開票
「――きて! 起きてヒトラーさん!!」
心地よい睡眠を外部からもたらされる激しい振動によって阻害される。その振動を起こす原因がレイモンドである事は声を聞かずとも分かっただろう。
「……どうした?」
「どうしたじゃないよ! 開票の結果が出たんだよ!」
あぁ、もうそのような時刻か。すっかり寝入ってしまったな。この世界にもだいぶ慣れ、これまでの疲労が一気に出たのかもしれない。
「それで、どうだった?」
「凄いよ! 無名状態での立候補者だったのに支持率が十三%の三位だ!」
「まぁそんなものだろう」
「あれ? 喜ばないの?」
「何故? その十三%は先の演説でいとも容易く支持した者達だ。そしてこれからは残りの支持しなかった者達を説き伏せていかねばならない。だとすれば国民の十三%が味方についたことを喜ぶのではなく、八十七%が味方にならなかったことを嘆くべきだ」
自身の予想していた反応との隔たりからレイモンドはあからさまに戸惑っている。
不思議な事だ。相手を貶す言葉は間欠泉の如く浮かぶが、慰める言葉となるとまるで思いつかない。
「これからどうするの?」
そそくさと準備を始めていると、言葉に詰まったレイモンドが捻り出した単純な疑問。
確かに説明なく、理解もしていなければ浮かぶ疑問なのだろう。何せ私は昨夜政権を取ると宣言したのだからな。
「先ずは政党に所属する。今の私は後ろ盾がないからな。私は信頼出来る人間だと誰かに後押ししてもらう必要がある」
「そうなると支持率の高い民選党がいいけど……」
「あぁ、昨夜私は罵詈雑言を浴びせた。故にそれ以外のそれなりに名が知られつつ、さほど支持率は高くないところが望ましい。私はさほど政党に詳しくないからな。レイモンドはどこか心当たりはないか?」
「……ある。一つだけだけど」
やはりこの男をそばに置いていたのは正解だな。興味が無いにしてもそれなりに政治に精通している。
「君が当選したから、必然的には落選したエルフ族が主に所属する政党、共労党だ」
「よくぞ来てくださいました! 共労党党首ラミド・メーテッドです! どうぞよろしく!」
ひどく煩わしい大声に、私の手を握りつぶさんとばかりの握手。エルフ族というのは老いると加減というものを知らなくなるのだろうか?
「さぁさ、お座りになって! 美味しい静茶でも」
綺麗な装飾がされた茶器に香りだけでそれなりの値段だとわかる紅茶らしき茶葉。街では話にも聞かなかった茶菓子。
加えてぶくぶくと豚のように肥えたこの党首。
おそらく議席を確保した党員や企業から献金でも集めているのだろう。腐敗が凄まじいな。
「昨夜の演説、このラミド感激いたしました! 聞けばヒトラー殿は我がエルフ族と人族のハーフだとか。所属政党をお探しならば是非ともこの共労党にお力添えを!」
「無論だ。今日はその為に来た」
肥えた豚かと思ったが、とんだ狐だな。曲がりなりにも党首まで上り詰めたのだ。愚かではあるが馬鹿ではない。
先程この男は私がエルフ族とのハーフであるという設定を了知していた。酒場で話した一言を。即ちそれだけの情報網を持っているということ。
そして何故私にその情報網の存在を告示したか。
これは警告だ。不穏な動きを見せれば即座に潰すという警告。
分かっている。分かっているぞ? 私がその事を察する事さえ想定の内なのだろう?
我々は味方ではない。敵同士だが、同じ通過点までは手を取り合うだけだ。
故に互いに笑みを浮かべる。同じ思いを胸に秘めながら。
──骨の髄まで利用して捨ててやる!




