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8.蛇足だった件

そろそろストックを増やしたい……

 無事、王都の前までやってきた俺は、門に続く長蛇の列に並んでいた。

 流石王都なだけあって、まるで人気料理店に並んでいるかのようだったが、500年もの間ずっと住処で静観しっぱなしであった俺にとっては、数時間程度は屁でもない。

 数時間は経ったであろう頃、ようやく列の流れは俺の出番にまでやってきた。

 2人の衛兵の内1人が、俺の前に歩み寄る。

 今の俺の姿、完全にまだ幼気な姿なんだけど、入れてもらえるかな……と朧気な不安を浮かべたりもしたが、すぐに杞憂であることが分かった。



「身分証をお願いします」



 俺の姿は完全に子供であるというのに、何かを察したのか、深く追求してこなかった。

 当たり前なのだが、子供だからといって舐めるような目で見てこなかったことに、俺の中でこの衛兵の評価をあげた。

 村ではこの姿のせいである意味ろくなことにならなかったので、ここでも何かあるんじゃないかと内心で疑心暗鬼になっていたからであった。



「すみませんが、俺は訳あって身分証を紛失してしまったんです。再発行は可能ですか?」



「はい、大丈夫ですよ。その場合は、ギルドカードで再発行してもらうことになりますが……では、推薦しておきますので、再発行に必要な銀貨2枚をお願いします」



 実際、初発行であれば無料で発行することが出来るのだが、俺は一度紛失しているという設定なので、その分の費用がかかってしまうことは避けられない。


 だからといって身分証を作ったことないなんて言ってしまうと訝しまれるだけなので、それならば俺としてはまだ金を払う方がマシだった。

 ちなみに、この時のためにエルクに色々な素材を買い取ってもらっていたので、そこそこ資金面には余裕がある。

 初めは俺の鱗を一枚でも売ろうと思っていたのだが、はちきれんばかりに首を振って拒否されたために、渋々今まで狩った魔物の素材だけを売ることになった。

 ただでさえ竜種の素材は馬鹿みたいに高いのに、俺みたいな位の高い竜となると、エルクさんの資産を全て売り払ったとしても、とても買えるものではないらしい。

 俺自身も、そこまで自分の価値が高かったのは知らなかったか、満更でもなかったりする。

 純粋に褒めてもらって、嬉しくならないはずがないのである。



 何処からともなく出した銀貨を黙って手渡すと、少し動かなくなった後、何かを判断したようで頷いた。



「ありがとうございます。竜人の方がここに来るのは珍しいですね」



 衛兵は、俺の角や尻尾にちらちらと視線を動かしながら呟いた。



「そうなんですか?」



 てっきり、王都ともなれば普通の人間以外もごろごろ居るものだと思っていたのだが。

 そんなことを考えていると、衛兵はすぐに俺の考えを訂正した。



「獣人の方であれば全く珍しくはないのですが、竜人達は種族的に頑固で、かつ自分の村を出ることもほとんどないらしいので、王都にも滅多に来ることはないです」



 どうやら、竜人は竜のダメなところをしっかりと受け継いでしまっているようだ。

 種族名に竜と付く種族は、俺達竜にルーツがあるので、言ってしまえば俺も産みの親と同種である。

 普通の人達から見ればただやけにプライドが高い種族だろうなと解釈しているだろうが、竜である俺にはただ竜が家から出たくないのと同じ理由にしか見えなかった。

 きっと、気のせいだろう。



「確認出来ました。ようこそ、王都ヴァルフラムへ!」



 俺は衛兵の艦隊を受けながら、門の中へと招き入れられた。

 最後に衛兵に向けて会釈を行った後、人の流れにそって一番大きい道を進み始める。

 人口は日本の政令指令都市よりも少ないようだが、賑わいであれば日本の都市にも引けを取らない。

 西洋風の道を歩きながら、俺はなんとも言えない感動を覚えた。



「空から見ても凄いとは思ったが、中はまた格別だな……」



 街まで来ることが出来たことで、ようやく異世界に転生したという実感が湧いてきた俺。

 ドラゴンに転生していた時点で嫌でも実感はさせられるものだが、それよりも長い間1人で居たことによる現実逃避で、まともに生活しているような気がしていなかったのである。

