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魔女と呼ばれた少女  作者: 夜桜
出逢い
5/36

5,深紅の瞳、翡翠の瞳






ウィルが迷子になった頃、ウィリアム大公家に邸についた宰相イルは肩身狭い思いをしていた。

ソファーに腰かけた彼の机を挟んだ真向かいには穏やかな笑みを浮かべる次期大公 サクヤ=ウィリアムがいる。

……ただし目は笑っていないし殺気付だが。

イルの後ろで控える王族直属の騎士団も心なしか顔が真っ青だ。

「陛下が我が大公家が保有する森で迷子ですか」

「はい、ですから捜索の許可を頂きたい」

何とか声を震わすことなく言えたイルは冷静沈着なかれらしくなくホッとしている。

対してサクヤは穏やかな笑みを浮かべたままだ。

いっさい表情を変えないので仮面を被っているのかと勘違いしてしまいそうだ。

「つまり貴殿方も迷子になると?」

「いえ、そう言うわけでは……」

「この大公家の森は恐ろしく広大で昼間でも我々大公家の血に連なる者以外はどれだけ慣れ親しんだ者でも迷います

そんな森の中を夜だと言うのにその中を散策とは……」

侮蔑の笑みにイルは怒りを抱くことも出来なかった。

確かに大公家の森は恐ろしく広大だ。

慣れてもいない彼らが入れば迷子になることは確実。

固まるイル達を一瞬だけ視界に入れてからサクヤは窓の外を見る。

「……陛下探索は私の妹に任せましょう」

「なっ!魔女に陛下を任せろと!?」

サクヤの一言に騎士団の一人が食らいつくが次の瞬間、真っ赤な顔が真っ青になる。

それは食らい付いた人だけでなくイルまでも真っ青になっており身体が冷えるのがよくわかる。

サクヤは窓に向けていた視線をイル達に向け、



「死にたいのですか?」


絶対零度の笑みを浮かべたまま辺りを凍りつかせてしまう殺気を放つ。






もう辺りが暗くなり月明かりでしか光源ならない森の中をリィは駆け抜ける。

その背中にはカグヤがしがみついている。

木々を抜けると現れた巨大な空間、湖につく。

湖の近くには可憐な花が多くそれを摘んで帰ろうとリィが提案したのだ。

カグヤはリィの背中から降りて近くにある花に一礼してから摘んでいく。

『……律儀だな』

「命を摘むのだから当然では?」

『今時そんなことするやつはお前達一族ぐらいだ』

そう言ってからリィはカグヤの側で伏せの体勢で目を瞑って待機する。

カグヤは異国出身の母から教わった歌を鼻歌で歌いながら花を摘んでいく。

色とりどりの花を美しい花束に仕上げたカグヤは満足そうに微笑む。

そんなカグヤに気づいたリィも満足そうな空気を放つ……が。

『……』

「リィ?」

急に立ち上がる白銀の狼にキョトンとした視線を向けるカグヤ。

リィはとある一点に殺気を向けたまま反らそうとせず睨み付けている。

カグヤも不安げな表情でそちらを見ると……翡翠の瞳と視線が混じる。





時間は少しばかり遡る。

迷子のウィルは一先ず今夜の寝床を探すためはぐれた場所からあまり離れないように気をつけて進んでいく。

木々を抜けると目の前には透き通った湖。

あまりの綺麗な湖にウィルは息を飲む。

「……森の中だからか?」

ウィルは肌で感じていた。

ここはただの森ではないと。

あながちこの森が初代国王の魔力で作ったと言う逸話は本当かもしれないと思い始めた彼は周りを見渡し寝床を探そうとすると美しい毛並みの白銀の狼が視界に入る。

狼は何処と無く優雅さを残して伏せの体勢をとっている。

ウィルは思わず息を飲む。

ただしそれは狼の美しさからではなく……


隣で嬉しそうに頬を綻ばせた漆黒の少女の可憐さからだ。


まだ社交界デビューなどしてないであろう無垢で可愛らしい少女にウィルは不躾にもじっと見ていた。

ウィルの視線に気づいたのは少女ではなく白銀の狼で彼は立ち上がり真っ直ぐウィルを睨み付ける。

「リィ?」と少女は突然立ち上がった白銀の狼を不安げな声音で尋ねてから自身もこちらを見る。

不安げな深紅の瞳と優しげな翡翠の瞳が交わった瞬間だった。



全ての混乱の始まりだった。



ようやく逢えました……。

長いよ本当に……。

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