36,母と子
ちょっとだけ息継ぎを!
『“新月の夜”だから星が綺麗ね』
『おほしさま、きらきらです!』
『ふふ、そうね
きらきらしてるわね』
大公家の屋敷は深い森に囲まれており暖炉の光を消すと何も見えなくなる。
それゆえにいつもより星が明るく輝いてみえるのだ。
その夜空いっぱいに輝く星を幼い少女を目を見開いて覚えようとしている。
少女の様子に母親はくすくすと笑い頭を優しく撫でる。
その手は健康とは言いがたいほど細く骨が浮き上がっている。
みると母親はベッドに横たわっており、少女はその縁に座っていた。
『…あなたが産まれた時のことを思い出すわ』
『私が…?』
母親の言葉に少女の瞳には星から母へと映る。
優しく微笑む母親の顔色は青白く今にも消えてしまいそうな儚さもある。
それでも母親は優しく少女に話していく。
『あなたが産まれたときもこんな夜空だったの
光がいっさいない漆黒の夜』
そう言って母親は少女の髪を撫でる。
『まるで“普段の”あなたの髪のように』
『でしたら、おかあさまのかみいろです!』
『ふふ、そうね』
『おかあさまのいろ!わたしもはすきです!』
少女は手を伸ばし、母親の髪を撫でる。
それは光りさえも吸収してしまうぐらい美しい漆黒だ。
瞳も黒く、この国では嫌煙される容姿だ。
それでも彼女の夫は彼女を選んだ。
その時のことは今でも彼女は覚えている。
…それにより数々の人間から命が狙われることになったが。
母親は少女をその細い腕で抱き締める。
『私の可愛いカグヤ
貴女はこの先数多の人間から悪意を向けられることでしょう』
『おかさあさま?』
『…でも“翡翠”が貴女を守ってくれます
だから…輝夜
諦めないでね…?』
これは先代大公 アル=ウィリアムが唯一愛した妻 先代大公夫人と二人の愛娘 カグヤ=ウィリアムの会話。
この数日後、愛する家族をのこして彼女は息を絶えることとなる。




