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【1:2:0】月下の図書塔

作者: Coo

■30分台本



■登場人物


・瀬乃貴識  (せのきしき)  ♂20:大学生。霊感強め。苦労人。

・朝倉那由他 (あさくらなゆた)♀22:瀬乃の隣人。霊能力有。傍若無人。

・レジィ   (れじぃ)    ♀ 9:廃墟洋館の少女。健気。

・警官    (けいかん)   ♂30:夜間取り締まり中。


・N     (なれーしょん)    :情景描写。



■配役(1:2:0)


♂ ○(L116)瀬乃・警官:

♀ □(L 80) 朝倉   :

♀ △(L 42) レジ・N :



■補足・備考


※1 配役及び台本中の『○□△』は、

   各配役の台詞を検索する際の検索対象にお使い下さい。

※2 SEに関して、

   SEの使用及び選択における判断の一切をこの台本の使用者に委ねます。

※3 放送等にはご自由にお使いください。ボイスドラマ等企画については、 

   メッセージボックスにてご一報ください。

※4 著作権は放棄しておりませんのであしからず。



―――――――――――――――ここから本文―――――――――――――――




△N :【4月9日。

     厄介ごとというものは

     いつもこっちの都合なんてお構いなしに勝手にやってくる。

     あいつらに休暇や休日、この際休息でも何でもいいんだけど、

     そういう言葉はないのかな。

     ご苦労なことに今日も休み知らずにやってきてくれた。】





■01.


