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3/3

3.

少し長くしてみた!

よろしくお願いします!

窓から射し入る陽の光で目が覚めた。


いつもより眩しく感じるの太陽が2つあるからだろう。そう、太陽が2つもあるのだ。



「…はぁ…眩しすぎるよ…」



俺は憂鬱になりかかる気持ちをなんとか押しとどめて豪華なつくりをしたベットから起き上がった。


天蓋付きのベットではないが、フカフカとしたマットレスは俺の家のベットより気持ちがいい。


フカフカとベットの上を歩きながら着替えのところまで行く。


そこに置いてあるのは毎朝着けていた高校の制服ではなく、少し派手で、着ると首元が苦しくなる貴族服だ。


朝から「2つの太陽」に「気持ち良すぎるベット」、「派手な貴族服」と現実離れしたものを目にしたが、それもそうだ。


ここは、俺たちのいた日常とは違う、正真正銘の異世界なのだから。



ーーーーーーーーーーーー




異世界に来て一週間がたった。


俺たち1年4組はつい一週間前に、ここ「ハルマ」という異世界にある大国の1つに召喚されてしまった。


初めは皆戸惑い、混乱したが、俺たちの召喚を行ったこの国の王様であるカイサル王と、その娘であるミカエラが呼び出した理由、これからの暮らし、そして、元の世界に帰れる方法を教えてくれた。



元の世界帰るためには俺たちが魔神と呼ばれる存在を倒さなければいけないらしい。



そもそもこの異世界では人間の他に、「魔物」や「獣人」、「妖精」などとファンタジーな生物が沢山いるらしく、「魔物」の中でも秀でた存在を「魔族」、そしてそんな「魔族」を率いている者を「魔王」と呼んでいる。



俺たちが倒すべき「魔神」というのは、この異世界に存在する「魔物」や「魔族」、「魔王」を統括する存在だ。


「魔神」が死ねば「魔族」も「魔物」も滅びると言い伝えられていて、それをカイサル王は狙っている。



そんな相手を倒せるわけないと俺たちは抗議したが、元の世界に帰る手段もなく、ここでの知識もない俺たちはその条件をやむなく飲むことになった。



それからこの王城での暮らしが始まったのだが、そんなに悪いものではなかった。


ここの食事は今まで食べたことの無いような料理がでて新鮮味があって美味しいし、知識についても王族直属の教師が事細かに教えてくれる。


初めは躊躇していた戦闘訓練も、今では素人よりはマシになっている。


たった一週間だが、それでも生きるために必要であり、濃密な一週間だった。




そして今日、俺たちはこの国でパレードをする事になった。



国民達の不安を取り除くためだと聞いてはいるが、僕らがこれから乗る馬車なんだが…その…こうしてみると…



「ギラギラだね」


「ピカピカじゃない?」


「どっちでもいいよ…どう言おうとこのダサさは表現しきれないから…」



そう、ダサいのだ。クラスメイトのみんなが同意する程に…


無理にかっこよく見せようと金品を無駄に取り付けて馬が引くには重そうだし、それで見た目がアンバランス。何より窓が小さくてパレードの意味をなすのかも怪しい。


これに乗るのはたいそう自分に自信があるか、またはセンスが少しだけ他人とは離れすぎた人しか乗らないだろう。



「どうされたのですか愚民共?早く乗ってくださる?」



馬車を見てドン引きしている僕らにそう声をかけたのはこの国の第二王城「ヘカレア」だ。


ブロンズで少しだけウェーブのかかった艶のある髪の毛は、まるで人形のようだと思った。

彼女の透き通る目は初めて彼女を見たクラスメイト達は男子も女子も目をハートにさせてはいたが、



『ようこそいらっしゃいました、愚民ども♪』



という満面の笑みで放った彼女の一言でみんな正気に戻った。


この一週間でだいぶ打ち解けた女子達から聞いた情報では



『あの子は…その…男の子に対して全く素直になれない子…なんだよね…』



と、呆れた様に言っていた。

要するにとてつもなくシャイで、一周回って超ドS、というものらしい。

男子のうちで数名が大喜びしていたが、そこら辺はあまり視界に入らない様にしておいた。


歳は僕たちと近しいと言うが、はっきりとは教えてくれない。女子達にも聞いてみたが、



『女に歳聞いて、失礼だと思わない?』



とのことだった。


歳ぐらいは別に構わないでしょ…?



