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7.隣街

 当の本人がグロッキー状態なので、俺の方から村長達に事情を説明することになった。

 説明を終えた後、2人は納得するような表情をしていたが、もしかして来るのが分かってたのか?



「彼には、長い間お世話になっていますからね。流石に、来る時期も分かっちゃいますよ。今日はやけに遅かったので、私達も心配だったんです」



 ライナも、意外と人を見ているんだな。

 というか、ライナ昨日と比べて雰囲気変わりすぎじゃね?

 俺のイメージだと、まさに狂信者って感じだったんだけど。



 その時丁度、さっきよりも血色が良くなったアルクが戻ってきた。



「災難だったわね、エルク」



 なん……だと……!?

 俺は村長の姿から、一転して理知的に変貌したライナに強い衝撃を受けた。



「ええ、全くです……しかし、彼に助けられたのは事実ですから」



 エルクは、ちらと俺に視線を移す。

 それに気付いたライナは、改めて俺に向けて深く頭を下げた。



「アル様。今までのことといい、貴方には深く感謝しています。昨日は、申し訳ございません」



 それを聞いた俺は困惑するだけだったが、何も知らない様子のエルクは首を傾げる。



「そういえば、何故竜がここに居るんですか?僕が先月に来た時は、居なかったはずなんですけど」



「それは、その御方が村の守護神様だからよ」



「守護神?」



 ライナがエルクに対して説明を始めたので、俺はその間に聞きたかったことをロウエンに聞くことにした。



「なあ、この近くに街があるのか?」



「ええ、ありますとも。とはいっても、近くという程でもないですが、まず遠くはないですね。ちなみに、その近くの街はこの国の王都なんですよ」



「王都かぁ……」



 これはなんというか、盛大にフラグの方からやってきたような気がする。

 ドラゴンが人に紛れて生活をしていることが、どれ程珍しいことかを知っているからこそ、予測するのも容易なことだった。

 特に貴族辺りに知られたら、アホな奴らが取り込みにかかる可能性だってある。

 そうなると、村には迷惑をかけるかもしれない。

 迷惑をかけない内に、出ていった方がいいのかな……

 情報が届かなくするってのは論外かな。

 俺だって王都や色んな街、果てには他国だって見て回りたいし、流石にこの姿だとすぐに竜とバレてしまうので、せめて俺のことは世間に知っておいてもらう必要がある。

 それでも入れてくれない可能性はあるけど……



「なあ、俺って王都に入れると思うか?」



「今のままでは無理でしょう……が、アル様の存在であれば、どうやってもすぐに王都にまで情報は届くはず。そうとなれば、大多数の貴族や王族が黙ってはいられないでしょう」



 げっ、貴族が来ることは考えてたけど、王族の使いが来る可能性もあるのか。

 でも、ある意味では俺の存在を一番認めさせられる存在と考えれば、取り入るのもありか?



「……王都に行くのはいいですが、私達に迷惑がかかるとは思わないでくださいね? そもそも、元々私達は助けられてる身なんですから。だから、いつでも帰ってきてください」



 年の功とでも言うべきか、ロウエンは俺の心情に気がついていたようだ。

 年月だけで見ると俺の方が生きてるのだが、圧倒的にその間の密度が違うのだから、やはり精神年齢や人生経験はロウエンの方が大分上だろう。

 俺は、なんとなく心のしこりが取れたような気がしたからか、身体が軽く感じた。



「ああ、ありがとう。気が楽になったよ」



 そう言ったところで、ライナさんによるエルクさんへの説明が終わったようだ。



「いやあ、アルさん! いや、アル様と言うべきでしょうか」



「さん、でいいよ。急に様に変えられても困るし」



「では、アルさんで! アルさんには、私からも感謝してもしきれませんよ! なにせ、この村はお得意さまでもありますからね。あの森から魔物を追い出して頂けただけでも、安心度割増ってもんです! あ、そうだ。アルさんにお礼を渡さないと」



「は? いやいや、お礼なんて要らないぞ? 大体、邪魔になるだけだろうが」



 唯一ライナだけは知ってるけど、俺の住処、洞窟だからな?

