〝赤髪赤眼〟と〝精霊〟
「あ゛?従者なんかに用はねーんだよ!すっこんでろ!」
「下品ですね。貴方ごときに主様が時間を割くとお思いですか?さっさと失せなさい」
用事を終えて帰ってきたらこの始末、一体何があったというのでしょう―――と、ジェミナは内心でため息をついていた。舌戦を繰り広げているスズのもとに歩み寄ると、ジェミナに気づいたスズはすぐさま口を閉ざし、その場に跪いた。
「主様、見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございません」
「ああ、それはいいのですが・・・何があったのです?」
戸惑いの色を見せながらジェミナが尋ねると、スズは殺気を感じさせる声音で告げた。
「・・・この下衆は、恐れ多くも主様にお会いしたいと言うのです。しかも偉そうな態度で・・・」
それを聞き、ジェミナは改めて口論の相手を見る。赤髪に赤眼―――属性は炎ですわね、と観察を終えると、その男に向かって口を開く。
「わたくしに何か御用でも?」
ジェミナの問いかけに、少し迷い、そして意を決したように告げられた内容は、ジェミナにとっては予想外であり、スズにとっては予想通りであった。
「俺を、あんたたちのパーティーに入れてくれ!」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
その男――レイモンドから一通りの説明を受けたジェミナは、スズに対して確認を取った。
「つまり・・・?」
「つまりこの男は、先程主様がギルド支部から出てらっしゃったのを見てその強さと美しさに驚愕し、自分も仲間に入れてほしいと頼みに来たわけです」
「でも、態度が悪すぎるせいで貴方に追い返されそうになっていた、というわけですわね」
完全に自分の存在を無視した会話に、レイモンドは慌てたように割って入る。
「いや、そんな簡単にまとめるなって!お前らの強さ、異常過ぎんだろ!?だから・・・っ!?」
と、そこまで言いかけて、慌てて後方に飛び、スズから距離を取る。
「〝おまえ〟だと・・・?」
それまでの丁寧な口調をかなぐり捨て、今まで以上の凄まじい殺気を伴ったスズの攻撃が頬をかすめたのだ。
「スズ!」
と、そこで、もう一度本気の攻撃を放とうとしたスズにジェミナが制止の声をかけた。
「待ちなさい。貴方がこの男に厳しく当たるりたくなる理由は分かりますわ。でもやりすぎです。与える側の者が奪ってはいけません」
その言葉にひっかかるものを感じ、今度は口調に気を付けながらレイモンドが口をはさんだ。
「ちょっと待ってください。そいつが俺に厳しく当たる理由って何なんですか?」
レイモンドのその問いには、ジェミナの代わりにスズが答えた。
「・・・あなたの周りにわしゃわしゃしてるそれですよ。見ているだけで虫唾が走る」
「俺の周り?って、ああ・・・なるほど。こいつらの事嫌いなのか?」
レイモンドは自分のまわりを飛び交っているもの―――炎の精霊を指さしてスズに言った。
「精霊と神獣はずっと昔から、神の僕としての地位を争っているのです。スズが嫌がるのも無理のない事ですわ」
なるほど、と納得したレイモンドだったが、あることに気づき、ジェミナに問いかけた。
「ん?ってことはこいつ、神獣なんですか?」
「ええ。神狐ですわ」
とそこに、スズが苦々しげに提案を持ちかけた。
「主様。こちらの正体を打ち明けた以上、この男は仲間に引き入れたほうが良いかと」
「何故?」
「神狐というのは、神獣の中でもトップクラスの強さを誇ります。我等が服従の意を示すのは自分よりも強いものだけ。そして、神狐よりも強いものとなると・・・」
「成程。わたくし達しかいないというわけですわね」
納得してそういったジェミナに、レイモンドは
「じゃ、あなた、なにものなんすか?」
「わたくしは―――」
「お待ちください、主様。貴方の事は、信用できる者だけにお話しするのがよろしいかと」
信用ねーなー俺、と呟くレイモンドを完全無視し、二人の会話は進む。
「わたくし達のパーティーに入るのでしたら、いずれ感ずいてしまうのではなくて?それだったら、最初から打ち明けたほうがいいと思いますわ」
「しかし、この者は精霊使い。それも〝炎獣〟の形をとる精霊を使役しています。勝手な私情で主様の命令を完遂できないなどということがあったら・・・」
だが、ジェミナの考えはスズの懸念を聞いても変わらなかった。
「パーティーに入ったらその時点で仲間ですわ。仲間を信用しないという選択肢はわたくしにはありません」
「しかし・・・」
次の瞬間、ジェミナの雰囲気が変わった。
「―――っ!」
その威圧感に思わず気圧されたスズは思わず息をのむ。そんなスズを見やり、ジェミナは口を開く。
「わたくしの考えは変わりませんわよ?」
「っ、申し訳ございません!どうかこの無礼、お見逃し下さい・・・っ」
その謝罪を聞き、ジェミナはふっと緊張を解いた。
「ええ。わたくしがこの者を信用するつもりだという事が伝わったのならいいですわよ」
柔らかに告げたジェミナを見やり、スズはまだ震えている息をそっとはいた。
「さて、レイモンドさん?知りたいのはわたくしの正体でしたわね?」
「ええ、そうです。あ、レイモンドでいいですよ」
その問いを肯定したレイモンドを見つめ、ジェミナは口を開く。
「では、レイモンド。わたくしの正体は―――」
そこでいったん言葉を切り、笑みを浮かべてジェミナは告げる。
「神、ですわ」
予想外だったジェミナの答えにぽかんとしたレイモンドを見やり、ジェミナは楽しそうにその笑みを深めるのだった。
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