 竜には寂しさなんてないが、人は寂しいと死んでしまう……というより、死にたくなる生物なのだと本気で考えさせられたものだった。



「ここは……まさか」



 俺はとある建物を発見すると、胸を躍らせた。

 今まで山奥で引っ込んでいたので人間界のことはさっぱりの俺だったが、地球でもファンタジーものをある程度知っていたこともあってこの建物が何かをなんとなく理解することが出来た。



「冒険者ギルド……」



 一瞬、間違っていたらどうしようと迷ったが、入り口の戸にはしっかりとそう書かれていたので間違いない。

 俺は500歳の身に若者のごとき好奇心を携えながら、躊躇いもなく冒険者ギルドの建物へと入った。



「おっと、悪い」

「俺の方もだ。すまん」



 俺が扉を開き放ったのと同時に、内側からもドアが開けられていたようで、俺と出てきた男は慌てて交錯するようにして回避する。

 故意にぶつかったわけではないことは分かっているので、俺の方も軽く謝罪した後、構わず建物の中に入ろうとした所で、肩を掴まれた。



 なんだ? と思いながらも振り向くと、ぶつかった男が顔を青くして俺の肩をがっちり掴んでいた。

 何か不味いことでもしただろうか、と思いながら俺は首を傾げる。



「お、おい。何故お前みたいなやつがこんな所に居るんだよ!?」



「……はい?」



 さっきぶつかったことにイチャモンでも付けてくるのかと思ったが、見当違いだったようだ。

 男は全く身に覚えがないことを叫びながら、俺を建物の中へと招き入れる。



「ちょ、ちょっと?」



「すまないが、少しだけ付き合ってほしい。付いてきてくれるな?」



 とか言いつつ、既に腕を強引に引っ張られて拉致まがいの状態にあるので、俺に拒否権はくれそうにないんだけど。

 まさかギルドに入るだけでこんなことになるとは思わなかった俺は、男に強引に引っ張られながら受付のカウンターを通り……っておい、ここ職員のスペースだろうが!



「勝手に入るのは流石にやばいんじゃないか?」



「心配するな。俺はギルドマスターだ」



 ……ギルドに入った途端の初邂逅がギルドマスターって、どんな運ですか?

 無理矢理2階の部屋に連れられた俺は、とりあえず椅子に座るように促された。

 人が入ってこないように、内鍵を掛けることも忘れない。



「俺、何かしたっけ?」



「何かしたっけ……じゃない! お前、何処からどう見ても人じゃないだろう!」



「そりゃ、竜人……」



「そういうことじゃねえ! お前の魔力は、竜人のそれじゃねえんだよ。それだけ純粋な魔力濃度に、尋常じゃないほどの魔力量を垂れ流していたら、Cランク以上の冒険者なら誰だってお前が人間だと、ましてや竜人だなんて誰も思わねえからな? 一体、ここに何をしに来たんだ」



 これはつまり……魔物であることはバレてるってことかな?

 竜だってことはバレてないみたいだけども、だからといって喋らなかったら怪しまれる可能性が高いか。

 にしても、あれだけ正体を隠すために悪戦苦闘した俺の苦労は一体……



「分かった、正直に言おう。その代わりに、今から言うことは誰にも離さないでくれ」



「それは俺も承知の上だ。わざわざ、化け物みたいな力を持ったお前を害することなんて絶対やりたくねえよ」



 化け物って、流石にそれは酷くないか?

 間違ってはないけども。



 読みが甘かったと諦観の思いに耽りながらも、俺はギルドマスターの男へと説明を始めるのだった。

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