4,迷子とお使い
ウィルがウィリアム大公家屋敷がある森へ向かったのは昼過ぎ、森までは城から馬で約3時間。
今は夏なので少しでも涼しい時間を選んでの出発で遅くても19時前にはつく予定だった。
……そう、予定だった。
ウィルが現在迷子でなければの話だが。
「……まさかはぐれるとはな」
ウィリアム大公家が保有するこの森にはウィリアム大公家へと続く舗装されている道はなく獣道のみ。
はぐれてから1時間あまりはぐれた場所から動かないようにはしているが一向に誰もこない。
ウィルはため息ついてからもたれていた木から離れて今夜寝れるような場所を探しに歩きだす。
「あの馬鹿宰相……」
ここには居ない右腕に恨み言を言いながらもその足取りはしっかりしていた。
ウィリアム大公家には現当主であるアル=ウィリアムと今年24歳になる次期大公 サクヤ=ウィリアムそして今年14歳の愛娘 カグヤ=ウィリアムがいる。
次期大公のサクヤは大公家の当主たる証の深紅の瞳と父親譲りの白銀の髪の美青年。
物腰柔らかだが現在の大公家の企業の運営の大半はこの御方が引き継いでいる。
「はあ?陛下とカグヤをですか?」
「そうだ!」
サクヤは呆れを含んだため息をつく。
急に父親の書斎に呼び出され深刻な表情と声音から出たのは愛娘の心配をする親バカ発言をされれば誰だってあきれる。
「……いや、それは無理でしょう
いくら初代国王の血を引き継ぐ我々と言えど陛下に挨拶しないのはカグヤの名誉に関わりますよ」
「……陛下がカグヤを貶める発言をしたら」
「殺しますが?」
ニコリと微笑みながらシスコン発言するサクヤに大公はため息をつく。
大公も親バカだが兄もシスコンだった。
「仕方がありません
僕も可愛いカグヤを陛下なんかの目に触れさせたくありませんのでカグヤにお使いを頼みますよ」
「頼む
くれぐれも王家の使いにはバレないようにな」
「はい、父上」
一歩間違えれば不敬罪にも成りかねない会話をする大公家父子。
幸いにも誰も聞いていなかった。
「お使い……ですか?」
「リィと一緒花を取ってきて欲しいんだ」
急に訪れた兄にカグヤは少し驚きながらも頷きすぐさま着替え始める。
しっかりサクヤを追い出してからだが。
いつものワンピースなどではなく騎乗用のズボンにはきかえてから専属のルリに言伝てしてから屋敷を出る。
見た目は大人しく儚げな少女だが意外にもカグヤは馬をのりこなすのが上手い。
だけど今回はもう日が暮れかけているので馬ではなく狼に乗るが。
「リィ」
『ここだ』
屋敷を出てから直ぐ小さく呼ぶと白銀の狼は直ぐに正面から現れた。
カグヤはすぐにそばまで近づくとリィは彼女に背中に乗るように促す。
『急ぐぞ
もう夜がくる』
「はい」
カグヤが背中に乗るとまるで風のようにリィは大地を駆ける。