●瀬乃宅


○瀬乃:「またか……」


□朝倉:「おかえりーポチ」


○瀬乃:「……那由他さん何やってるんですか」


○瀬乃: ポチというのは僕のあだ名である。

     瀬乃貴識という名前があるにも関わらず、ずっとそう呼ばれている。

     ちょっと前にポチの由縁を聞いてみたところ、


□朝倉:「昔飼ってた犬に似てる。

     貴識なんてごつい名前じゃ名前負けしてるから

     ポチぐらいでちょうどいいだろ」


○瀬乃: と非常にありがたい答えを頂いた。


□朝倉:「今晩の夕食は何だ、ん? 腹が減って仕方ないんだが」


○瀬乃:「今日はトマトリゾットです」


□朝倉:「それは美味そうだな」


○瀬乃:「那由他さんの分はないですよ」


□朝倉:「……」


○瀬乃:「食費」


□朝倉:「出世払いするから」


○瀬乃:「出世するんですか?」


□朝倉:「……」


○瀬乃: もの凄く寂しそうな目でこっちを見てくる。捨て猫か何かか。

     那由他さんの『俺は俺の道を行く』的な普段の傍若無人っぷりと、

     期待を込めた物欲しそうな目のギャップがおかしくて笑ってしまう。

     仕方ないので那由他さんの分も含めたリゾットをつくり始める。


□朝倉:「そうそう、お前何か憑いてるぞ。どっか寄って帰ってきた?」


○瀬乃:「僕には見えないんですけど……」


□朝倉:「まぁ、かなりちっさいのだからあんまり気にすんな。

     お前の体質じゃそんなのはいくらでもついてくるだろ。

     お、美味そう。……そうだ、いいものを持ってきてやろう」


○瀬乃: そういうやいなや那由他さんは部屋を出て行ってしまった。

     たぶん自分の部屋にビールでも取りにいったんだろう。

     あの人の部屋は酒類とインスタント食品だけは豊富にあるからな。



 ***



○瀬乃: 那由他さんの言ったいいものとは、

     やはりビールやらウイスキーやらの酒類だった。

     それにこの人がいいものと呼ぶものはそれぐらいなような気がする。

     期待を裏切らない駄目具合だ。

     食事を終えてまったり飲んでいると唐突にこんなことを言い出した。


□朝倉:「なぁポチ。ちょっと出ようぜ」


○瀬乃:「こんな時間からどこ行くんですか?」


□朝倉:「いいところ」


○瀬乃:「…どこなんですか?」


□朝倉:「とある廃墟洋館」


○瀬乃:「嫌だ、絶対断る」


□朝倉:「さぁ、行こうかー」




●駐輪場


○瀬乃:「って、那由他さん駄目ですって、僕酒飲んじゃってますし。

     それに原チャじゃ二人乗りはやったら駄目なんですよ」


□朝倉:「知ってるよ、でも遠いからいいじゃん。歩いていくの疲れるし」


○瀬乃:「疲れるんだったら廃墟洋館なんて行かなければ良いじゃないですか。

     大体なんで今日いきなり行くことにしたんです?」


□朝倉:「んー、気が向いたからだね。

     思い立ったら吉日とか昔の人が言ってたじゃないか。

     それに君は運転しなくて良いよ。私が特別に運転してあげよう」


○瀬乃:「いや、運転してあげようじゃなくてですね、

     那由他さんもお酒飲んでたでしょ」


□朝倉:「いや、酔ってないし」


○瀬乃:「警察のドキュメンタリー番組で捕まった人の常套句を

     こんなところで言わないで下さい。

     そもそも那由他さん免許持ってましたっけ?」


□朝倉:「持ってるに決まってるじゃないか。私が自分で許してるんだから」


○瀬乃:「いや、それ無免許ですから!」


□朝倉:「どうして私が国家の犬ごときに認めてもらわなければならんのだ?

     運転できるんだから良いだろ?」


○瀬乃:「駄目です。無免許、飲酒に二人乗り。

     それに最近は飲んでる人に運転させた人も罪に問われるんですから」


□朝倉:「あぁ、国家の犬にしかなれない、かわいそうな人間が。

     この犬、犬め。ポチー、ポチー。

     あぁ、そうだ二人乗りじゃないな。

     私とかわいそうな犬っころ一匹だから二人乗りじゃないし」


○瀬乃:「ひどい、とうとう犬扱いですか。

     だいたい二人乗り以前の問題を言ってるんですよ、僕は」


□朝倉:「ごちゃごちゃうるさいな、君は。

     そんなに言うなら君が運転すればいいだろ。

     それが嫌ならさっさと乗るんだ」


○瀬乃: 抵抗するだけ無駄なようだ。

     仕方がないので那由他さんに鍵を渡して、狭いところに何とか座る。


□朝倉:「変なところをさわるなよ?

     でもまぁ、振り落とされないようにしっかり捕まっておけ」


○瀬乃:「振り落とされないようにって、原チャですよ?

     法定速度とか分かってます?」


□朝倉:「君も最後までうるさいな。私が法律だ! ほら行くぞ!」





■02.


●廃墟洋館外

 

○瀬乃: 地獄を見た。それ以外に何も言えない。

     那由他さんに今後鍵は絶対に渡さないようにする。

     気持ち悪い……。


□朝倉:「ほらしっかりしろ、ぐずぐずしてたら夜が明けるぞ」


△N : 雑草が生い茂り、壁にも蔦などがまとわりついている。

     不気味な雰囲気はもちろん、霊的な気配がひどく濃い。

     霊感の無い人でも感じ取れるのは納得出来るところだ。

     霊能スポットと有名になる日はそう遠くないだろう。


□朝倉:「遅いじゃないか、さぁさっさとここを開けてくれ」


○瀬乃:「ここ、って…ガラス窓ですよ?

