攻防
毛利家が密かに扇動し宇和島に混乱を起こすべく動員した「髑髏軍」が闇夜に紛れて戦を仕掛けてきた。
「者ども、目指すは、高虎が寝ておる宇和島城じゃぁ!!前身突撃、首級をあげよぉ!!!!!」
「おおお!!!!!!」
髑髏軍を指揮するのは、農民出で関ヶ原の戦いにおいて足軽として従軍した経歴を持つ「八兵衛」である。なかなか肝が据わった性格で関ヶ原の前哨戦で首級を上げるなど活躍し、この度の大役を仰せつかった。
無警戒であった藤堂軍は、髑髏軍の侵攻を許し、無抵抗で海岸に上陸され、海岸にほど誓い砦が危機に陥ってしまっていた。
「何やら騒がしい。」
!?
砦を守る兵が驚愕の表情を浮かべ、暫く硬直してしまった。
「曲者じゃぁ!!曲者というても数が多い!誰ぞ、砦の兵を全て起こし、すぐに動員せよ!!」
油断した隙を狙われた藤堂勢は、髑髏軍大将、八兵衛が指揮する精鋭三千に包囲されるとともに、火の付いた弓矢が砦めがけて打ち込まれる。
狼狽する藤堂勢を他所に八兵衛が兵を鼓舞する。
「今じゃぁ!!!突撃ー!!!!!」
砦の城門めがけて大木を持つ兵が突進した。城門をめぐる攻防が始まったのである。
「城門を守備するとともに伝令を呼び、急ぎ宇和島に居る御屋形様に伝えよ!!」
砦を守備する深井吉親は冷静に戦況を見つめ直し、冷静な判断を下した。実に賢明な判断であり、後の戦況を左右する大きなジャッジとなった。
砦守備隊率いる深井が城門に勢力を結集させようとしている中、15分程度が経ち、均衡が崩れる。
「よっしゃぁ!!城門攻略!!」
兵が吠える。そして大将も吠える。
「全軍、砦に入り、大将を討ち取れぃー!!!!!」
髑髏兵が波を打ち、砦に入る。勇敢な藤堂兵がそれを阻止するため敵に飛びかかるも無残に切り倒され、また槍に突き抜かれて死んでゆく。
まさに砦は、風前の灯火という有様だった・・・・・・・・。
砦は火に包まれた。攻略されたのである。砦を守護する深井は、難を逃れ宇和島城を目指して歩みを進めていた。
「大将!!ここに首を並べておきました。実に百は、下りませぬ!!」
「でかした!!砦外の女は、くれてやるわ!!ぐははははは!!!!」
髑髏軍には、道徳というものがなく、ただ己の快楽に身を任せる集団だった。制圧された海辺の海岸の周囲の村々には、髑髏軍が跋扈し、逃げ惑う村人を殺し、女は、犯す、または連れ去るという惨劇が繰り返された。彼らにとっては、報酬なのである。実に戦国時代らしい悲劇であった。
砦が落ち炎に包まれたその頃、宇和島城主、藤堂高虎もその様を目視し、砦から来た伝令の説明を聞いていた。
「敵は、何者かわかりません。しかし、兵は、総勢一千、またはその倍は、おり申す。」
と伝令が伝えているうちに、もう一人伝令が現れ、報告した。
「御屋形様にご報告申し上げます!山間部にて何者かの兵が決起し、城に進撃中でございます!急ぎ、迎え討つ兵を!!!!」
じっと戦況を聞き、高虎が思案を重ねている。そして、口を開いた。
「長の兵を山へ!勘兵衛と高吉の兵は、海岸砦へ迎え!!!敵を返討ちにするため全力をあげよ!!!」
我らが大将の腹から出た野太い声が城中に響き渡り、それとともに兵が眠りから目を覚まし、戦闘員に変貌した。よく統制されたその軍は、これまで幾度も危機に直面してきた。もちろん、朝鮮出兵にも参加している猛者揃いである。
呼び出された高吉と勘兵衛が率いる兵が砦の前方まで急ぎ駒を進めた。髑髏軍は、火の出ていない建物に篭り、籠城の構えを見せる。
「我らを侮る不届き者よ、天誅じゃぁ!!!!」
勘兵衛が雄叫びをあげると、
「我が名は、八兵衛と申す!!藤堂高虎の首を取りに参った!!覚悟めされい!」
両軍の舌戦が開始され、それぞれの兵も罵り合いを始めるに至った。
そんな中、高吉は、政信がまとめる農兵隊を引率していた。そして、政信に農兵隊としての指示が与えられた。
「政信、農兵隊は、隠密行動を始め、砦の大将級を殺せ。そこから勝機が生まれよう。手投げ爆弾も使ってよい。」
「はっ。それでは、我が隊、作戦を決行いたします。」
隠密作戦が開始されると同時に、敵兵が藤堂軍めがけて弓矢を射掛けるとともに足軽が突撃してきた。
均衡を破った髑髏軍が藤堂軍精鋭に襲い掛かろうとしていた。その頃、夜が明け太陽が昇ろうとする、そんな時であった。