17,証
カグヤは目の前にある“物”を見て固まっていた。
その横ではルリが睨み付けるように“それ”を見ている。
「……えーっと、これはなんでしょうか?」
「“布”ですね」
「……私が見てもわかるぐらい高級感溢れる布ですね」
「王族直通の職人がおったものです」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……なに用の布でしょうか?」
「ドレス用ですね」
カグヤの疑問にルリは無表情で即答する。
そんな侍女にカグヤ一つため息をつく。
「……この布に釣り合う職人を探さないといけませんね」
「(そこですか!!)」
少しズレた二人の会話。
これは冬の使用人 ルリの話。
ウィリアム王国国王 ウィルが贈った布は確実にカグヤの元に届き現在進行形で彼女を困らせている。
「どうしましょう?ルリ」
「……」
困ったように笑う主と侍女。
ただし意味合いはかなり違うことに気づいているのはルリだけだろう。
カグヤはウィルの贈り物に見合う腕前の職人が見つかるかどうかの心配。
そしてルリはそんな純粋な主の心遣いと主が贈り物の“意味”を分かっていないという事実からくる困った笑いだ。
「……(“ドレス用の布”を渡すなんてことを考えたのはあの宰相ですか
随分手の凝ったことをしますね)」
表向きは“大公家との橋渡しをしてくれたお礼”とされているが本当の意味に気づいていないのは贈られた本人のみ。
その本人ことカグヤは若紫の布と薄桃色の布に目を奪われている。
よほど趣味にあったのか嬉しそうに微笑んでいる。
意味を知ればこの微笑みは凍りついてしまうかもしれない、そう判断したルリはため息だけでその場をやり過ごしたのだった。
その日の夜、ルリは大公 アル=ウィリアムに呼ばれ書斎のソファーに腰をかけていた。
正面にはアルがにこやかに微笑みながら座っている。
ただの使用人が邸の主と同席している、それはこの世界では非常識なことでルリはその場に切り捨てられてもおかしくない。
だけどルリの“本当の立場”を考えればおかしくなかった。
彼女は一つため息をついてから言葉を発する。
「陛下は本気だと思われます」
「ほお?根拠は?」
「旦那様と血筋を僅かに感じさせる堅物な陛下が姫には求婚に匹敵するドレス用の布を贈られました
さらに姫の趣味にあう色使いの布をみて更に……」
「お前は私に恨みでもあるのか?」
笑顔のまま右眉毛だけを器用にぴくぴくと動かしてからアルはため息をつく。
「……“翡翠”に惹かれるか
どちらかというと“翡翠が”惹かれていないか?」
「誠に不本意ながら同感です」
さらりと明らかに喧嘩を売っている使用人だがアルはにこやかだ。
いつもの邸の主らしくない対応にルリは訝しげに眉をよせる。
たいしてアルはにこやかだ。
「…それにしても陛下何を考えておられるのか
私には理解不可能です」
「“貴女”が分からないとなると“我々”でも理解できないよ」
「……」
アルの言葉の微かな違和感を正しく理解したルリは無意識に自身の“藍色に見える”髪を触る。
馬の尻尾のように揺れる髪。
ルリはしばらく髪を触ってから一つため息をつく。
「……私ごとき“ただの”使用人には陛下のお考えなどわかるはずがないでしょう?旦那様」
「……“お前”が言うならそうだな」
どこか物寂しげに呟いてからアルはルリの“白銀の髪”を見る。
先代国王は好色家で女癖は悪くいく先々で女を孕ませたと言われている。
ウィリアム大公家使用人 “ルリ”。
彼女は先代国王の愚かな所業の生きた証。
現国王の知られざる唯一“同腹”の妹。
今回はウィリアム大公家の使用人ルリの話です。
これは一度やってみたかった!!