そんなことを思い出しているとみんな馬車に乗り終えた様で、座席がガタガタと揺れ始めた。


この世界に来て初めて王城を出たが、外の景色はまさしくファンタジーだった。石造りの家もあれば、本物の武器を売っているお店もちらほら見えた。


この世界に来てから身につけた知識に類似する果物や傷を治すポーションなどがチラチラと見える。


みんな「はぁ」とか「ほぉ」、「あ!みてみて!」と観光している様にはしゃいでいた。


俺もきっとアイツがいたら一緒に楽しめただろうにな、と思わずため息をついてしまう。すると、



「大丈夫?」



と目の前に座る女子に声をかけられた。


三ヶ島神無。学校にいた頃はモテモテだった奴だ。黒髪のストレートで、気の強そうな目つきではあるが、いつも物静かに本を読んでいる。


教室にいれば数十秒もしたら彼女の周りに人が集まる。

みんなから信頼されて、信用されている。クラスで巫女なんて呼ばれている少女だ。



「あーうん、大丈夫大丈夫」



俺はそういつもの調子で明るく答えたが、それを見て三ヶ島さんは少し悲しそうに目を伏せた。



「鬼林君….だよね…?」



それを言い当てられて、俺はずっと引っかかっていた不安感に身を締め付けられた。



この世界に来た時、あっちゃんのだけがいなかったのだ。


いくら呼びかけても、城内を探しても、大好物のクッキーを罠と一緒においていても…


それらに一切、あの強面の親友は引っかからなかった。

考えられるとしたら、あっちゃんだけがこの異世界召喚に巻き込まれなかったか。それか一人だけ失敗して…



最悪の事態を頭に想像して、より一層気分が悪くなる。


みんなを明るく照らすこの世界の日差しが、今は酷く煩わしい。



「…大丈夫だよ…きっと」



目の前にいる彼女も、何故か不安そうに、だけどどこか期待してるかのようにそう呟いた。



「だって鬼林君って、いつも突然現れるから」



彼女は何かを思い出しているのか、少し面白げに笑みを浮かべる。それが不思議に思えて、ついその理由を聞いてしまう。



「あっちゃんと何かあったの?」


「あっちゃん?…あ!鬼林君の事だね!…うんちょっと前にね…あの時は千葉君はいなかったから…」



僕はその言葉に少しだけ驚いた。

人間関係があまりに乏しいあのあっちゃんが、このような女の子と交流があったなんて聞いた事なかったし…あっちゃんも隅に置けないなぁ、と少し嬉しくなった。



「ねぇ三ヶ島さん、あっちゃんと何があったか聞いてもいいかな?」


「うん、じゃあ千葉君も何か鬼林君の話聞かせてくれないかな?ほら、私も話すんだし」


「それじゃあ、あっちゃんとの出会いの話でもする?」


「うん!聞きたい!」



僕らは、ほかのクラスメイト達が異世界の景色に驚嘆している間、二人してあっちゃんの思い出話に夢中になっていた。


その間だけは、少しだけ不安も、これからの心配も和らいだ気がした。





ーーーーーーーーーーーーーー



泣いた。泣いた。泣き疲れた。


舌にはまだ甘い血の香りがする。俺をこんな地獄に生み出す羽目になった母親の味が未だに舌に残っている。


あれから気持ちが悪くて吐き続けた。腹には何もないのに、気色悪い黄色い液体が口から溢れるように出ていった。


そんな俺を、周りの小さな鬼どもは奇妙なモノを見るようにしていた。


彼らを見て俺はさらに吐き気が蘇る。彼らが手にしているソレを見て。



腕だ。脚だ。臓だ。耳だ。指だ。頭だ。



その全てが人だったものだ。




「おぇぇぇぇ!うぇ、おぅぅ…ゔぅ…」



うまく発音のできない未成熟な口からは耳あたりの良くない嗚咽だけが流れる。


