1,物語の始まり
これは遠い昔から語られる物語の始まり。
昔々、とある王国には才色兼備な翡翠の瞳を持つ王がいました。
王は広大な王国を統べるもので日夜問わずにひたすら働く働き者でもあり、国民の願いを出来る限り叶えようとする心優しき者でもありました。
そんな王に国民は満足していましたがただ一人、王の右腕たる宰相はとある一つのことに不満がありました。
それはお妃のことです。
一応は婚約者である公爵娘はいましたが、王は自分の肩書きにしか興味ない彼女をあまり好きにはなれませんでした。
ですが、特に好きな人がいるわけではなく漠然と公爵娘と結婚するかもしれないとは思っていました
そんな王に宰相は不満だらけ。
王には幸せになってほしい彼は悩みました。
ある日のこと王は広大な森を所有する大公の所へ視察に向かうことになりました。
大公の家柄はこの国で一番古く血筋で言えば初代王の唯一の血族でした。
さらに現大公は異国の女性と結婚してしまう型破りな御方。
と言うもの大公家は代々自由婚だからなのです。
大公家の屋敷は広大な森の真ん中。
道も一本道ではなく獣道だったりする。
その為迷子は続出し、現在王もその一人。
供も見失い途方に暮れた彼はその場で座り込み誰かが来るのを待ちます。
……とは言っても大公家は辺境の地の広大な森の真ん中。
滅多に人は通りません。
困った王は仕方無しに野宿する場所を探すために歩き始めました。
しばらくすると突然ぽっかりと空いた大きな場所にでました。
月明かりを反射してキラキラ光る湖があったのです。
その湖の端に一人の少女と美しい白銀の毛並みを持つ狼がいました。
王は息を飲みます。
狼の美しさ……ではなく少女の存在に。
少女を見つめていた白銀の狼は不意に王の方に視線を向け敵意を露にします。
少女も狼が見た方へ目を向けると驚きのあまりに固まります。
王も少女を見て固まります。
少女は王族しか持ち得ない白銀の髪と翡翠の瞳に……王だと確信する。
王は深紅の瞳とこの国では珍しい漆黒の髪に……大公の愛娘で“魔女”と呼ばれている者だと確信する。
これが国を揺るがす全ての始まりでした 。