要求
「では協力するにあたって幾つか質問してもよろしいか?」
「何なりと! とは言え分かる範囲内しか答えられませんが」
「現在共労党が確実に確保できるといい切れる議席は幾つか?」
「十二です。可能性も入れれば二十」
少々心許ないな。二年後三年後となれば話は別だが、今回の選挙で少しでも議席を確保しておきたい。
「党員の数は?」
「現在七三名ですな」
「では党員番号を五百番台からにすべきだ。その方が党員が多く見える」
取り敢えずはナチ党に在籍していた頃の経験を活かせば問題はないか。
しかし如何せん時間が足りない。打てる手は打っておかねば。
「何か必要なものなどはありますかな? 大抵のものは手に入れてみせましょう」
「では何か街を巡回する為の移動手段。拡声石なる石を」
「巡回? わざわざ街を?」
「そうだ、これこそ大切なことだ」
「そうですか。そこまで言いきるのであれば用意いたしましょう。他には?」
「追々必要なものも出てくるだろうが、一先ずはそれだけだ」
「本当にあれだけで良かったの?」
ホテルに戻りレイモンドが口にしたのは不満からくる質問。荷物を置きもせず、ベッドに腰掛け文句を言う当たり、かなりの不満が胸中を渦巻いているようだ。
「軽動車と拡声石が必要なのはわかるけど、高級ホテルとか泊まれたのに」
「やつが用意した住処など怪しくて安眠ができん」
「だとしても──」
不満が止まらないレイモンドの口に、私は人差し指を押し当てることで静止した。
この男は他人が評価しているよりもかなり聡明だ。これだけで察しがつくだろう。
「何か作戦があるんだね?」
私は小さく頷くとレイモンドの横に腰を下ろした。
「君は金を貸してくれと言われればいくら貸す?」
「親しい友人で百マジコくらいかな?」
「ではその親しい友人に十マジコ貸してくれと言われたら?」
「そりゃ貸すさ」
「では後日また十マジコ貸してくれと言われたら?」
「貸すね」
百マジコまで貸すと言ったのだ。当然の返答とも言える。──ここまでは。
「ではそのまた貸してくれという台詞が十一回繰り返された時君は貸すと思うかね?」
「それは──」
「──言い切ろう。君は貸す。十度も繰り返せば君は貸すことが当たり前の感覚になっている。そしてその麻痺した感覚はあと一度くらいならという甘い考えを誘発させる」
レイモンドはは黙って頭の中でシュミレーションをしてハッと顔を上げた。私の言葉をヒントに気がついたようだ。
「それで要求しなかったんだ」
「その通り。一度に大きい要求するよりも、幾度も小さい要求を繰り返した方が利益が大きい」
他にも恩義の希薄化や相手にこちらの意図を掴ませないための細分化などといった意味合いもあるが、言葉にせずとも時間をかければその答えにも辿り着くだろう。
「では行くか」
「え? どこへ?」
「言っただろう、街の巡回だ」
「今から!?」
「当然だろう。時間は有限だ。時には一秒遅れるだけで一年の損失へと繋がることもある」




