演説
街の広場には埋め尽くさんとばかりに人が集っている。選挙に興味を無くしている若者が多いと酒場のご老人は言っていたが、それでもこれだけ人が集まるという事は中々に人々の関心は薄れないらしい。
「あの中央の演説台が見える? あそこでそれぞれ立候補者が演説するんだ。立候補するのは誰でも出来るからね。中には恋人にプロポーズする人もいる」
雰囲気は演説というよりも祭りと例えた方が相応しい。広場の端にある投票所らしき建物がなければ誰もが勘違いを起こすだろう。
「お、始まるよ」
レイモンドの声に誘導され、前方にある演説台を見れば昨日機嫌を斜めに傾けた青年が立った。
ただそれだけで演説台の前に陣取っている女性陣から黄色い声が上がる。
「随分と人気なのだな」
「当然さ。今回の選挙はジェンキンス・ブロッサム一択って言われてる程なんだから」
「それはそれは、とんでもない人物を敵に回してしまったものだ」
一拍おき、ジェンキンスが石らしきものを口に近ずける。いや、らしきではない。あれは石だな。恐らく音声を増幅させる石。
「──初めまして、という方もいるかもしれませんので、自己紹介からさせて頂きます。民衆選択党党首を務めさせていただいております、ジェンキンス・ブロッサムです」
甘い顔に透き通る美声。目に見える女性の殆どは酔いしれている。
また男性は違うかといえばそうでもない。溢れ出るカリスマ性が魅了している。
「長々と話しても聞き飽きるだけなので、単刀直入に言わせていただきます。もう一度だけチャンスを頂きたい。今まで我が民選党は大した功績もなく、支持率は低迷する一方。しかしもう一度、もう一度だけでいい。チャンスを頂きたい。私が掲げるのマニフェスト。経済の発展、財政難の脱却。この苦難を我が名の元に脱却すると誓います。贅沢な願いかも知れませんが、他の政党に投票する前に是非ご一考願います。以上民選党代表ジェンキンス・ブロッサムでした」
「……………………今ので終わりか!?」
演説台を見れば拍手喝采を受けるジェンキンスの後ろ姿が見えるのみ。
「どうしたのいきなり」
「今のは開会の挨拶ではないのか!?」
「いや、普通にジェンキンスさんの演説だと思うけど」
「演説!? 今のがか!? あんなもの希望を添えただけの自己紹介ではないか!」
よもや時間制限があるのか? しかしそれにしても短すぎる。
私の予想とは裏腹に、どうやらジェンキンスは至って真面目に演説をしたらしい。それもかなり上手にだ。
その他党首の演説紛いのものは聞くに耐えない稚拙なものばかり。また飛び入りの者達は演説をする気すらなく、告白や宣言ばかり。将来の夢を語る者までいた。
競争率の低い選挙を繰り返していた弊害か。そういえば私の元いた世界の演説も昔は道端で4、5人に話す程度だったな。
「僕はそろそろ街頭インタビューとか出口調査に行くからしばらく席を外すけど、大丈夫?」
「問題ない。私も暫くすればここを離れる」
「ならどこかで待ち合わせする?」
「演説終了後目立つ場所に立っているから、暇があれば迎えに来てくれると有難い」
「了解」




