二代
1605年、右近衛大将に任官されていた征夷大将軍、徳川家康の嫡子、秀忠が征夷大将軍に任命された。家康と九条兼考が秀忠の将軍職世襲を推挙し、朝廷公家に根回しを行っていたのである。将軍職が世襲され秀忠が継いだことは、日の本中に知らされた。
「なんということじゃ!!汚らわしい狸め!!我が子、秀頼へは、何の相談もなしに、しかも秀頼を差し置いてじゃ!!」
報告を聞いた淀殿が大坂城内で暴れ回っていた。それを側近がなだめるも効果は、無かった。
「秀頼君も右大臣に昇進しております。官位は、秀頼君の方がよほど上なのでありますし、あの狸も我らを無視は、しておけませぬぞ。」
「右大臣への昇進は、目出度い!しかしじゃ!あの糞狸の意図は、見え透いておる!!」
大野治長が淀を説得するも怒りは、収まらない。ただ、後の歴史を見る限り徳川家康の幕府地盤形成と徳川宗家の将軍職世襲化が開始された出来事であり、淀の怒りは、ごもっともなのである。治長は、冷静といえるが鈍感ともいえる。
「わしは、大丈夫じゃ。右大臣として仕事に励み、いつしか父君が務めた関白になる!秀忠様は、義父でもあるのじゃ!」
秀頼が口を開いた。すでに千姫とは、秀吉生前の意向もあり結婚している。豊臣と徳川が手を携えて天下泰平を維持したい、それが秀頼が抱いた夢なのであった。
この言葉を受け、淀と治長は、涙を目に溜め感慨に浸っていた。
「よお申されたのう。いつしか太閤殿下のような立派な大人になるのですよ、秀頼。」
母と子の結びつきは、また一段と強くなったようだ。
一方、伏見城では、家康と天海、本多正信がなにやら密談していた。
「天海、それは、誠か。」
「はい。藤堂は、なんぞ妙な者を配下に加えています。ちょうど半年前に宇和島で小さな戦がありまして。私が付けた忍びが目撃しています。」
「続けよ。」
「はっ。手投げ弾の威力が見たことがないもので威力が強いとの報告。そして、関ヶ原の戦いにおいても藤堂軍が手投げ弾を使用しているとの報告があります。」
「左様か。正信は、どう思うか。」
「実に怪しきことかと。しかしながら、大御所と懇意にしておる高虎様、その人柄もよお知っており申すが・・・・。謀反を企てるような者では、ないかと。」
「そうじゃな。しかし、捨ておきならん。天海、今後も藤堂を監視せよ。何かあらばすぐさま報告せい。」
伏見における談義は、藤堂家に関するものであった。鋭い嗅覚で天海が政信、三島の存在を気付いていた。天海は、その不安が、勘から確信に変わろうとしていた。
そう、なぜなら天海、その人も「未来人」だからである。
天海は、西暦201X年からこの時代に飛ばされた。なぜかは、わからない。そして、彼は、薬剤師であり実家が寺であったことから仏教の知識に精通していた。薬剤師としてのスキルは、健康オタクである家康のご機嫌を取るうえで活かされた。
そんな彼は、未来人であることを誰にも伝えず胸に秘めていた。いつから天海と名乗り家康に仕えたのか、本名は・・・。細かいことは、謎に包まれている。