     あのですね、器物破損罪やら住居不法進入……」


□朝倉:「ん?」


○瀬乃: とか言っても無駄だなと思った。なので仕方なく従うことに。

     とりあえず、窓の形状を調べる。


□朝倉:「いやー、ようやく君も分かってくれたか。

     男はごちゃごちゃ言ったら駄目なんだよ。

     よし君を犬から、羊にランクアップしてあげよう」


○瀬乃:「さらっと男女差別発言ですよ、それ。

     あと何で犬から羊なんですか。

     牧羊犬とかあるし、明らかに劣っているような気がするんですが……

     まさか干支で、

     『次は猿だよー』とか面白いことを言おうとしてるんですか?」


□朝倉:「ほう……そういう考え方をするか……。

     君もなかなかおもしろいことを言う。

     だがクローン実験だってネズミから始まってようやく羊じゃないか。

     まぁ、猿や人間のクローンなんてあっさり作れるぐらいの科学力は

     もうあるはずなんだがね、

     そんなことよりさっさと開けないか。この馬鹿犬」


○瀬乃: あっさり犬にランクダウンしました。感慨も何も全くございません。


○瀬乃:「そんなこと言っても、これ駄目ですよ? いつの建物ですか?」


□朝倉:「んーそうだなー戦前は確実。

     戦後からずっと人が住んでいないらしいからな、

     おおよそ明治維新かそこら辺もしくは日清戦争付近かもしれないな」


○瀬乃:「那由他さん、カッターナイフとか薄くて堅い物ありますか」


□朝倉:「ん」


○瀬乃:「…これを、こうして………っと」


――[SE] ガチャリ…


○瀬乃:「開きましたよ。 あとナイフありがとうございました」


□朝倉:「さて、それでは行こうか。楽しい探検の開始だ」




●廃墟洋館


△N : 廊下には埃がたまっており、

     端々にある蜘蛛の巣は古すぎて粘着力も無くなっていた。

     真っ暗な静寂の中、懐中電灯で辺りを照らしながら2人は進む。


○瀬乃:「ところで、何でこんな所にわざわざ来たんですか?

     そろそろ理由くらい教えてくれたっていいでしょ?」


□朝倉:「そうだな、まぁ、話しても良いか。

     別に口止めされてるって訳じゃないし、

     まぁ協力者みたいなものだしな、原チャ提供と言うことで」


○瀬乃:「……?」


□朝倉:「私が霊感強くてちょっとした力があるってのは知ってるだろう?

     それで、たまにそう言う系の頼み事受けることがあるわけさ。

     まぁ、今回のコレもそんなモノの1つなんだよ。

     働きたくないけど、まぁ、お金無いと酒も飲めないしなぁ」


○瀬乃:「って稼ぎがあるんなら、

     出世払いなんて言わないでちゃんと食費払ってくださいよ!」


□朝倉:「んー、だって何でか知らないけど君にお金渡すのが嫌なんだ、

     何というか精神的に」


○瀬乃:「精神的とか好き嫌いの問題で、食費を出すのを渋らないで下さいよ。

     お金さえ出してもらえば僕だって、気持ちよく料理を出しますよ」


□朝倉:「めっしー君め……」


○瀬乃:「……あーもう!

     とにかく、今回はここの霊をどうにかすれば良いんですよね」


□朝倉:「いーや? 別にすることなんてないよ

     霊に干渉することなんて、そう簡単にできることじゃないし、

     一通りこの館を歩いたらおしまいにするさ」


○瀬乃:「そんな適当でいいんですか?

     でも心の安定を得るためだからいいのか…」


□朝倉:「まぁ、たいてい何も起きないけどね。

     ただここはちょっと気配が普通とは違うかな」


○瀬乃: 先に進むにつれ、周囲の気配が強くなっていく。

     僕みたいな中途半端な霊感の持ち主でも、まっすぐな通路の奥に

     何かが潜んでいることは、はっきりと感じ取れた。


□朝倉:「この奥、か」


○瀬乃: 通路の突き当たりには扉があった。

     扉を開けてみて、僕は息をのんだ。





■03.


