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超高層ダンション  作者: カフェコーラ
2/2

日常

 少年は昔から勘が良かった。

 彼が五歳の頃。

 祖父の家で古いおもちゃを見つけそれを譲り受ける。

 そしてそのおもちゃを彼は大事にした。

 例えおもちゃを卒業し、他のおもちゃ全て捨ててもそれだけは手放さなかった。

 その後、そのおもちゃは五十年前に製造中止になったうえ販売年月はたった二週間というマニアにとってプレミア品だった事が発覚。

 当時中学生の彼はそのおもちゃを五百万で売る。

 


 彼は起業する。

 中学生ながら社長となる。

 彼は、経営の9割は秘書に任せている。

 だが彼が言ったものは必ず売れるという実績があり、社員は皆社長を認めている。

 いつしか、彼の会社は世界で有名になり、総資産5000億越えという大会社の仲間入りを果たす。

 これが『明智 総』の伝説、その一部である。


 

 

 現在、総は高校生である。

 総は帰り支度をしていた。

「ソウ君帰ろうー!」

 教室の外から女子の声が聞こえる。

「あぁ。ちょっと待ってろ。」

 総は静かに廊下に出る。

「待たせたな。」

「待たされた。んじゃ帰ろうー。」

 総は歩幅を合わせ女子の横を歩く。

「本当ミサちゃん可愛いよなー。」

「あぁ。あいつが付き合ってなければ絶対狙ってたわ。」

 通りがかった男子二人が話す。

「ふん、まぁこの才色兼備文武両道象箸玉杯な俺の魅力には敵わないわな。」

 聞こえた総が誇らしく言う。

「えー、ソウ君にそういう魅力感じないけどな。」

 それをミサがバッサリと切る。

「なっ…てかいつも言ってるだろ。俺はソウではなくスベルだ。世界を総べる男と言う意味のスベルだ。」

 ダメージを受けた総が露骨に話す内容を変える。

「えーだって、スベルってパッと聞いてもなんかいい名前じゃないじゃん。ギャグに滑ってるみたいだし。」

「ふん。確かに一般人がそんな名前だとそうなるな。だが周りを見ろ。」

 ミサは言われた通りキョロキョロと見渡す。

「公園で子供達が遊ぶゲーム機、待ちゆく人達が通信用に使うイヤリング、あそこの運動してる女性が使ってる姿勢矯正スウェット、少し周りを見渡せば我が社の商品であふれている。それも世界中にだ。これは総べているとは言わないか。」

 総は手のひらを太陽にかざす。

 そして何かに気づいた総はそのポーズを保ったままスマホを取り出し左手で自分を撮る。

 撮った写真を見た総はうっとりとする。

「あぁ。完璧だ。この一見イタい体制も美しくなってしまうのはやはり俺だからなのか。」

「今日のソウ君絶好調だねー。」

 ミサはにっこりと笑う。

「って、あ!この写真よく見たら私たちの家見えるね。」

 写真をチラッと見たミサが背景の奥の方を指さす。

「本当だ。まー65階建てだし見えてもおかしくはない。」

「そう考えると本当に高いマンションだよねー。」

 ミサは遠くのマンションを見る。

「日本一高いマンションだからな。」

「横浜のビルには勝てないけどね。」

「あれはランドがおかしい。」

 



 総達は新宿の超高層マンション『ヴェルスカイタワー』の最階層、65階に住んでいる。

 総は親元を離れ秘書と二人暮らし、華上院ミサは一人暮らしをしていた。

 そのマンションに住む住人は金持ちが多く、同じ高校に通う親元を離れた学生という運命的な共通点が彼らが仲良くなるきっかけだった。

「それでミサちゃんとどうなんですか?」

 6503号室。キッチン。

 メガネの女性がニヤニヤしながら総に問いかける。

「何のことだ。あいつは華上院家の一人娘だから仲良くしているだけだ。」

 総はコーヒーを淹れる。

「えーそんなこと言って。絶対ミサちゃんの事好きでしょ。」

「なぜそうなる。あいつに友情以上の感情は無い。」

 総はコーヒーに塩を沢山入れながら答える。

「ったくこの子は可愛いんだから。」

「一応俺はお前の上司なんだが。」

 総はコーヒーを一口飲む。

「ぶはっ!?なんだこれは!?」

 総はコーヒーを思わず吹く。

 しょっぱく、飲めたものではなかったのだ。

 その様子を見て女性はゲラゲラと笑う。

「社長は相変わらず動揺隠すの下手ね。コーヒーに塩入ってるよ。」

「くっ、相変わらず沙也加さんには敵わないな。」

「社長が勝手に自爆してるだけだよ。」

 沙也加はクスクスと笑い、総の頭をなでる。



 信楽沙也加は総の秘書である。

 総の母の姉の娘、つまり従姉で、総の才能に目を付け起業を提案した張本人である。



 総はこの後経営について姉から学び、寝る。

 起きたら学校に行く。

 彼の日常はその繰り返しだった。

 だが次の日、その日常は突然崩れる。

 正確には、彼らが寝てる間に崩壊は進んでいた。




(ん…何だ…?)

 総はベッドの上で不思議な感覚に陥っていた。

 目が覚めたのに目が開かないのだ。

(腕も上がらない。これはナルコレプシー、金縛りというやつか。)

 彼は身動き一つ取れなかった。

 何とかして起きようと五分間ぐらい格闘していると景色が広がる。

(目が開いたか。)

 目が開いた彼はそのまま起き上がろうとする。

 だが彼が起き上がろうとする前に体は勝手に起き上がる。

(!?) 

 彼は動揺する。

「…んん?ここは…?」

 そして彼の体は勝手に喋り始める。

 そして自分の意思はなくベッドを触り始める。

(どういうことだ…俺が喋ろうとする前に俺が話し始める…。まるで誰かに乗っ取られたかのような…。)

 総は非科学的であり得ないと思いながらも可能性として考える。

「ここが異世界か…。」

 彼がそう喋った時、総は可能性が確信に変わる。

(誰かが…俺を乗っ取ったのか…?)

 そして彼は自分に話しかけようとする。


『お前は誰だ?』

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