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10.村人達の饗宴

 明くる朝、日課となった早朝起床から少しだけ森を見て回ると、いつも通り村のすぐ近くに降り立ち、人の姿で村に入った。



 村の広場に来てみると、妙な騒がしさがあった。

 村中の人という人が集まっているんじゃないかと思うくらいに、野次馬が出来ている。

 俺は野次馬のひとりになっていた村人の男に声をかけてみることにした。



「おい、一体どうしたんだ?」



「あ、アル様が来たぞ!」



「アル様が来たのか!」



「アル様だ!」



 俺が声を掛けた途端、急に男が叫び出したかと思ったら、野次馬達は一斉に俺の方を向いた。

 気のせいか、視線からぎらぎらとした鋭さを感じる。

 その時、急に俺の背後から気配を感じたので、反射的に振り向きざま飛び退くと、そこに居たのはロウエンだった。



「おや、アル様じゃないですか。丁度良かった、少し家まで来てもらえるでしょうか」



 だが、ロウエンの様子がいつもと比べて少し違う。

 相変わらず優しげに微笑んではいるが、まるで獲物を見つけた時の肉食獣みたいな気配を、俺はロウエンから感じ取っていた。



「お、おい。お前ら、一体何を……」



「おっと、アル様ぁ。逃がしませんからね?」



「は!?」



 雰囲気に呑まれてしまった俺は、堪らず逃げようとするが、その前に肩を何者かによってがっしりと掴まれてしまった。

 硬直した俺が、まるで錆びた機械のようにゆっくりその元を辿ると、恍惚とした表情を浮かべているライナ……まさに、トラウマ製造機と化していた当の本人が、逃がさないように俺の肩をがっちり掴んで離さない。



 竜の俺が逃げられないってどういうことなんだよ……



「ふふふ、これでもう逃げられませんからね?」



「何をしようとしてるのかは分からんが、やめろ!」



 まさかこいつら、誰かに洗脳されているのか!?

 と思って全員に俺の魔力を通して診察してみるが、特にこれといった異常は見られない。

 全員、健全そのものである。

 じゃあ、なんで?



 俺は必死に抵抗するも、既にライナ以外にも複数の村人達にも抑えられているので、抵抗も無駄なものにしかなっていない。

 前はロウエンが助けてくれたが、今回はロウエンもこの暴走に加担している側なので、助けは期待出来ないだろう。

 ここを切り抜けるには、俺の力のみで切り抜けるほかない。



「俺、守護神なんだよね?」



「はい、そうです。私達は、アル様を天から遣わされた守護神です」



 若干あらぬ方向に俺の存在が脚色されてしまってるが、転生したことに神が関わっているというのなら、あながち間違いではないのかもしれない。



 などと言っている余裕もない俺は、何とか抜け出すための口上を考える。



「ほら、俺に何かあったら守護神じゃなくなるよ? だから、ちょっとその手を離してくれないか?」



「大丈夫です、何故なら、アル様は神様なんです!」



「理由になってねえ!?」



「ほらほら、行きますよぉ」



 俺は悲鳴をあげるが、その間、無情にもロウエンの家へと連れて行かれる。

 家の前まで来てしまった時には、既に俺は諦めて抵抗することもやめ、しかし自分に命の危険が出てくるようであれば竜の姿に戻って速攻逃げるという強硬策をとろうと考えていた。



「さて……では、私と共に始めましょう」



「はい、始めましょうか」



「ひっ!?」



 ロウエンとライナが、嗤うような目で俺を引き寄せる。

 俺はつい上擦るような声を出してしまい、表情も引き攣っていた。

 そこに、俺が竜であるという様子は一欠片も感じない。

 人生で初めて、食物連鎖が逆転した瞬間だった。

 抱え上げるように俺を2階へと運び、俺にあてがわれていた所の隣の部屋へと到着した。

 ここが目的地らしい。

 あれ? と俺はこの時点で、何か違和感を感じ始めた。



 木製の扉は、2人によってゆっくり開けられ……



「「じゃーん!」」



「……はい?」



 俺は呆けたまま、ただそれだけを呟いた。

 ライナとロウエンも、さっきまでの雰囲気ではなく、満面の笑みでまさに喜色を全身から表していた。



 開けられた扉の先に見えたのは、まるでブティックのように数多くの服が陳列され、男であるロウエンの部屋には完全に似つかわしくない部屋であった。



「さあ、ではお着替えを始めますよ!」



 まさにるんるんとばかりにステップを踏みながら服を選び始める2人。

 ライナは兎も角、ロウエンまで同じ様子で服を選ぶのは何か異様なものを感じた。



 俺は「ああ、いつものライナだ」とほっと安堵の息を吐く……ことはなかった。

 何故なら、明らかに俺が着るような服が1つもなかったからである。



「なあ……お前ら、俺の目が悪いのか? ここにある服全部、女物にしか見えないんだが……」



「何言ってるの、当たり前でしょ?」



「そんなわけないだろうが」



 敬語をやめ、砕けた口調で邪気のない笑顔を放つライナに、俺はばっさりと切り捨てる。

 俺にその気はないし、させる気だってない。

 今後一生、考えを改めることもないだろう。



「アル様って、男なのよね?」



「見りゃ分かるだろ」



「分からないわよ、かなりの女顔で童顔だもの。でも、これで決定ね!」



 何が?

 大体、「まさか、女顔の男は女装をする」ことは当たり前だと思ってるんじゃないだろうな?

 こういった文化方面では日本の方が発達してそうだけど、それでも基本的には少数派だった。

 別に他人がする分には興味もなかったが、俺自身は別だ。

 全くやりたいとは思わない。

 ……まあ、そもそも引きこもりだったからテレビでしか見たことはなかったが。



「アル様、諦めれば楽になりますよ?」



 逆の意味でな!

 ロウエンは、ニカッと歯を出して爽やかな笑みを浮かべていた……あんた、そんな性格じゃなかったらだろうが!



「さあ……」



「始めましょう……」



「ちょ、ちょっと……」



 俺は扉から逃げようとするが、外で待っていた村人によって扉は固く閉じられた。

 俺は扉を何度も強く叩くが、一向に開かれことはない。

 とうとう俺は、ライナとロウエンによって両腕の自由を奪われてしまった。

 視界の端に、明らかに派手なレディースの服が映る。



 その日、俺の悲鳴が2度、村全体に響き渡ったという。

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