●廃墟洋館


△N : 屋敷の中央にそびえ立つ最も高い尖塔せんとうが、地下から天井まで

     すっぽり空洞になっている。尖塔の屋根にはめ込まれた窓を通して、

     まばゆいほどの月光が差し込んでいる。

     銀色の光が槍のように地上めがけて降り注いでくるその眺めは、

     絶景だった。塔の内側には通路がらせん状にうずまいていて、

     手すりの奥に目を凝らすと大量の本が収められていることがわかる。


□朝倉:「これは…吹き抜けか」


○瀬乃:「図書館なのかな。……!?」


――[SE] バタンッ…


△N : 大きな音とともに、入ってきた扉が閉まる。

     鍵は掛かっていないが何らかの力が働いていて、

     開けることができなくなっていた。


○瀬乃:「ぇ、何? うわぁっ!……助けてー!」


○瀬乃: 僕の身体が突然、ふわりと浮いた。

     僕は自分の身に起こった予想外の出来事を把握する余裕がないまま、

     必死で空中に手を伸ばし、

     らせん状の通路の手すりのどこかにひっかかった。


△レジ:『ご主人の書斎を見たな?』


○瀬乃: 僕はしばらく手すりにしがみついていた。

     ようやく我にかえると、

     震える手で手すりを必死によじ登って通路に降りた。


□朝倉:「どうやらポルターガイスト現象みたいだな」


○瀬乃:「那由他さん……」


□朝倉:「腰を抜かすとはずいぶん間抜けだな。とにかく落ち着け」


○瀬乃:「……ああ助かった。ありがとうございます那由他さんっ」


□朝倉:「しがみつくなみっともない。掴まるなら手すりにしろ。早く」


○瀬乃: 那由他さんのおかげで、僕はどうにか落ち着いた。


△レジ:『このねずみどもめ!

     ご主人の家に勝手に上がりこんで、一体なんの用だ!』


○瀬乃:「一体どこから喋ってるんだ?」


□朝倉:「馬鹿、目で見えたら霊じゃないだろう。それにしても…。

     館の主は黒魔術か何かやってたのか? こんな守護霊なんか従えて」


○瀬乃:「那由他さん、普段から仕事でこんな目にあってるんですか?」


□朝倉:「いや、こんなのは久しぶりだよ。

     この屋敷に何があるのか、ぜひ拝見したいものだね」


○瀬乃:「そんなうれしそうに言わないでくださいよっ」


△レジ:『たわけが! 貴様らのようなこそ泥に見せるものなどない。

     さっさと潰れて死ぬがいい』


○瀬乃:「また身体がっ!? うわぁああ那由他さん!」


□朝倉:「んー。……よし。

     これでひとまず問題ないよ。手を離せ」


△レジ:『なにを………』


○瀬乃:「あ、あれ? なんで?」


□朝倉:「ここは光があるからね。自分の影を押さえておけば飛ばない」


△N : 通路の絨毯の上にある2人の影。

     その重なった部分に、ナイフが突き立っていた。


□朝倉:「さて、これ以上何もないようだし、ここにある本を頂くとしようか。

     貴重な魔道書なんかも結構ありそうだしね」


○瀬乃:「って、那由他さん。普通にナイフから影離れてますよ?」


□朝倉:「何を言ってるんだ、ポチ。そんなもの必要あるわけないだろ?」


○瀬乃: 何? このナイフ、フェイク?

     一体、なぜにそういう騙され方をしないといけないのだろう。

     ともあれ、那由他さんに追いつくために、ナイフを抜く。


□朝倉:「ああ、そうだ。そのナイフが必要ないのは私だけであって、

     ポチにはきっと必要だぞ」


○瀬乃: ……そういう事は先に言っておいて下さい。

     僕は慌ててナイフを刺し直す。

     体の浮遊感が止まり、ほっと胸を撫で下ろす。


□朝倉:「私は先に行くから、そこで待ってろ。そのうち終わる」





■04.


