暗殺
高吉の協力を引き出した政信は、密会の終了後、床についた。なかなか熟睡できず色々なことを考えているうちに朝を迎えてしまった。これ以後、政信の生活は、何事もなく日が経っていった。
ある日、政信と三島は、新領地の開拓政策によって新田開発、土手整備などに従事していた。
「いやぁ、きついっすねぇ、大佐。」
「きついな。腰が痛い!」
政信と三島は、談笑しながら農民と農作業、土木作業を行っている。
そのときである。
パンパン!!と銃声があたり一面に鳴り響いた。
「うっ!!!!」
一瞬のことであった。銃声の後、三島が倒れこんだ。
「どうしたぁ!!」
「く、曲者じゃぁ!!!繁みから聞こえたぞ!!」
「はやく治療を!!!!」
和やかな作業風景が一変し、藤堂家の家臣を襲ったテロ事件が起こったのである。殺伐とした空気があたりを漂う。
「肩だな。医者を呼べ!!緊急処置は、私が行う!」
政信は、軍人としてのスキルを活かし、三島の肩の内部に残った弾を取り出すと水などで消毒をした。
「うー!!痛い!!痛い!!!!」
三島は、その痛みから悶絶し、奇声を発するが、政信から叱責されるとうなだれてしまった。
三島の治療は済み、一命を取り留めるも暫く自宅で治療に専念することとなった。
「なに!曲者めが!!」
高虎は、事件の報告を聞き激しく怒った。自身の家臣を狙った悪質な犯行に対して怒りを露わにしたのである。大名として当然といえる。
「間者の姿を捉えることは出来ましたが、我らの所領から既に脱しております。」
関ヶ原の戦い後、新たに家臣となった渡辺了が事件の事後報告を行った。
「所領を出られたら仕方ない。了よ、近隣の藩にこの事件を報せ、患者を捕らえるのだ。」
「ははっ。」
了は、桑名藩や彦根藩、紀州藩など近隣の藩に文を出し、情報収集にあたることとなった。しかし、どの藩からも間者の情報は、一向に出なかった。
「辻を外したか!馬鹿もの!!!!」
「す、すみませぬ・・・。しかし、奴の手下と思われる三島太郎という者を撃ちました。」
「そいつも生きておると聞く!失敗じゃぁ!!!」
この事件のフィクサーは、やはり、天海であった。天海は、歯ぎしりをしながら部下を責め続けた。
「もうよい。もうよい。」
そう天海が申すと、部下は、天海の部屋を後にした。
「秀康を殺したのは成功したが、目障りな政信を仕留めることが出来なかったか・・・。」
天海は、自室で一人となり、こう口を漏らした。結城秀康は、この前年にこの世を後にしていた。
「秀康殿。この薬は、病によいので飲まれなされ。」
甘言を漏し、己の薬学の知識を活かして微量な毒を含んだ毒薬を秀康に送っていたのだ。薬を提供して一年後に秀康は死亡した。
秀康を暗殺した理由は、家康よりの命令による。
「倅は、もう秀忠が居ればよい。秀忠の下の兄弟は居ってよいが、秀康は、目障りじゃ。始末せい。将軍の兄は、いらぬ。」
「・・・し、しかし、よいのでしょうか。」
天海は、思わずためらう。家康の実子であるからという理由と、家康の腹黒さに肝を冷やしたからだ。
「秀康は、律義者ゆえ、かつて世話になった豊臣に同情し、秀頼に何かあれば大坂に駆けつけると言うたそうじゃ。そのような噂が出ること事態、この父に恥を塗る行為、不届き千万の大うつけよ!!」
「か、かしこまりました・・・・。」
天海は、我が子をも殺めようと図る家康に恐怖し、小便を漏らしてしまった。こうして、謀議が実行された。
「政信は、我が家に災いをなす元凶でございます。」
「ほう。半太夫。わしもその考えじゃ。」
「ならば、政信を追放することでござります。」
「決めた。そうしよう。後の処置は、貴様に任す。」
「はっ。その通り、実行いたします。」
この事件は、幕府が仕掛けたものだ。高虎は、それを見通していた。津に来て召し抱えた葛原半太夫が政信追放を提案したとき、腹が遂に固まった。これ以上、家康から信頼を無くすことは、あってはならない。家を守ることが高虎の使命であったから。