認めるには過酷すぎた。異形すぎた。変わりすぎた。もう、自分が人間だなんて言えない姿であると、洞窟のところどころに溜まる水から映る自分を見て何度も思い知らされる。



俺はゴブリンになっていた。

恐らくこれが転生というやつなのだろう。

俺はあの日、確かに死んだ。死んで、今ここでゴブリンとしての最悪な生を受けた。


ここ数日は何度も自分のこの姿を呪い、恨み、嫌悪した。しかし、いつまでもこうはしてられない。


泣けば疲れ、眠気が襲う。

喚けば疲れ、空腹が襲う。

当たれば傷つき、痛みが襲う。


この身体はどこまでも脆く、なによりも弱い。ずっとこんな地獄にいるつもりはない。



俺は震え続ける事をやめて、今日初めて、生まれた部屋を出た。


度々、同じ時に生まれたゴブリン達が出ていった細い横穴を進む。


その道中では小さな虫がいたが気になる程大きくもないし、多くもない。アリンコみたいな奴らが3、4匹、群れをなして歩いているだけだ。


そんな虫を踏みつけながら道を進む。


5分ほど歩いたら、かなり広い空間に出た。周りを見渡せば、自分より一回り二回りも大きいゴブリンが棍棒や槍、短剣を持ってウロウロしている。



空間にはいくつか横穴があり、ここは横穴を掘るための中央区みたいなものなのだろう。


一つだけ他とは異なる大きな穴を見つけ、興味本位でそこに足を踏み入れた。



さっきの小さな横穴とは違い随分と綺麗に穴が彫られている。

壁にはゴブリンが描いたと思われる絵あった。


その絵の構図は、杖を持った大きなゴブリンに他のゴブリンが頭を下げている絵だった。


このゴブリン達が住む巣を示しているのだろう。杖を持ったゴブリンは言うなれば王様、ゴブリンキングだと予想できる。


そのまま道を進んでいくと、先ほど見たゴブリンより体格のしっかりとしたゴブリン達が扉を守っていた。


その扉番をやっているゴブリンの一体には見覚えがあった。


母親を食ったあのゴブリンだ。


俺は恐るより先に怒りで足が動いた。小さな歩幅でそのゴブリンの下まで走り、最大限の力で体当たりをした。


しかし、あまりにも体格差があり、このゴブリンには全然効いていない。

ゴブリンは俺を摘み上げると顔の高さまで持ち上げ不敵に笑った。


ここでやっと恐怖が追いついてきた。


ここで食われるのか。母親が食われたのと同じように…


俺はその瞬間が来るまで強く目を閉じた。

しかし、その瞬間はいつまでたっても訪れず、小さく目を開けると、そこは見たこともない場所だった。


俺を摘み上げていたゴブリンが俺を王のいる扉の中に放り投げたのだ。


生贄か、それとも処罰か。俺は足が震えたまま部屋の奥に座るゴブリンキングに目を向けた。


レベルが違う。いくらゴブリンだと言っても、今の弱輩な自分では数秒で挽肉にされてしまうだろう。


そうして怯えていると、ゴブリンキングは優しく微笑み俺の元まできて一つのナイフを置いた。



『コレヲ、オマエ二、ヤル』


「!!??!?」



俺はこんな化け物達が言語を使っていることに驚きを隠せなかった。

その様子をみてゴブリンキングはどこか嬉しそうにして言葉を続ける。



『オマエハ、サイノウガ、アル。キット、タノシクナル。ソシテ、イツカ、ワレノユメ、ヲ…』



そう言い残すと、ゴブリンキングは先ほどのゴブリンに俺を預けて、奥の方へ戻ってしまった。


あまりの光景に驚き、恐怖すら忘れていた俺は、ただただ、ゴブリンに部屋から摘み出されるまでほうけていることしかできなかった。

最後まで読んでくださりありがとうございます!

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