13.謁見
めちゃくちゃ遅れてすみません……
これからはしっかり更新します
「乗り心地は如何でしょうか?」
恐る恐るといったように御者の人が窺うように尋ねる。
「悪くないな」
新部品としてサスペンションの組み込まれた最新式の馬車に、俺は感嘆しながら呟く。
地球では当たり前のように使われているサスペンションだが、この世界では全く存在していないはずの技術なので、下地もなしに作り上げた職人はかなり凄いと思う。
いや、もしかしたら俺と同じ転生者が作ったか、もしくは技術を伝えたのかもしれないが。
御者は安堵したようで、返事はさっきの問いかけよりも明るいものになっていた。
「王様、かあ……」
いつもは飛んで行く道をこうして地道に進むのも新鮮だな、と思いつつ馬車の窓から空を見上げ、今から出会う人物を想像し呟く。
異国の冒険者と共に密かに魔物討伐を為した3日後、俺は村にやってきた王国からの使者に迎えられ、謁見の旨を伝えられた。
本来ならもう少しかかるらしいのだが、俺のことを知った王様が無理矢理予定を空けたらしい。
国の最大権力者が俺を贔屓にするようなことをしてもいいのか、と思ったが伝説級の魔物ともなれば全軍をあげても太刀打ち出来ない存在らしいので、粗相のないようにと最高待遇で迎え入れられることになったそうだ。
実際、俺もやろうと思えば一国くらいは滅ぼせそうなので、何にも返せない。
「しかし、これはちょっと予想外だったな」
俺の乗る馬車に続くように、ひたすら並んでいる兵士達へと視線を移す。
馬車で迎えを寄越す、とかならまだいい。
けど、王族用の馬車に俺を乗せ、かつ一軍の本隊を護衛としてつかせるってのはどうかと思うんだよな……
正直俺1人に護衛なんて必要ないし、別に襲われたから国に報復なんてことはするつもりもないのだが、それでもやはり俺が何をしでかすか分からないというのは心配でならないようだ。
ある意味この行軍状態には国がかかっているわけだから、過敏になるのも仕方はないが。
あ、また通りがかった商隊がぎょっとして固まってる。
いや、本当ごめんなさい。
というわけで、明らかに王族ばりの歓待を受けた俺は、3日もの日数をかけて再び王都へとやってきた。
貴族用の門から街の中に入ると、大通りを俺の乗る馬車とその護衛達が突き進んでいく。
当然そのような派手なパレード状態にある馬車が通れば人々が注目するのは当たり前なわけで、今顔を出せばこぞって俺が見られるのは分かっているので、窓は全て閉めて視線を完全シャットアウトしている。
それでも竜の身体が気配と視線を嫌でも察知してしまうので、結果羞恥心に苛まれたことに変わりなかったのは言うまでもない。
「今から入城致します。門を通ってすぐに下りていただくので、準備をお願いします」
窓は開けていなかったが、御者が俺に向けて言っていることは分かった。
流石に馬車のまま城に入るわけにもいかないことくらいは俺にも分かるので、短く応えて了承する。
しばらくして馬車が止まったかと思うと扉が開かれたので、俺は誘われるがままに馬車から下りると、以前も遠目で見たことのある城が今は目前に見えている。
気付けば護衛達は数人程度にまで減っていたが、流石にあれだけの人数での謁見を許すわけにはいかないのだろう。
優に100人は居たし、そりゃそうだ。
「ご同行をお願いします」
今言ったのは御者ではなく、護衛達の中でも先頭を歩いていた兵士である。
唯一マントを身に付けていたことからも、隊長格以上であることは間違いない。
「ただ、その……くれぐれも、城の中で問題のある行動は慎んでいただければと思います。わたくしは騎士団長となって長いですが、わたくしではとても貴方様を止められないので」
なんと、まさかの騎士団のトップだったようだ。
まあなんとなく予想は出来ていたので、大して驚きはしなかったけど。
一方、騎士団長は兜越しで表情は全く分からないが、緊張してるのが分かる。
理由? だって、汗の臭いが俺の鼻につくんだから分かるのも仕方ないだろう。
