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改革

 徳川家康が征夷大将軍に任命されるのではないかと噂されていた頃、それは、関ヶ原の戦いから二年を経ていた頃だった。辻政信は、藤堂高虎の養子である高吉に仕え、宇和島藩の富国政策に知恵を貸し、自らも土木工事に従事するなど毎日充実した日々を過ごしていた。


農家出身の三島は、実家に居たときを思い出し、農民とともに農作業にあたっていた。政信もそれをときに手伝った。

「大佐殿に勝るのは、農作業だけですからねー!!」

「三島には、敵わんな。とくに鍬の打ち方、扱い方がな。はっはっは。」


そんな平凡な日々を通し、日本全体で戦乱の世から平和を待望する声が高まりをみせていた。しかし、政信は、こうした世論に反し徳川家康打倒を目指した策略を思案していた。

「そうだ!この農民よ。この農民を使う。いわば、国民国家の芽をこの宇和島藤堂家から興すのだ。」

床でひらめいた発想は、農民を徴用し、軍事訓練を行い常備軍として用いるというもので幕末の長州藩で発足された奇兵隊のようなものだ。

農民以外にも戦で功を上げたいものや藩を守るという志をもった者を受け入れようと考えた。これぞ、国民軍である。


国民軍構想を引っ提げ、主君高吉に進言した。

「わかった。面白き試みだ。だが、父がなんというか。」

「それは、なんとか殿から大殿を諭してもらうしかありません。この政信、この策が藤堂家の更なる発展に繋がると確信しております!」

政信の真剣みを感じた高吉は、決断をする。

「うむ。まずは、少ない兵数からだが、父上にかけあってみよう。」

後日、高虎と高吉の会見により、「農兵隊」の発足が正式に決まった。

藩内の農民、僧、町人から有志を集め、俸禄を少し与えることとし、兵数三百ということで話がまとまった。農兵隊を管轄するのは高吉が、隊長は政信が就任することとなった。


「私が農兵隊隊長、辻政信である!諸君らは、この藩が危機に陥ったとき前線に出て戦う部隊だ。大殿と殿に忠誠を誓い、藤堂家のため命を懸けて戦え!!」

この檄に発奮した農兵隊員は、興奮し、雄叫びをあげた。

「ありがてぇー!これで武士に取り入れられるかもしれんな!!」

「藤堂様御ため、頑張ります!!」

農民たちは、俸禄を一部与えられたり、税金を一部免除されるなど優遇措置を適用される。ただし、働きが悪いものはこの部隊から解雇される可能性があることも同時に伝えられている。

こうした制度を作ったのは政信自らであり、飴とムチを使って素人部隊を育てようと図ったのだ。


一方、大坂城に詰める徳川家康に朝廷からの使者が到来していた。

「徳川殿に帝より伝言す。徳川殿は、先の大戦にて反乱を企てた者どもを討伐した功、そしてこれまで朝廷に尽くしてきはった功によりて、征夷大将軍任命す。」

「有り難き幸せにござります。この家康、帝御ため、命がけで事にあたってまいります。再度、帝への忠義を誓いもうすー・・・・。」

会見が終わり、側近が待つ間に戻った家康は、思わずガッツポーズを繰り出した。


「殿、ようやくでございますなぁ。これで江戸に幕府が開けますぞ。」

迎えた本多正信が意気揚々と語りかけてきた。

「うむ、正信。これより正式に征夷大将軍となった後、江戸城を中心とした政を始める。天海とともに幕府の機構や法度を思案しておけ。」

「承知致しました。天海もさぞ嬉しうことと思います。お任せくだされ。」

古狸が要求していた征夷大将軍というポストは、かの源頼朝や足利尊氏が任命され、後に幕府と呼ばれる政治体制を作り上げた。古来の先例を踏襲し、独自政権を構築しようとした家康は、このポストを帝に要求したのである。


「狸が征夷大将軍とは!? 世も末じゃ!!太閤殿下の御子であり天下を継ぐ我が子、秀頼を先取り、このような職に就くとは!!なんたる無礼か!!」

大坂城では、亡き秀吉の側室(第二正室と言われる)淀の方が発狂していた。それを諫めようと側近やお手伝いの女が淀を諭していた。

幼き秀頼には、このやり取り、顛末の意味があまりわからなかった。

「大丈夫じゃぁ!家康は、我が秀頼を大切にしてくれる後見人じゃ。」

「秀頼様は、なんと肝が太い・・・!これぐらいで浮かれては、なりませぬぞ、淀殿。」

大野治長は、秀頼の楽天的な性格から亡き太閤殿下を思い出した。自然に涙が溢れそうになり堪えながら淀を諫める。

「それもそうじゃのう・・・。さすがは秀頼じゃ!」

秀頼の言により、この場は静まった。ただ、治長も淀も、片桐且元ら側近も大勢が西から東へ流れゆく動きを感じ取り、不安が増していく一方であった。

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