から似たような人達に変わらない景色。今更興味なんか湧かねぇよ」
「そうか」
見ず知らずの人間二人と中途半端に途切れた会話。普通の人間はまず間違いなくこの空間が居心地悪く感じる。
しかも私の外見は美しい女性ときた。この男が同性愛者でも無い限りは下心から会話を切り出すだろう。
「……あんたはどうなんだ?」
「私か? そうだな……好きだった」
「だった?」
「そう、過去形だ。純粋無垢な子供の頃はとても魅力に溢れた街に見えた。だがどうだ? 大人になるにつれ知識が増え、汚点が見えるようになり、気がつけばこの街が嫌いになっていた」
過去を思い出しているようで、男は手に持った煙草の存在を忘れて遠くを眺めている。この男も私の言葉に同意できるのだろう。
尤も人間は過去を美化する。この男だけでなく誰しもが子供の頃は輝かしく思えるだろう。
「確かに、そうかもな」
「私はこの街を、この国を良くしたいのだ。子供から大人まで皆が笑顔でいられる国にな」
政治に興味のない人間に複雑な政策の話をしても聞き流されるだけだ。頭の悪い人間にはこれくらいがわかりやすくていい。
「その為にも私に力を貸してもらいたい」
「力を貸すって、何をすりゃいいんだよ?」
「簡単なことだ。投票さえしてくれればいい。あとは私がやる」
「それだけ?」
「そうだ。何も難しいことはないだろう?」
複雑で労力を必要とする要求をすれば人は断る。しかし一つ二つ簡易な要求であれば人は容易く了承する。
「……あんた、名前なんだっけ?」
「アドルフ・ヒトラー。君たちと共にこの国を導く者だ」
「ハハッ、分かった。選挙ではあんたに投票するよ」
「それはありがたい。あぁ、あと強いてお願いするのならば知り合いにもお願いしてもらいたい。できればで構わないがな」
「分かった」




