8,末路の決定者
一先ず大公の案内により広間に連れていかれるウィル。
そこで彼は世にも奇妙な体験をすることになる。
「陛下!!
無事で何よりです!!!」
「……イルか?
「はい!」
「……」
ウィルの思考回路は数十秒止まった。
いや、止まったなどというレベルじゃない。
凍ったが正しい。
いつもは冷静沈着で感情を取り乱すことのないイルが冷静さの欠片もな文字通り飛び付いてきたら誰だって固まるだろう。
解凍したウィルの思考回路が弾き出した答えは「何があった?」だと言うのは言うまでもない。
よくみると王族直属騎士団も全員青ざめており、とある一人に関しては気絶していた。
その気絶している男がカグヤを侮蔑したと知らない彼は首を傾げるだけだ。
ただ一人、この奇妙な光景のなかで爽やかな笑みを浮かべている男がいる。
ウィルと同じく白銀の髪をもつ男だ。
男は爽やかに微笑んでからウィルに一礼し自己紹介をする。
「夜会では何度かお会いしましたが改めて
ようこそ、ウィリアム大公家へ
私は次期大公のサクヤ=ウィリアムと申します」
「ウィル=ルミナールだ
妹君には大変お世話になったことに礼を言う」
そう言って軽く頭を下げるウィル。
しかし頭を上げると唖然とするサクヤに首を傾げることとなる。
「……いいえ、そのことは妹にでも言ってやってください
喜びますよ」
「そうか
なら、明日にでも礼を言うとするか」
「ええ、今夜の部屋はもう用意しておりますので我が家の者に案内させましょう」
そうにこやかに言ってから大公家の邸に勤める数少ない者たちがウィル達を案内する。
その間、ウィル以外の者たちはビクビクしていたが。
カグヤはお風呂からあがると椅子に座りルリに髪についた水をタオルでとってもらう。
「姫、陛下に何もされませんでしたか?」
「え?いきなりどうしました?ルリ」
カグヤが姉と慕う専属の者の言葉にカグヤは振り返ろうとするが頭を拭かれているために振り返れない。
ただルリが心配しているのはよくわかる。
「優しい方でしたよ」
「左様ですか……」
カグヤの言葉にルリは安心したように言葉と息を吐き出す。
ルリが仕える唯一無二の主たる姫は彼女自身恐れ多いと思っていることだが妹のように接している。
悪意の視線、言葉を浴び続けられる優しいカグヤが心を傷め中々森の外には出ない。
「……(姫と陛下を会わせたくないと言う旦那様とサクヤ様の思惑が外れた時はどうしたものかと思いましたが、
何事もなくてよかったですよ……消せずに済みました)」
ルリは先程の安心したときの息を吐き出すではなく緊張から解放されて息を吐き出した。
陛下がもしカグヤを侮蔑したらおそらくウィリアム王国の王家の家系図から抹消されていただろう。
そして、サクヤが王となっていたはずだ。
そこまで考えてからルリは寒気がしてきたのを感じ思わずカグヤの髪を拭く手を止める。
「ルリ?」
突然止めたルリにカグヤは訝しげに声をかけるがルリは苦笑してから「何でもありません」と言ってからまた拭きはじめる。
「……(姫に対する態度でその者の運命、末路が決まるなんて
……ホント、恐ろしい一族ですね)」
ウィリアム大公家、それは王位継承第一位でありながらも実質放棄した一族。
しかし、同時に王と同じ発言権を持つ一族でもある。