●廃墟洋館


○瀬乃: うわー、どうしよう。置いてきぼりだし。

     これは自力でどうにかするしかないようだ。

     お! ギリギリ、螺旋階段の一番下にある書庫には手が届く。よし。


○瀬乃:「どーれーにーしーよーうーかーなー、

     天ーのー神ー様ーのー言ーうーとーおーり!」


○瀬乃: 古くから日本に伝わる、不特定多数から一つを選び出す秘術を使い、

     一冊を引き当てる。



△N : 分厚い本に挟まれるように埋もれていた一冊の古ぼけたノート。

     中にはミミズののたくった様な字が書かれていた。

     かろうじてそれが、日本語だということまでは判別できる。


○瀬乃:【(たどたどしく読み取る感じで)

     今日はベーコン式魔術展開の実験をした。

     これで、もっと屋敷の警護がうまく出来るようになるかもしれない。

     今日の晩御飯はチキンライスだった。微妙に味が変で不味かった。

     料理長もうちょっと料理の勉強したほうがいいと思う。】


△レジ:「やめんかい!」


○瀬乃: 何者かが、僕の頭を攻撃した。でも、やたらと軽い。

     どこかで聞いたことのある声だなと思いつつも、攻撃主を見る。

     おお、ハリセンだ。

     そこには、巨大なハリセンが立っていた。

     どうやら頭はこれに叩かれたらしい。


○瀬乃:「これは、これは。すいませんでした、ハリセンの人。

     誰の日記か気になったのでつい」


△レジ:「誰がハリセンだ。もっと下を見ろ!」


○瀬乃:「いやあ、無作法ですいません。

      ハリセンと話したのはこれがはじめてだったりするので。

      ………おお! ハリセンの人。誰かに持たれてますよ。

      ふむ、流石にハリセンの人といえども自らでは動けないのですね」


△レジ:「違う! 逆だ! 私がハリセンを持っているのだ!」


○瀬乃:「つまり、君が一人では動けないからハリセンの人を持っていると?」


△レジ:「なんで、そうなるんだ!? 全く意味が分からんわ!」


○瀬乃:「とすると君が、ただハリセンを持っているだけなのですね?」


△レジ:「そう! そういうことだ!」


○瀬乃:「成る程。よく分かりました」


△レジ:「おお、ようやく分かったか!」


○瀬乃:「つまり、ハリセンの人は、自らの意思で君に持たれている訳だ。

     カッコいいなあ、ハリセンの人」


△レジ:「ど・う・し・て!? ハリセンの方を主体にしたがるんだー!!」


○瀬乃:「まぁ、からかうのはここら辺にして」


△レジ:「からかっていたのか!?」


○瀬乃:「このノート、君の?」


△レジ:「そうだぞ! さっさと返せ!」


○瀬乃:「そう言われても、

     ハリセンでペシペシ叩いてくるような人には返したくないしなぁ…」


△レジ:「いいから返せ!」


○瀬乃:「それにしても、君ってさ」


△レジ:「なんだよ!」


○瀬乃:「字下手だよねぇ」


△レジ:「う、うるさい! 日本語、難しいんだよ!」


□朝倉:「何をやってるんだ、ポチ?」


○瀬乃:「いえ、動けなくて暇だったので、この少女と遊んでいたところです」


□朝倉:「どう見ても、その嬢ちゃんをいじめていたようにしか見えないな」


○瀬乃:「そんな事ないですって、ちゃんと遊んでたんです」


□朝倉:「ふぅん…。どうやら、ポチは随分と年下のほうが好きなようだな」


○瀬乃:「誰が、ロリコンですか」


□朝倉:「現に今、そこの嬢ちゃんと遊んでいたんだろう?

