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超高層ダンション  作者: カフェコーラ
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プロローグ

 赤い雷雲。紫の毒沼。黒い食人植物に囲まれた塔。そこは世界を滅ぼさんとするモンスターの王がいた。

 現在、王は塔の頂上で人間の勇者と戦っていた。

 王は王座に座ったまま、黒い炎で勇者を燃やす。

 負けじと勇者は光を纏った剣で炎を切り王座に向かう。

 王は指パッチンし、自分の闇魔法で作った部隊を生み出す。

 部隊は勇者を殴る蹴ると袋叩きにする。

「どうやらここまでのようだな。」

 王は再び指パッチンして今度は部隊を消す。

 自分の前に膝をつく勇者を見て王座を立つ。

 切傷、火傷、かぶれ、痣、腫れ、出血と勇者の体は既に立ち上がるのも困難な程ボロボロだった。

「…君のレベルを見ればどれほどの戦いをしてきたかは分かるよ。だがなぜそのまま来た。もし万全な状態で来ていれば私は危なかったのだがな…。」

 本来王は勇者が万全だろうが何だろうが関係なく倒せた。

 だが勇者に敬意を表し、あえて弱気になった。

「…けっ!俺はお前に戦いを挑んで負けた。そんだけだろ?そこにもしとでもとかはいらねーよ。」

 しかし勇者は敵に優しくされるという屈辱だけは避けようとした。

 王は唖然とし、そして笑った。

「…ふふふ。まぁそういうな。私は君が気に入った。」

 王は勇者の頭に手を乗せた。

「何する…。離せ…!」

 勇者は剣を王に向かって突く。

「おっと。まだこんな元気が残っていたのか。」

 だが王は不意打ちにも関わらず、たやすく回避した。

「っ…!!」

 勇者は心が折れた。

 こいつは倒せないと。

「…なぁ勇者。私から一つ提案がある。」

「あ?…なn…!?」

 勇者は王の言葉の意味を聞こうとするがすぐにその口は閉じる。

 正確には塞がれたのだ。

 女王の口づけによって。

「…ん。なぁ勇者。私はお前に惚れたよ。」

「なっ!?」

 女王が顔を離すと勇者は咄嗟に遠ざかった。

 勇者は口元に手を当て、自分のステータス情報を見る。

「おいおい。私は呪いなど与えてない。まぁ口づけは一種の呪いという考えもあるがね。」

 女王は勇者の焦燥な姿に思わず笑う。

「まぁそのステータス画面を見てほしい。君の体力は回復していないかな。」

 勇者はステータス画面を言われた通りに見る。

 確かに体力は回復されていた。

「…そういやお前から遠ざかる事に何の苦も無かったな。だがどういう事だ?」

 勇者は女王を睨む。

 勇者にとってその行動はこの世で最も嫌いな行動だったかもしれないからだ。

「これは余裕って事か…?」

「あぁそうだよ。」

「っ!?」

 敵に舐めた事をされる。

 勇者がこの世で一番嫌いな事だった。

「君との戦闘なんて余裕過ぎるんだ。余裕過ぎて君に恋をしてしまった。」

 王はまた勇者に近づき、そして耳元でそう囁いた。

 あまりにも素早く、勇者は目で追えなかった。

「さて提案というのは私と結婚しないかという事だ。」

 勇者が先ほどまで女王がいた方向を見た時には既に後ろにいた。

 勇者は冷や汗をかく。

「もし私と結婚すれば君は助かる。それどころか権力も与えよう。君はモンスターに人を襲わせる、又襲わせない権利が手に入るんだよ。」

 女王は勇者の首元に手を回す。

 触れることで勇者は感じ取った。

(俺は…攻撃しようものなら首が消し飛ぶ…!)

