戦端
ガタイのでかい甲冑姿の猛将に問いかけられた政信と三島は、口を開いた。
「我々に敵意はありません。自分たちも何がなんだかわからないまま気づけばここに居りました・・・・。」
猛将は、じっと黙りこくり目をつむっている。
「勘兵衛、この者らも戦力とし、おおいに使え。」
「はっ! 仰せのままに。」
勘兵衛というのは、渡辺勘兵衛という藤堂家の家老を務める武士である。
藤堂高虎の懐刀として重宝されていた。
そのとき、銃声と雄叫びが発せられた。ほら貝がこの地に響く。政信らが混乱して間もないにも関わらず、天下分け目の合戦の火ぶたが切っておとされた!
もちろん、政信と三島は、これが何の戦を意味するのかは、まだわかっていなかった。
ブオオオオオオオオオオオオオオンブオオオオオオオオオオオオン!!
やぁー!やぁー! はっぁー!! 我こそは~!!!ヒヒーン!!!!
戦場は、ヒートアップする。ヒートアップは、止まらない。皆、揃って
鬼であった。鬼の目をし、その目は血で真っ赤になってるように。
「そちらも付いてまいれ!!目前に迫りくる敵をなぎ倒せば、御屋形様も
そちらの命を救ってくれようぞ!!」
「はっ!戦います!!」
政信、三島は、揃ってそう口にする。誰の陣営かわからず、何の戦いかわからないけれども、猛将の命令を聞き入れて槍を持つしか選択は、ないのだ。
わぁーっと群衆が一体を成し、敵陣に突撃する。敵陣を指揮していると思われる神輿に乗った者が政信の視界に微かに見えた。
軍人の血が騒ぎだした政信は、藤堂軍の左側方に位置していた。取っ組み合い、斬りあい、鉄砲の銃撃戦も起こる中、敵味方ともに負傷者、戦死者が続出する。
藤堂軍に対するは、大谷刑部吉継、その人である。大谷も高虎も元は、太閤秀吉に仕え独立大名となるという経歴を有する。お互い、認め合いながらも乱世の宿命ゆえ、敵味方で相対し、殺し合いをしているのである。
「藤堂殿もよき家臣を持たれ育てられたものよの。ごほっごほっ。しかし、我らも負けるわけには、ゆかぬ。敵陣右が脆い!そこを付けー!!」
神輿の指揮官の采配により、藤堂軍左側面に大谷軍の精鋭が突撃した!
突撃は、政信にも襲い掛かる。
「大日本帝国陸軍大佐として殺されるわけにいかん!生きて元の世界に戻らねばならん!なんとしても生き残るぞ、三島ぁ!」
政信は、そう檄を飛ばすと保持していた手榴弾を手にし、突撃してきた敵兵に放り込んだ。
ドバーン!!!!
「うわぁあああ!!!」「なんじゃぁ!!」「退け、退けぇー!!!」
大谷軍に押されていた藤堂軍は、政信が投じたこの時代に存在しない兵器によって形勢を押し戻す。
「よし、この機を逃すな!! 刑部の乗った神輿を狙え!!突撃じゃぁー!!」
高虎の采配により駒が動く。ただ、大谷軍もそれで逃げ帰るような弱小軍ではない。
戦線は、再び膠着した。
そうする間、数時間経っただろうか。高虎の下に密使がやってきた。
「藤堂様、内府様より書状にございます。」
「勘兵衛、読め。」
「はっ。小早川より我が陣に返書来る。策は、成功す。とのことでござる。」
「そうか。大義であった!その方、内府様へ戦勝の酒を持ってゆけ。」
このとき、歴史は動いた。
「腹を決め申した。内府様に付き、治部、刑部を地獄に葬るぞ。」
色白き青年が決断を下した。小早川軍総勢1万5000が山を下り、大谷軍
めがけて進撃を開始した!