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魔女と呼ばれた少女  作者: 夜桜
大公家訪問
11/36

11,王の誠意、少女の考え




可愛らしく手を振る主を見て慌ててルリは小走りで駆け寄る。

「何をなさっているのですか!?」

「落ち着いて下さい、ルリ

私も陛下と同じようにお父様に呼ばれただけですよ」

「旦那様に……ですか?」

カグヤの答えにポカーンと口を開けながら固まるルリ。

カグヤは苦笑しながらも頷きルリに答える。

ルリはルリで信じられないことを聞かされ頭の整理が出来なかった。

邸の主は確かルリ達使用人に「カグヤと陛下を会わせるな」と厳命していた。

だが、今この場にカグヤがいるのはその命は無くなったことになる。

でもルリは聞かされていない。

「……(一先ずは公式の場なので会わせるけど出来れば関わらせてはならないと言う事ですか……)」

なんともめんどくさい邸の主の命にルリは頭が痛くなった。

だけどそれは表には出さずに後ろを振り返り陛下と宰相に視線を会わせる。

どことなく嬉しそうな陛下の表情と何やら納得している宰相の表情に違和感を覚えながらも扉の方を向き、一息つけてから……


コンコン


と、扉を叩く。

すると扉の向こう側から若い男性の声で「どうぞ」と言われる。

視界の端で宰相がびくつくのに笑いそうになりながら平常心で扉を開ける。

広くない大公家の邸だがこの書斎は比較的広く、ダイニングキッチンの次には大きい。

その部屋の真ん中では若い男性 サクヤ=ウィリアムが向かいあう二つのソファーのルリから見て右側に座っている。

部屋の主たるアル=ウィリアムは表面上はにこやかに微笑みながらソファーの向こう側の窓の近くにある仕事机とセットの椅子に座っている。

口を先に開いたのはサクヤだった。

「陛下と宰相殿、どうぞ私の向かえ側のソファーにお掛け下さい

カグヤ、お前はこっちで、ルリには悪いが扉の隣にある小さな椅子に座ってもらえるか?」

サクヤに言われ少しびくつく宰相を引き連れて陛下が座るのを見届けほぼ同じタイミングで兄の横にカグヤが座る。

ルリは言われた通り扉の隣にある小さな椅子に腰を掛け静かに息を吐き出す。

本来こういう王族同士の会話にただの使用人が同席することなんてないが大公家は別だ。

理由の一つとしてはルリがカグヤの専属使用人で主を護るために特化した存在だからだ。

見た目はただの使用人の女性にしか見えないルリだがウィリアム大公家に拾われる前までは暗殺集団に所属していた。

優秀な暗殺者だったが現大公の亡き妻を暗殺する際にウィリアム大公家に捕まりそのまま様々な複雑な事情によりカグヤの専属使用人として落ち着いた。

何時如何なる時でもカグヤを護れるように傍に控えるのが彼女の使命の一つだ。

その為常にカグヤの傍にあり彼女を影ながら見守っている。

そんなルリに気にすることなくウィルは口をひらく。

「単刀直入に言わしていただく

私、ウィリアム王国国王たるウィル=ルミナールはウィリアム大公家との関係回復を望んでいます」

「ほお……」

「先代国王たる我が父が大公殿の奥方に暴言を吐いたことを心よりお詫びさせて貰いたい」

そう言ってウィルは頭を深く下げたまま顔を上げない。

隣に座るイルも同じで頭を上げない。

国の現トップの二人の行動にルリは驚きを隠すので必死だった。

それはカグヤも一緒で顔にありありと書かれている。

ただアルとサクヤは予想内だったのか表情は変えることはない。

沈黙が部屋を支配するなか口を開いたのは、






「……お父様、よろしいですか?」




少し震えたカグヤの優しい声音だ。

ウィルは思わず顔を上げたくなったがそれはいまするべき事ではないと自分に言い聞かせ止める。

その間にもカグヤは父に問いかける。

「私は……自分がなんと言われているか知っておりますしお母様も自分がどのような目で見られているか分かっておりますし……」

「続けなさい」

「……私はルミナール王家と仲直りするべきかと思います

歪み(いがみ)あっていても何も得ることはないかと」

少しいいよどむカグヤだが美しい深紅の瞳は父親を真っ直ぐ見ている。



アルは少し驚いていた。

普段は引っ込み思案で自分の意見よりも他者の意見を尊重する娘にしては強い口調だった。

よく見るとサクヤも驚いたように目を丸くしている。

「……(さて、どうしたものか……

娘の前向きな姿勢は親としてはかなり嬉しいがこのままでは“仲直り”だけでは済まなくなりそうだ)」

アルは今だ頭を上げないウィル達に視線を写す。

先代国王とは違い真っ直ぐで誠意のある青年にアルは少なからず好意は持っている。

“仲直り”だけなら今すぐにでも了承したい。

だがアルの脳内に亡き妻の言葉が過る。

『この子は翡翠に惹かれる』と言う言葉。

現国王陛下は通称【翡翠の王】呼ばれているのがアルの思考に引っ掛かるのだ。

「……(……なるようになるしかないか)」

正直誰よりも可愛い娘を手放すのはまだ早い。

だが娘の意思を尊重したいと思った彼はウィルに言葉をかける。

「ウィル陛下、イル宰相

お顔をおあげください」

「……」

アルに言われ二人は顔を上げアルを見る。

翡翠の瞳はどこまでも真っ直ぐで王としての覚悟がある力強い輝きが宿っている。

先代国王とは違う好ましい瞳にアルは少しだけ口許を緩める。

「陛下、貴方は娘を……カグヤを見てどう思いましたか?」

「「父上/お父様!!?」」

「お前たちは黙っていなさい」

騒ぐ兄妹を黙らせアルはウィルを鋭い視線で見る。

一方のウィルは大公の狙いが分からなく無表情の裏では困り果てていた。

おもむろにカグヤに目をやると父親の言ったことが信じられないのか深紅の瞳を大きく開けている。

「……(大公が何を考えているかは知らないが好印象を狙うなら褒めるべきだが……)」

ウィルは目を瞑りしばしば考えてから目を開ける。

視界には不安気な表情のカグヤが映り視線が合う。

不安を少しでも解消出来るようにと普段は使わない筋肉を使って微笑みかけるとカグヤも安心したのか強張った身体から力が抜ける。

「……正直に言って初めて会った時は普通の少女にしか見えませんでした

色々な噂は聞いていましたが所詮噂だったようです」

「ほお」

「彼女は摘み取る花に一言一言声をかけていました

……優しい少女だと私は思います」

「!」

嘘偽りのないウィルの本音にカグヤは息をのみ恥ずかしさからなのか顔を赤らめている。

隣のサクヤは満面の笑みだがどこか黒いオーラが出ているし、ルリに関しては瑠璃色の瞳が鋭く睨み付けている。

イルに関しては藍色の瞳に喜びが宿っている。

何とも複雑な空気の中、大公は裏のない笑みを浮かべ言葉を発する。

「どうやらウィル陛下は素晴らしい方のようだな、サクヤ」

「僕としては今すぐ父上を大公から引きずり下ろしてやりたいぐらいですよ」

「今回ばかりはサクヤ様に賛同いたします」

「……お前たちは」

ほぼ即答に近い形で答えた二人にアルは溜め息をつく。

どこで教育の仕方を間違えたか考えた瞬間だった。

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