 勇者は恐怖で息が荒くなる。

「つまりこれは双方得するんだよ。私としては受けてほしいね。」

「…何でだ?」

「ん?」

「俺にそんな権利を渡す理由は何だ?」

 勇者は当然の疑問を口にする。

「そんなの決まっているだろう?メリットを出さず交渉する愚かな行為を王がするとでも?」

 そんなおかしなことを言っているかねと言わんばかりな表情で王は即答する。

「そこまでして俺を手に入れたい理由は何だ…?」

「何度も言っているだろう?惚れたから。それ以上もそれ以下も無いよ。」

「それが分かんないな。何故こんな状況で惚れるんだ。」

「君が強いから。」

 勇者はしつこく質問する。

 だが女王は勇者と話すこの時間が愛おしく、気にせず答え続ける。

「お前の方がどう考えても強いだろ?」

「いやいや、武力や魔力とかそういう話じゃないよ。そしたら私は恐らく最強だからね。」

 勇者は心から賛同していた。

 こいつには誰も勝らないだろうと。

「君は誇り高く決して負けない。けど強弱はしっかり見極めるんだ。」

 女王は興奮する。

「強弱が分からずもがくのはただただ愚かだ。でも君は見極めたうえでもがく。これは強さだ。私に持ってるか分からないね。」

 女王は無意識に、これまでの生涯で最も楽しくなっていた。

 ただ好きな人の好きなとこを言っているだけだというのに。

「…どうやら、まじみたいだな。」

 勇者は思わずため息をつく。

「そう。まじ、なのだよ。」

 女王は気持ちが抑えきれなくなり答えをできる限り早く聞きたくなる。

「さて、そろそろどうしたいか教えてくれ。私に結婚の祝福を与えるか、失恋の絶望を与えるかを。」

 勇者は深呼吸する。

「いいよ。できる限り落ち着いてて。でも攻撃はしようと思わないでね。それは冷めるかもしれないから。」

 勇者は頭の中で十秒数える。

「…俺は決めたよ。」

 勇者は振り向き女王の顔を見る。

 勇者は気が付くと恐怖が消えていた。

「本当か!聞かせてくれ!」

 女王は本当に期待していた。

 どんな答えが返ってくるかを。

 それが例えフラれるとしてもだった。

「ごめんな。女王。」

 女王はその言葉を聞いたとき頭が空っぽになった。

 心が苦しくなると同時に、思ったよりショックを受けた事になぜか嬉しさを感じ、自分が分からなくなっていた。

「…俺の勝ちだ。」

 だが勇者のその後の言葉は予想と違うものだった。

「…え?」

 女王は思わず唖然とする。

 その刹那、塔全体が強い光に包まれる。

「な、これは魔法か!?」

 女王はあまりにも計り知れない魔力にテンパってしまう。

「人がこんな魔力…いや、魔法陣を使えば可能か…次にこの魔力の感じ…相手をその場から動けなくする捕獲魔法いやそれだけではない…転送魔法か!?しかもこの魔力、異世界転送魔法!?」

 だが女王はすぐに落ち着きを取り戻し冷静に分析する。

 その結果、驚愕の事実に気づく。

「…俺の仲間にすっげー魔法使いがいてさ、頼んでたんだ。この時間までに俺が戻ってこなかったらこの魔法を使うよう準備しといてくれって。いやーやっぱあいつ優秀だわ。」

 勇者はその場で腰をおろし高笑いをする。

「俺はさ、お前には勝てないって分かってたよ。まー実際戦って初めてそれは確信になったけどさ。」

「それで時間稼ぎに私と戦ったというわけか。だがこれではお前も異世界に飛ばされるぞ。」

「だろうな。」

「!?」

 あまりにも普遍的な態度をとる勇者に女王は驚愕する。

「あいつには俺は脱出する的な事を言ったけどよー、無理無理。こんなやつと戦ってそんな余裕無いっつーの!」

 勇者は面白い事を話しているかの様に言う。

「まーその何だ。俺はお前の気持ちを踏みにじって時間稼ぎと意識逸らししてこんな事したんだ。それはすまない。」

 勇者は手を出して謝る。

「…ふふ。ふははははは。」

 女王はまるで壊れたかのように長く笑い続ける。

「私はどうやら負けたようだ。あぁなんてこった。」

 女王は再び勇者に口づけをする。

(やっぱ早すぎて見えねーよ。)

 勇者は目に見えないスピードで来る事に慣れてしまった。

「私はお前をより好きになったよ。この転送魔法で二人きりの世界に飛んでくれないかと願うぐらいにはな。」

「おいおい。塔ごととばすんだからモンスターは付いてくるぞ。」

「はははそうだったな。まぁ彼らも私にとっては最高の仲間だ。離れ離れにならず嬉しいよ。」

「ていうかいつまで抱きしめるんだ?」

「ん?駄目か?」

「俺とお前はまだ付き合ってすらいないんだが。」

「なんと!?ここまで来てまだ駄目なのか!」

「むしろもう死ぬこととかどうでもいいからさっきより断りやすい。」

「酷いな。まー時間はあるだろうしゆっくりと君を落とすとするか。」

 勇者は女王と話しながら不思議な感覚に陥っていた。

 彼女は世界を滅ぼそうとし、彼女の部下のせいで自分の村も消された。

 戦う前は強い恨みしかなかった。

 だが何故か今は、彼女と話していることが楽しかった。

 恨みとか、種族が違うとか、そんなのは今の彼にとってはどうでも良かった。

 ただ、こんな非生産的な時間がいつまでも。

 そう願っていた。

 そう願いながら、塔はその世界から姿を消した。

 彼らを巻き込んで。




「…んん?ここは…?」

 勇者が目を覚ますと、柔らかい何かに寝ていた。

「これは…何だ?」

 勇者はキョロキョロと周りを見渡した。

 そこら中に、勇者には見たことないものがあったからだ。

「ここが異世界か…。」

 勇者が呟くとどこから声が聞こえた。


『お前は誰だ?』


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