     全く持って駄目な男じゃないか。

     今度から、ちゃんとロリ野郎と呼んでやろう」


○瀬乃:「うわぁ、ストレートにきっつい呼び名ですね。

     犬扱いが懐かしいです」


□朝倉:「なんだ、犬扱いが良かったのか。つまり貴様はマゾなのだな。

      このロリマゾ野郎。呼びづらいではないか、このポチが」


○瀬乃: 結局、ポチに戻ってくるのですか。


△レジ:「私を無視するなぁ!!」


□朝倉:「で、その嬢ちゃんは何者なんだ?」


○瀬乃:「さあ? これを読んだら急に現れたんです」


□朝倉:「ノート?」


○瀬乃:「これが、この少女の日記だと言うことまでは分かったのですが、

     それ以上の情報はちょっと……」


□朝倉:「だからって、女の子で遊ぶなよ、ロリポチ。

     そこの嬢ちゃん、こいつは酷いやつだが悪いやつではない。

     まあ、野犬に噛まれたとでも思って、諦めてくれ」


○瀬乃:「それは誉めてるのか、誉めてないのか。まあ照れますね」


□朝倉:「照れるな、ポチ。誉めてないから」


○瀬乃:「いや、そんな気はしてましたけどね」


□朝倉:「いいから、さっさとノート返してやれよ」


○瀬乃:「そうですね。はい、どうぞ」


△レジ:「ふんっ………」


○瀬乃:「ごめんね。お詫びに今度、おいしいチキンライス作ってあげるよ」


△レジ:「ぇ………」


□朝倉:「さり気に口説くな、ロリが。

     かわいそうに、固まっちゃったじゃないか」


○瀬乃:「それで那由他さん。戻ってきたと言う事は何か分かったんですか?」


□朝倉:「いいや? まだ何も。

     ちょっとポチの様子を見にきただけだったんだが…、

     まさか女の子を口説いていたとは」


○瀬乃:「だから口説いてませんって」


□朝倉:「まぁ、君はその嬢ちゃんと仲良くお話でもしてるといいさ。

     私はもう少しここの本を読んでくる」


○瀬乃:「それは構いませんけど…

     ここから出る方法もちゃんと調べてくださいよ?」


□朝倉:「ここから出る方法?

     それなら一番上に外に繋がってる扉があったぞ」


○瀬乃:「それならそうと先に言ってくださいよ」


□朝倉:「でも外に出れるってだけで、地上数十メートルだぞ?

      飛び降りるのか? あまりお勧めはできないぞ」


○瀬乃:「そう思うんなら、何か別の方法を…」


□朝倉:「私が思うに、その嬢ちゃんに訊けばいいんじゃないか?」


○瀬乃:「あ、そうか」


□朝倉:「というわけで、私はもう行くぞ。

      精々その嬢ちゃんを口説き落とすんだな、このロリポチが」


○瀬乃: 口説き落とすって…もっと他に言いようはないのか、あの人は。

     とはいえ、意見としては珍しく的を射ていたので、

     僕はハリセン少女と話すことにした。


△レジ:「な、なんだよ」


○瀬乃:「そういえば、まだ名前もいってなかったね。

     僕はポチ…じゃなくて瀬乃貴識。君は?」


△レジ:「な、何で私が名乗るんだ!?」


○瀬乃:「ねぇ、君の名前教えてよ」


△レジ:「……レジィ」


○瀬乃:「そっか、レジィっていうのか。かわいい名前だね」


△レジ:「そ、そうか?」


○瀬乃:「うん、かわいいよ。それでレジィはここで何をしてるの?」


△レジ:「…言えない」


○瀬乃:「どうして?」


△レジ:「ご主人に、そう言われたから」


○瀬乃:「ご主人? 他に誰かいるの?」


△レジ:「…もういない」


○瀬乃:「寂しくない?」


△レジ:「……寂しくない」


○瀬乃:「そっか…。

     それで訊きたいことがあるんだけどいいかな?」


△レジ:「帰り方?」


○瀬乃:「うん。僕たちは別に君をどうこうしようなんて思っていない。

     ここにはちょっと調査に来ただけなんだ。

     だから、帰り方を教えてくれないかな?」


△レジ:「調査?」


○瀬乃:「そう、調査。

     だけど、僕はただの連れで詳しくはよくわからないから、

     内容についてはもう一人のほうに訊いてくれないかな」


□朝倉:「よう、どんな調子だ、ポチ?