 あんなところに置いてたら、いつ紛失するか分からんし、迂闊にものを貰えるわけがない。

 と言っても、対策は俺も持っているのだが、わざわざそれを言う必要もないだろう。




「俺の報酬の代わりに、せいぜい村のためにより多く売ってやってくれ」



「リトさん……ありがとうございます! この御恩は、一生忘れません!」



 そう、それでいい。

 俺としては、恩を返してもらうつもりはない。

 ずっとこのまま売り続けて、いざという時に仲間になってもらいたい。

 またぼっちなんてことになったり、逆に俺が何かをやらかした時、邪悪なモンスター扱いなんてされるのも困るからな。



 その後エルクは、5日間村に滞在してから、再び王都へと戻っていった。

 あの街道の破損もこっそり直しておいて、かつ魔法で強度も確認したので、特に問題が起きることはないだろう。

 俺としての外界の情報を得る最初の手段となってくれた人には、出来るだけ万全なアフターケアをしてやりたい。



「アル様、どちらに行かれるので?」



 俺はエルクの馬車の後ろ姿を見送った後、密かに飛び立とうとしていたのを、ロウエンに止められた。



「ちょっと、街道の確認ついでに王都見物って所かな。あ、でももしかしたら、ちょっとの間留守にするかもしれない。だから、ご飯は用意しなくても大丈夫だよ」



 本当は逆なのだが、こっちの方が原文はいいだろう。



「はあ……まあ、今まで助けてもらって頂いていた立場なのでとやかく言えるものではないですが、しかし見つかってしまっては、大惨事ですよ?」



「分かってるさ。まあ、一応秘策も用意してるからな。特に問題はないと思うよ」



 俺はエルクにすぐ身バレした時から、昼夜問わずずっと難題として考えていたことがあった。

 それは、如何に正体を隠そうか、ということである。

 まず前提として、俺の尻尾や角を消すことは不可能だ。

 これはこの世界において、『特定の部位を残すことによって存在を維持することが出来る』などという何のこっちゃとばかりの意味不明なルールが存在するからだ。

 ある程度この村の村人達にも尋ねてみたりもしたが、竜人族と竜の違いはこの世界でも常識なレベルと言ってもいい程に分かるようで、例え大体の特徴が被っていたとしても、これだけで俺イコール竜ということは火を見るより明らからしい。

 角と尻尾がこのままである限り、どう足掻いても俺の身を隠すことは出来ないだろう。



 ここで思いついたのが、隠すのではなく見えなくすることだった。

 ただ、透明にすることや、風景に溶け込むような迷彩タイプにすることは流石に出来なかった。

 根本的に、イメージから出来ないという問題に直面してしてしまい、結果頓挫してしまったのである。

 魔法というものは決して『透明になあれ!』なんて唱えただけでそう簡単に使えるものではない。

 しっかりとイメージが出来ていれば、詠唱なんてなくても魔力量次第で発動も出来るのである。

 ただ、いくら科学の方面に長けた地球でしっかり学んだこととはいえ、透明と光の関係は全く分からなかった。

 迷彩にするにしても、俺が動く度に一々光の屈折をイメージしないといけないし、そのやたらと神経を要する作業のために、前に歩くのに後ろを向かないといけないという矛盾までも発生してしまった。

 その上、人や物にぶつかったりすると、瞬時に集中力が切れてしまい、魔法が中断されてしまう。

 街中を歩くのに他者との接触も出来ないのでは、本末転倒である。



 そんな数多の壁に憚られながらも、試行錯誤の末に、ついに俺は突破口を発見することが出来た。

 角と尻尾を見えなくするのではなく、似たような別のものに擬態させるのがいいんじゃないか?

 と、俺は考えた。

 今のは暗に答えたが、つまりは『竜人族のものに似せればいいんじゃないか』と思ったわけである。

 そうと決まれば、俺にかかれば後のことは造作もない。

 先までの考えであれば、わざわざ周りの風景に合わせたりする必要があったのだが、むしろ今回のに至っては俺の角と尻尾だけに限定出来ればいい。

 竜人族の特徴として、俺の角尻尾は灰色になるよう、少し魔力で調整すればいい話。

 元ニートなだけあって、こういった集中力の必要な作業はこなれていた。



 こうして完成したのが、俺のオリジナル魔法、名付けて『幻惑魔法』だった。

 竜というのは長命な上に魔力量も膨大なので、魔法の開発などはお手の物。

 ……まあ、種族の特性的に、積極的になってそんなことをする竜なんて、まず居ないものだが。



「じゃあ、行ってくる」



 俺は颯爽と飛び立ち、すぐさまエルクの馬車を通過する。

 かなりの高度を飛行しているため、エルクはおろか、誰にも見つかることはない。



 そのために、すぐに目的地を捉えることが出来た。



「ここが王都……か」



 俺はあの村など比ぶべくもない程に大きな都市を見下ろしながら数回空を滑空すると、王都から確実に見られないであろう距離を再び飛ぶと、着陸を果たしたのだった。

 今から、初めての街へと突入するのである。

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