鎧を着込んでるから暑いだけ? ああ、でもそれもあるかもしれない。
けど日々鎧を着て動き回る騎士団がただ鎧を着ているだけで汗をかくとは思えないからそれはないと思う。
「ああ、よろしく頼む。だが、そう緊張しなくてもいいぞ? 別に、どうこうしたいわけじゃないからな」
「そうしてしてくれるとわたくしは気が休まりますが、何分仕事なもんで」
ちょっとした気紛れで言外に緊張しているだろうと言い当ててやると、なんとなく騎士団長の雰囲気が楽になった……ような気がするだけだが、声色が少し柔らかくなったのは分かった。
さっきまでは明らかに言い淀んでいた感じが歯痒かったので、俺としてももう少し楽にしてほしいものだ。
騎士団長に随伴しながら城の廊下を進んでいく。
とはいえ謁見の間がそれほど遠いわけがなく、すぐに扉の前へと到着した。
「入れ」
中からの一声で、扉が開けられる。
国民でもなんでもない1人の客として来たわけなので、後ろを歩くわけにも行かず、俺は騎士団長の隣で動きに合わせるように中央まで歩き……そして周囲は一様に跪いた。
俺? 当然跪くわけないじゃん。
国民じゃないどころか、人ですらないんだから相手から見ても俺が常識外の存在でないことくらいは分かるはず。
それなら、いっそ跪かずにいた方が舐められないで済むというものだ。
俺から見た国王は、テンプレ通りの厳格な雰囲気を醸し出した……いや、それは違うな。
恐らく建前上でのキャラ作りなのだろう、無理矢理威厳を出しているように見える老人が、国王という座に座っているだけに見えた。
他にも王様の両脇に3人の幼い男の子と2人の男の子。
服装を見るに、王族の系列だろうか。
その後ろに控えるように立っている彼らは、恐らく宰相なのだろう。
それ以外にも貴族と思す人々がずらりと立ち並んでいた。
王様を観察していると、やがて憤慨するように1人の貴族が一歩前に出た。
「貴様! 王を前にして跪かんとは、如何なる無礼か……」
「やめい!」
お鶴の一声によって、貴族は渋々一歩下がる。
それでも未だに俺の方を睨みつけたままだが、何もしないと言った手前、ここで手を出すわけにもいかないので俺はどこ吹く風といった飄々と何食わぬ顔でスルーする。
王様は頭を抱えて溜め息を吐く。
今の貴族の行動で一瞬にして汗の臭いが強くなっていたので、俺が怒るんじゃないかと思った人も少なくはないようだ。
かくいう王様も額に汗をかいているので、同じ穴の狢だった。
「すまない、客人……いや客竜か? 兎に角、彼奴の無礼は許して欲しい」
王様が頭を下げると、周囲の人々がざわめきだした。
そりゃ国のトップが1人……いや、1体の魔物に頭を下げたらそんな反応になるよな。
だからといって俺の方も平伏するようなことはしない。
だって魔物だもの。
「元から怒っていないから問題ない。それよりも、さっさと用件を済ませたいんだが」
「うむ、分かっておる。ネームドの登録希望だったな? 我としても我が国と手を結んでくれるのであれば、願ってもないこと。むしろ、こちらから頼みたい」
「助かる。ああ、それともうひとつ、偽装のための市民権も欲しいのだが」
これはもののついでのようなもの、いわばおまけである。
なにせ市民権がないと、色々と不都合なことが多い。
ネームドモンスターには相応の身分証が渡されるらしいが、場合によっては反応が過剰なことになりそうな気がするので、普通のものも欲しいのだ。
俺の考えを王様も理解出来たようで、少し考え込んだあと頷いた。
「……確かに、ネームドの証明カードのみでは何かと不都合なことも多くなるだろう。分かった。すぐに作らせよう。代わりに、今後頼みたいことがあれば出来る範囲でも手助けしていただきたいのだが、構わぬか?」
「それくらいなら構わないさ」
そう返すと、王様もようやく一息つけるといったように安堵の笑みを浮かべた。
周囲もやっとこの緊迫した空気から抜け出せる、と胸を撫で下ろした、その時。
「ふん、たかが魔物が。我らと対等にあると思い上がっているのも、今のうちだ」
先程の貴族によって、空気が凍りついた。