     こっちは結構いいのがたくさんあったぞ」


△レジ:「この人ですか?」


○瀬乃:「そう、この人」


△レジ:「………ポチ?」


○瀬乃:「………うん」


□朝倉:「おっ、なんだか仲良くなってる。すごいな、ロリポチ。

     それで? 何の話をしてるんだ?」


○瀬乃:「那由他さんが調査に来たって話ですよ」


□朝倉:「ああ、あれか。あの話はなしだ」


○瀬乃:「どういうことです?

     ここの霊のことを調べるんじゃなかったんですか?」


□朝倉:「いや、依頼して来た連中、ここを取り壊すつもりだったんだ。

     それで私にそんなことをしても問題ないか調べてくれって

     言ってきたんだけど、ここを壊されると私が非常に困るからな。

     大いに問題ありだ。

     何せ、ここには面白い本がありすぎてとてもじゃないが、

     読みきれない。というわけで、コレ借りてくけどいいだろ?」


△レジ:「え? う、うん。…返してくれるならいいけど」


□朝倉:「そういうことだ、帰るぞ、ポチ」


○瀬乃:「え、でも、帰るって、どうやって…」


□朝倉:「だから、その少女が送ってくれるんだろ」


○瀬乃:「はぁー……。いいかな、レジィ?」


△レジ:「うん」


○瀬乃:「今度来るときはおいしいチキンライスを持ってきてあげるからね」


□朝倉:「いつまで話してるんだ、このロリが。

     早く帰るぞ。夜更かしは美容の大敵だ」


○瀬乃:「まったく、夜更かしに誘ってきたのは那由他さんでしょ。

     それじゃレジィ、お願い」


△レジ:「……うん。またね」





■05.


●帰り道


○瀬乃:「それにしてもあそこは何だったんです?」


□朝倉:「んー? 図書館だろ、アレは」


○瀬乃:「それはそうでしょうが。じゃ、レジィは何なんですか?」


□朝倉:「さぁ?」


○瀬乃:「さぁって、結局何も分かってないじゃないですか!?」


□朝倉:「あそこが私に必要な場所だとわかっただけで十分じゃないか。

     そんなにあの嬢ちゃんのことが気になるのか、このロリが。

     あまり付け回したりするんじゃないぞ、このストーカーめ」


○瀬乃:「そんなことしませんよ。

     大体からして、僕はロリでもストーカーでもありませんよ」


□朝倉:「わかってるよ、そんなことは。君は私のポチなんだからな」



 ***



△N :【4月9日追記。

     厄介ごとというものは、

     いつもこっちの都合なんてお構いなしに勝手にやってくる。

     誰かあいつらに休暇や休日、この際休息でも何でもいいんだけど、

     そういう言葉を教えてやってくれないかな。

     ご苦労なことに今夜は残業までしているようだ。

     パトカーのサイレンが高らかに鳴り響いている…うるさい。】


――[SE] ウゥーーン…(パトカーのサイレン)


○警官:「そこの原付! 止まりなさい!!」


□朝倉:「やーなこった。

     大体、追いかけてる相手に止まれって言って、

     本気で止まるって思ってんのかね、ケーサツとやらは」


○瀬乃: あまりの速さに腰が浮いてしまい、

     もはや僕は手だけで那由他さんに掴まっている状態だ。

     振り落とされそうになり、那由他さんの胴に絡めた腕に力を込める。


□朝倉:「ぁ、ちょっ、このエロポチ!

     どさくさに紛れてどこ触ってるんだ!?」


○瀬乃: 両手に何やら柔らかい感触があるが、そんなことは関係ない。

     こっちは命がかかっているんだ。僕は力強くそれを掴んだ。


□朝倉:「こ、こら、こんなときに人の胸を揉むな!

     放せ、このエロが! というか、落ちろ!!」


○瀬乃: 一瞬、街中の時計が目に入る。

     時刻は二時四十分。夜はまだまだ明けそうにない。

     はぁー、こんな生活、もういやだ。




                               【END】


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