1.我はドラゴン
さて、初投稿です。
2話を晩に投稿します。
頑張ります。
諸君、俺はドラゴンだ。
いつもは人も立ち入ることの出来ない奥地でふんぞり返っては、1人……いや、1体で引きこもっている。
「人なんて虫けら」と言ってのける割には、住処から出てくることはほとんどない。
毎日を食っちゃ寝で、過ごし、声を出すことすら年に数回。
寝ている時間は1日の3分の2を占め、残りの時間も大体は近くで狩りをして食べる。
関わり合いを馴れ合いと言う。
ドラゴン以外の種族を下等生物と言う。
長距離移動を無駄な時間と言う。
俺から言わせてもらうと、ドラゴンは人間でいうニートと呼ばれているものに等しい。
馴れ合い? あんた、ただ他の生物と話し合うことにめんどくさがってるだけだろう。
下等生物? そんなことを言って、自分に近寄らせないようにして惰眠を貪りたいだけだろう。
長距離移動が面倒……もうこれに関しては、ただ上に同じとしか言う他ない。
ドラゴンというのは、全体を通しての自宅警備員というに相応しい種族だ。
それも、かなり重度の引きこもり体質を持っている。
仕事をやらなくていい、ずっと遊んでいられると言えばそれまでだが、逆に言えば、何もないのがドラゴンだ。
結論から言おう。
俺はドラゴンを辞めたい。
人生の輪廻転生から竜に生まれ落ちた俺だが、はっきり言って生まれてから約500年の生活は苦痛だった。
上空を飛んでいる姿を人に見られるだけで軍隊が出動してくるし、例え1人で鉢合わせたとしても竜の本能のせいで、どうやろうてしても高圧的な態度になってしまう。
竜の本能というのは抗おうと思っても抗えないもので、本来竜の身体を構成する魔力を使えば人の姿をとるのも容易いはずなのに、何故か竜の本能がそれをさせてくれない。
「寝たくないのに、寝落ちしてしまった」とかいう誰でもあるだろうこの無意識を、更に数倍以上に酷くしたものが竜の本能である。
元々「人間」だった俺ですらも、抗うことは出来ない。
話が逸れたが、前述した通り、俺は元々人間だった。
正確に言えば前世が人間だったと言った方が適切なのだが、普通なら残らないはずだというに、その人間だった頃の記憶を持っている。
しかも、前世はこことは全く異なる世界の日本という国に住んでいて、死ぬ直前までは通っていた高校を自主退学し、引きこもり……そう、まさにドラゴンのような生活を送っていた。
そのツケが回ったのか、俺はある日、コンビニの帰り道で車に轢かれてそのまま死んでしまい……そして、ドラゴンに転生して今に至るというわけだ。
元々が引きこもりだったのなら、別に引きこもっていても苦痛にはならないんじゃないの? と思う人も居るかもしれない。
俺も初めはそう思っていた……けど、よく考えてみてほしい。
まず、ドラゴンと人では年季が違う。
俺の前世は引きこもって2年だったが、今世、つまり転生後に関しては、もう500年も引きこもりを続けている。
更にこの世界、というかドラゴンの生活には、全く娯楽というものが存在しなかった。
前世ならゲーム、漫画、食事など、色んな楽しみ方があったが、ドラゴンは違う。
ドラゴンの生活は睡眠と食事だけ。
当然ながらゲームや漫画なんてあるはずもなく、食事にバリュエーションなんてそんざいしない。
ただ野生の鹿や猪みたいな獣の肉を生のままで食べるだけである。
元々人間だった俺は生食には抵抗があったために、かろうじて極端まで弱めた火炎ブレスで肉を焼いて食べてはいるが、それより上に発展させることが出来ない。
せいぜい、たまにやってくる魔物の肉を食べるくらいだ。
それだけではない。
前世で引きこもってはいても、一応やろうと思えば他の人と関わりを持つことは出来た。
いくら引きこもりだったとはいえ、知り合いが居なかったわけじゃないし、今となっては俺の汚点ではあるが、引きこもってる以上、養ってくれていた家族だっていた。
その点、ドラゴンになってからは、俺は人との関係を一切持っていない……いや、持つことが出来なかった。
単に竜の本能のせいなのだが、これが生半可じゃない。
竜の本能というのは遺伝子レベルにまで組み込まれているようで、どうしてもこの身体が人間とまともな意思疎通させてくれないのである。
俺の本心は気安く喋りたい……なのに、いざ口を動かせばそこから出てくるのは無駄に偉そうな口上のみ。
その口上のせいで、せっかく人と話し合えたとしても、すぐに逃げられることばかりだった。
そんな矛盾が、俺の身体に秘められている。
他の竜との関わり? そんなの言うまでもない。
これも種族的に興味を持たない性質だからか、会いに行ったとしても口を聞いてくれない。
それどころか、俺のことを異端だと言って、口うるさく罵られることだってあった。
何度も死にたいと思った。
何度も死のうかと考えた。
本当の孤独。
それが、俺の今の生活である。
もし前世のあの生活が原因だったらと思うと、何度も引きこもっていた自分を怒鳴りつけてやりたくなった。
今すぐ引きこもりをやめて、真っ当な生活に戻れと言ってやりたかった。
けど、もうあの頃に戻ることは出来ない。
それなら、と俺は最近、本能に抗うための方法を色々と考えていた。
これからは、人間と積極的に関わろうと思っている。
ドラゴンというだけあって、関わりを持ってしまえば絶対に相手は先に寿命で死ぬことも分かっている。
けども、今はその感情が欲しい。
そのためには、自分の身が危険であろうと構わない。
俺が、人間とドラゴン、両方の常識を覆してやろうと誓った。
「……やってやる」
俺は半年ぶりに、言葉というものを発した。
まずは人間とコンタクトをとる。
今まで空から人間の栄枯盛衰を見てきただけあって、俺は人間の活動範囲をよく知っている。
次に、竜の本能に抗うための作戦を行う。
これが今回で最も重要なことだった。
ただ、この方法についても俺は秘策を考えている。
もし上手く行けば、俺は人間の姿になることも出来るはずだ。
実施日は、明日から。
俺の第一目標は、人間の友達を作る。
そのためにも、今回の作戦は早めに成功させたい。
俺は明日からの決意に思いを馳せながら、そっと目を閉じ眠りについた。