18,成長
これは何気無い日々の成長の話。
成人の儀を1ヶ月をきった今日、カグヤはリィと3ヶ月ぶりにあっていた。
最近、活発的に顔出しをしている少女だがやはり疲れはたまる一方なのだろう。
すこし疲れが見えている顔にリィは深紅の瞳を向ける。
『無理し過ぎだ』
「このくらいは平気です」
『だったらその疲れきった顔をどうにかしろ』
そう言ってリィは顔をそむけ伏せの体勢で優雅にくつろぎ始めた。
相変わらず自由な彼にホッとしながらも苦笑。
「本当に平気です
皆さんのお役に立てるならむしろ本望ですよ?」
『……』
「ですが……心配してくれてありがとうございます、リィ」
ふんわりと笑う少女。
まだ不満だらけなリィだがこの分からず屋に今言っても仕方がないと言うように息を吐き出してからゆったりと身体を少女にもたれさす。
どこか年寄りくさい行動にカグヤはくすりと笑ってからリィから視線を外し目の前……湖へと向ける。
不気味と言われる広大な森の中で唯一とも言ってもいいぐらい神聖な空気が溢れでている湖。
木々の間から射し込む陽光が水面で反射している。
「……(後1ヶ月で私も成人……)」
【成人の儀】
毎年夏中旬に行われる儀式。
その時までに15歳になった者達が王宮に集い国王からの祝いの言葉を送られる簡単な儀式だ。
10年ほど前にサクヤが参加したときは数年ぶりに大公家が王宮に足をいれたことで少しばかり騒ぎになっていた。
今回は【大公家の魔女】と揶揄されるカグヤの参加。
サクヤに匹敵するぐらいの騒ぎとなるのは間違いない。
……いや、確実にそれを上回るだろう。
得体の知れない緊張感にカグヤは唾を飲み込み自身の護るように両手で抱え込む。
「……」
『怖いか?』
「……わかりません
ですが逃げませんよ」
『……そうか』
「はい」
素っ気ないリィの返事にカグヤは微笑む。
不安を隠しきれない表情だが深紅の瞳に宿る光は強く彼女の意志の強さが伺える。
『……(この子も大公家の人間か
本人は無意識だろうが“家族”以外の者の為に動き出している)』
リィは知っている。
それこそが彼女が最も“大公家の人間”らしいと。
もしかしたら彼女の方が次期大公となっていたかもしれない。
リィは思った。
だからこそ彼女は最も“大公家の人間”らしくないと。
異国産まれの母によくにたからこそ彼女は次期大公にはなりえない。
それを一番理解しているのは他でもないカグヤ=ウィリアムだ。
性質上誰よりも“大公家の人間”らしくありながらも容姿では誰よりも“大公家の人間”らしくない少女は幼い頃から周りの悪意の視線や侮蔑の言葉により家族以外には心を閉ざした。
だが……、
『……【翡翠】か』
「リィ?」
『……何もない』
リィはカグヤの疑問に答えることなく静かに瞳を閉じる。
『(王には心を開き、前に進むようにはなったのか
……ならば彼女の小さな成長は喜ぶべきか)』
これは白銀の狼の感じた少女の小さな成長。