15,ウィリアム兄妹、用件
ルージュの手料理を食べ終えると片付けは使用人に任せサクヤとカグヤは先代公爵夫妻と共に別室で本題に入る。
「来年の僕とカグヤの誕生日と共に僕は大公にカグヤはその補佐として表舞台に立ちます
偶然にもその時に王宮で成人の儀のパーティーがありますので他の貴族にも伝えたいと思っています」
「それはアル殿も了承しているのですね?」
「はい」
「……わかりました
後程、リアトリスにも伝えておきます」
「お願いします」
サクヤはトレニアの言葉に素直に頼り頭を下げる。
リアトリス=ガーネット、ルージュの第一子にしてサクヤの親友そしてカグヤ達の従兄にあたる現ガーネット公爵。
父親譲りの金髪と大公家の蒼い瞳を持つ青年は今は王宮に用事があるらしく屋敷にはいないらしい。
ルージュは少し不満げに、
「さっさと嫁を連れてこないかしら?」
と言っているが本人はその気はゼロ。
サクヤは憂いを顕にするルージュににこりと微笑みながら毒をはく。
「叔母上、あのリアトリスですよ?
……無駄に堅物で少しの不正も許さない厳格なリアトリスですよ」
「用件はそれだけなの?」
「完全に逸らしましたね……」
心あたりがありまくりなのかルージュは綺麗に微笑みながらサクヤに話の続きを促す。
サクヤは苦笑してから隣に座る妹を見るとカグヤもこちらを見ていたのか視線があい二人して頷く。
口を開くのは意外にもカグヤだった。
「トレニアおじ様
かつて先代大公から出された命令を撤廃してください」
「!?
……それは王宮に対するものですか」
疑問なのにどこか確定したものいいにカグヤは一瞬頷くのは躊躇うが次は力強く頷く。
その深紅の瞳は迷いもなくトレニアを見据える。
トレニアも深紅の瞳に引き込まれそうになりながらも彼女の真意を探ろうとする。
「カグヤ姫、貴女もご存知の筈でしょうが敢えて言います
前の国王夫妻は愚かにも貴女の母君を侮辱しどれだけ先代大公夫妻が母君について話しても彼らは嘲笑ったのです」
「……存じております」
「その愚かさは一夜で国中が知ることとなり1日で大公家の恐ろしさを知ったのです
無論、私とて先代国王夫妻をいまだに赦せませんし大公家の縁の深い者達はそれを口揃えて言うことでしょう」
トレニアはいまだに思い出せる。
王宮にいた頃、大公家の使者が訪れ国王夫妻の愚かな所存を聞いたことを。
“ルミナール王家”の庇護をとくと言った“ウィリアム大公家”の凄まじい怒気を目の当たりにしたのだ。
トレニアも王宮から離れたのはウィリアム大公家の意思を汲んだと言うことであり先代国王夫妻が死した後も彼らを赦せそうにない。
カグヤが言うのはその“ルミナール王家”を庇護すると言うことだ。
「……確かに先代国王夫妻がお母様を侮蔑したのは私とて赦せません」
「……」
「ですが、ウィル陛下は違います
陛下は噂に惑わされることなく“私”を見てくださいましたし他の者と分け隔てなく接して下さりました」
「カグヤ姫……」
「私はウィル陛下なら庇護してもいいと思いました」
やさしく暖かな笑みを浮かべるカグヤ。
その笑みは今は亡き大公夫人とよくにたものでトレニアの目元も優しく緩む。
「わかりました、カグヤ姫
貴女がそう言うのならウィル陛下は先代国王夫妻とは違うのでしょう」
「トレニアおじ様……」
「来年の成人の儀より我ら公爵家もウィル陛下を庇護いたしましょう
ですがもし、ウィル陛下が愚者と判断力した場合は庇護を離れます」
「構いませんよ」
トレニアの言葉を了承したのは先ほどから黙っていたサクヤだった。
彼もまた優しげに微笑みながらカグヤを見つめている。
ただルージュだけは意味深な笑みを浮かべている。
ウィリアム兄妹が帰った後(泊まるようには言ったがまだ用事があるらしく二人は次の目的地へと行った)、ルージュはベランダに立ち庭を見ている。
実家よりもはるかに大きな屋敷。
最初、父に連れられやってきたルージュはあまりの大きさに驚き、感激したものだ。
それも今ではすっかりなれてしまった。
「……(カグヤってばやっぱり“大公家の子供”ね
あそこまで陛下に傾倒し始めているなんて
やっぱり“貴女”の言う通りね)」
夕暮れの空。
その彼方にいるであろう親友に心の中で声をかけていた。