高吉
関ヶ原の戦いの総括が終わり、諸大名は知行地へ帰参する運びとなった。その中で、領地を召し上げられた大名家が多くあり、家臣らは乞食になるか、就職活動を新たに開始せねばならなくなった。戦国の世の非情である。
藤堂勢も大坂を後にし、瀬戸内を船で横断。途上で陸路に上陸し補給をしつつ本拠である宇和島に向かった。
宇和島に帰還した兵を留守居となっていた家臣や兵の親族らが出迎えた。
「御屋形様!ご無事でなによりでございますー!!」
歓迎の声が飛び交う。路上には、兵と抱き合う者や戦場に散ったことを知らされた女房や子どもが泣き崩れる光景が広がっていた。
「いつの世も、戦争とは、こういうものなのですね。」
「そうだな。我が皇軍も今頃、どうなっているのか・・・・。」
政信と三島は、ふとガダルカナル戦線を思い出した。
知行地に帰還し、一週間ほどのんびりするとリフレッシュできた高虎は、新領地も含めた農政改革、農地開拓、防衛施設の拡充、水害対策に乗り出していった。
「勘兵衛は、農政改革を、高吉は農地開拓を、水害対策は、連房が。それぞれ担当し、万全を尽くせよ。」
一同「はっ!」
抜け目ない高虎は、次の戦に備えて対策を進めていく。この姿に政信は、驚嘆し、「さすがは藤堂高虎、津藩を明治まで残した男だ。」と感心した。
政信と三島は、藤堂高虎直属の防衛施設拡充政策を担当することになった。
軍人というスキルを活用したいという狙いから彼らを抜擢したのである。
政信の助言から堀の幅を広げることや石垣をより高くすることが軍策として決まり、それら一連の大工事が開始されていった。
作業の合間を縫い、直接仕える藤堂高吉に御目通りする機会を得た二人は、高吉が待つ間に入室した。
「わしが高吉である。以後、わしの命を聞き藤堂家のため奮戦せよ。」
藤堂高吉は、丹羽長秀の子で、豊臣秀吉の養子に出されるが、実子が出来た秀吉は、高吉を煩わしく思い高虎の養子に出した。戦国の世が生んだ人生といえよう。
「わしは、父の後を継げるのであろうか。」
と政信に問いかける高吉。その目には、悲哀が込められているようだった。
「もちろん、継げると思います。」
「政信!顔がウソくさい!本当のことを申せ!!」
軽くあしらった政信に高吉が激怒し、再度問いただす。
「未来人として、この先の歴史は、ある程度熟知しております。が、我々が来たことによりこの先、歴史が変わる可能性もあると思われます。」
政信は、自らの見解を付け意見を述べた。」
「・・・・であるか。お主が知っている歴史では、どうなるか。」
戸惑う政信に、高吉は、微笑みかけて言う。
「正直でよい。知っている限りを申してみよ。返答にすねるようなことはせぬ。」
「それでは・・・。確か、御屋形様には、実子が生まれます。その実子が跡継ぎとなります。ただ、上様は、粛清されることなく、自ら支藩の藩主になったかと存じます。」
高吉は、しばらく目をつむっていたが、事の次第を理解し、安堵した表情を浮かべている。
「命さえあればよい。政信、太郎。そなたらを家臣に持てたことは、わしにとってよかった。わしは、野心など何もなく命があればよいと思おておるし、父に反抗する気は、ない。」
「わかっております。」
そう、政信は、返した。
面談が終わろうとしたとき、去り際に高吉が振り返り、二人に自らの気持ちを明かした。
「ただ、やはり未来というものを知ってしまうと欲が出そうじゃわ!ふははははっ!!」
豪快に笑い飛ばし、戸を出ていった。
未来人を家臣に得た高吉に化学反応が起ころうとしていた。
なにがなにやらわからず右往左往する三島に対して、大本営を指揮し暗躍した政信は、ニヤッと不敵な笑みを浮かべていた。