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大坂

 高虎と半太夫の謀議から三日ほど経った早朝、政信が寝床から叩き起こされ、高虎の間に連行された。


「うかつだったか! やはり御屋形様は、私を災いの元凶だと考えているのか・・・」

政信は、心の中で思わず、こう呟いていた。呟きは、ぼやきに変わってゆくが、後悔しても遅い。

「お主を乱暴するつもりはない。殺すつもりはない。じゃが、わかっておろうな?」

「はっ・・・。なんとなくですが、うっすらと理解しております・・・。」

政信は、動揺を隠せず目が泳ぎつつ言葉をゆっくりと発する。

「もう言葉は、いらん。さらばじゃ。」

「・・・一体、どういう!?」

政信は、追放されるということを脳で理解していたが、エリートとして育った自分がなぜ、このような仕打ちを受けるのか、という疑問が生じ、暴れまわって抵抗を試みた。


「たわけぇーい!!!!!」

半太夫が激怒し、政信を掴み部屋から庭へ放り投げた。半泣きになった政信に対し、高虎も半太夫はじめ家臣も同情する気配はなく、政信を拘束し、領地外へと追放された。ちなみに三島は、お咎めがなく引き続き足軽として藤堂家に残ることとなった。高虎は、政信と三島の分裂を図ったのである。



 追放処分から数週間。政信は、いま、どうしているのか。彼は、近江に入国し、領民から施しを受けつつある地へと向かっていた。それは、「大坂」の地であった。

「大坂へは、あと少し。頼るところは、自分が知る歴史上、あの地しかない・・・。」

政信は、必死に歩を進めた。食べるものはなく、腰に刀と脇差を持ったのみで着の身着のままという有様だった。帯刀を許されただけまだマシといえるが・・・・・。


 近江を通過し、京南部を通過。政信は、伏見を通り、淀に辿り着いた。これまでの道のりは、本当に大変だった。ガダルカナルに比べれば、よほどマシだったが、盗賊や野武士に襲われることもあった。政信は、脚力に自信があったので逃走することで難を逃れてきた。

「あっ!虎じゃ!虎がおるぞー!!」

などと見え透いた嘘を言い放ち、一目散に逃げる。帝国軍人エリートとしては、実に耐えられない滑稽な姿だ。自尊心は、もちろん深く傷ついた。


 現在の枚方市、寝屋川市、そして摂津市に至ったところで力尽き果て倒れこんでしまった。

「・・・これ、・・までか・・・。」

気を失い、これ以降、全く記憶がない。


 目を覚ませば、そこは、大きな男が中央に座す大部屋であった。

「ようやく目を覚まされたか。治長、飯をもってこさせよ。」

その大柄の男がなにやら家臣に命じている。

「め・・・めし。めしを分けてく・・・れませぬ・・か。」

政信は、飯に反応し、飯を分けてくれと頼んだ。声を出すだけで精一杯という状態であること、そして、この光景の謎で頭が一杯であった。


「う、うまい!!うまい!!」

旨いと連呼し、差し出された食事を一心不乱に食す。これほど旨い飯は、初めてといっていい。それぐらい旨かった。ちなみに献立は、茶漬けと漬物、川魚の焼いたもの、豆腐のようなものであった。

「辻政信殿とお見受けいたす。」

「!? なぜ私の名を!あなたがた、何者か!」

政信は、驚きを隠せない。

「わしは、大野修理大夫と申す。こちらにおわすのは、亡き太閤殿下の御子で我らが主君、天下人の豊臣秀頼君でござい申す。」

「なんと・・・!?」

政信は、更に驚愕した。

「そうか、ここは、大坂城でございますな。私をお助けしていただき有難うございます。殺す気は、ない・・・ですよね?」

「むろん。むろんじゃ。」

治長の隣に座る男がそう返した。

「わしは、片桐と申す。辻殿が倒れているところを救い、この城へ運んだのじゃ。」

「そ、それは、なんと。お礼を申してよいか・・。」

政信は、少しづつ事の次第を把握、推論していった。飯を食べたことで体力が回復し、脳に栄養が行き出したのかもしれないと思った。


 大坂方は、幕府との軋轢が深まりつつある状況でいつ開戦してもおかしくないほど事態が深刻化していた。決戦に備え、浪人を既に雇い出している。一人でも多くの兵が欲しいので政信も連れてこられたわけである。

「辻殿は、関ヶ原、そして宇和島の乱にて兵を率い活躍したと聞く。面白き武器を使うと聞く。」

「はっ。それほどまでも。藤堂様の指導の賜物にございます。」

「その高虎がそなたを追放したと。そう聞いておるぞ。」

政信が藤堂家を追放となっていたことを既に大坂方は、掴んでいたのだ。思ったよりも情報網がしっかりしているのかもしれないと政信は、思った。


「して・・・・、話は、ここからじゃ。治長、話を辻に伝えい。」

秀頼は、何を政信に伝えたいのか!?


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