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侍女騎士と女将軍

2015年五月十九日改訂

 『冒険者連盟・ランクネン支部』と書かれた看板が地面に落ちる。あちこちから出火している木製の建物には完全武装の冒険者たち数十人が入り口、裏口、地下通路などの人が侵入できると思われるところには数人の警備が立っていた。それ以外にも現地の探索者や傭兵たちが連盟の制服を着た職員を次々と施設から連れ出し、幌のない荷車に乗るよう促している。大通りに停められた三台目の馬車が議会庁舎のある方向へ走りだすのを見送ると作戦に参加していたリーラは大通りに倒れて呻いているプレイヤーの中から見覚えのある男の襟首を掴んだ。他の冒険者は施設から機材の搬出や移動に伴うに施設放棄の準備で忙しいために彼女の行動は眼中に入っていない。見られてもそれを留めようとするものは皆無だった。大多数が支部の機能を移転する作業で気を取られている内にやるべきことはやってしまおう。そう考えると彼女は右手で軍刀を持ち、左手で男の首を掴む。

 彼女が見つけた目的の男……茶色の逆立てた頭に顔の右側にはよく分からないトライバル柄の刺青を入れている。服装も世紀末の雑魚が着るような白いエナメル地のジャケットに金属製の胸当てを合体させ、ぴっちりとした黒い革のパンツを穿いた男の手から得物である槍が地面に落ちる。

 男の得物である槍『蛇咬槍(じゃこうそう)・ヴァイパーテイル』を足で蹴っておく。リーラからはすぐに回収できるが男にはそう簡単に取れないような位置だ。彼女はうめき声を上げて覚醒する男に質問を投げかけた。なるべく強く、それでいて感情的にならないよう心がけている。


「この街で戦闘を起こした目的は何ですか?答えて頂きましょうか、サウザント・ファングスリーダーの……マシュマロさん、で宜しかったでしょうか?」

「ふざけんな、俺の名前はマシューだっつってんだろうが!」


 マシューと呼ばれた男は目の前に立つ青味がかった銀髪のメイドを見ながら苦しげに唇を吊り上げた。彼が定期的にリーラをギルドに勧誘していたギルドのリーダー。マシューだ。職業はナイト系統の上位職業の一つである【暗黒騎士】。闇属性が付与された攻撃呪文などに加え、簡単な魔物の召喚など通常の武器攻撃だけではない多彩な攻撃が可能な職業だった。使用する武器は両手用の槍。ある程度のリーチがあるために前に出て積極的に攻撃を行うか彼女達の主とは異なり、安定したダメージを与えることが出来る武器だった。彼女は本来仕えている主と敵意を持っていない存在のみ丁寧な言葉遣いになり、それ以外の相手は基本的に軍人のような口調で話すことが多いが、今回彼に対して丁寧な口調になっているのは嫌がらせのためだ。


「へっ。お前があのクソ野郎との契約を断ち切ってオレ様のギルドに入ってくれるってんなら教えてやってもいいぜ……」


 その瞬間、マシューの首に掛かる圧力が増大した。呼吸させないと吐かせる事はできないとはいえ、言葉のTPOは弁えなければいけない。言って良いことと悪いことの区別はつけなければならない。例えそれが取るに足らない戯言の類だったとしても、だ。


「戯れは時と場所を考えて喋るべきだ。それに何度も申し上げている筈だとおもっているのだが、私が仕えるのはサイファー様ただ一人。ご主人様に敵意を向ける者は誰であれ容赦しない。それにあなたの様な下衆を主と仰ぐぐらいなら自殺した方がマシだと思っている」


 絶対零度の視線を向けながらリーラは首筋を握る手に込めていた力を抜く。余り込めすぎると『ついうっかり』で殺してしまいかねない。そして当然のことながら丁寧な言葉遣いは数分で終わった。


「下手に出ればつけ上がりやがって、この奴隷(サーヴァント)がぁぁぁっ!お前らは俺様の下で飼ってやるつってるんだよおっ!」


 面と向かって言われたためか、マシューが激昂する。予備武器であるナイフを即座に抜くと迷わずリーラに向けて突き出してきた。


「俺は、ここで最強の一角になるんだ!お前の主人みたいなスカし野郎とは違う!力も名声も俺なら全部使える。使いこなせるんだよ!」


 マシューがここまで彼女を勧誘するのは一重にサイファーの存在があったからに他ならない。ギルドを持たず、流れ者の傭兵として世界各地を回り、三人のサポートキャラクターを連れて各地のレイド戦闘やギルド同士の戦闘に参加し、確実に戦果を挙げて行くサイファー。ギルドを運営し、あちこちのイベントに参加しているマシュー。だが、多くのプレイヤー……特に黎明期からこのゲームを遊んでいる冒険者や有名な廃人軍団などはマシューではなくサイファーの方を挙って評価した。

 一方的なライバル意識、向けられることのない評価、それは次第にライバル意識からサイファーへの憎悪へと転化していく。そして明確にリーラに断られたことで、彼の中に会った蓋が外れた。或いはゲームのような異世界に来て、現実のしがらみから解放された反動も行動理由の一つなのかもしれない。


「一方的にライバル意識を抱いて勝手に自滅しかかっているだけの愚か者が何を言うかと思えば今更……滑稽を通り越して笑えてくる」


 冷酷にリーラが侮蔑の言葉を投げつける。子供のようにナイフを振り回しながら襲い掛かるマシューに対し、彼女が取ったのは……


「あ、俺の腕……俺の腕がぁぁぁっ!!」


 踏み込んで一閃。マシューの両腕が宙を舞っていた。肘から先、ナイフを保持していた両腕を一撃で斬り落とした。

 宙を舞いながら消滅する両腕、半分だけ音程を外し、顎が外れんばかりに吠えるマシュー。そしてその叫び声を黙らせるかのようにリーラは軍刀を鞘におさめ、リフティングの要領で槍を自分の手に持つと、そのままヴァイパーテイルを槍投げの要領で投げつけた。但し軌道は山なりではなく、矢のように真っ直ぐ。そして尋常ではない速度、神速の領域に片足を突っ込んだ速さで投げつけられた槍はマシューの喉を貫き、その後ろにあった壁に突き刺さった。槍が突き刺さった地点を中心にして壁にクモの巣状のひびが走る。対人戦においてキャラクターの弱点となる喉を槍で貫いたことで、発生することができないマシューは暫く言葉にならない声を上げていたが、動くたびにHPゲージは緑から黄色、赤へと減少していき、それに伴って声も小さくなり最終的に息だけが聞こえるようになると、青白い燐光と共に消滅した。


「貴方にはご主人様の苦悩など欠片も理解できないのだろうな」


 壁に突き刺さったヴァイパーテイルを引き抜くと彼女は言う。将成は一部では評価されているものの、大部分のプレイヤーからは『サポートキャラクター育成に現を抜かす変わり者』という認識だ。そしてその育成対象の一人であるリーラ自身もそれはよく理解している。今でこそ減ったが、昔は馬鹿にされることが日常茶飯事だった。華々しく活動するプレイヤーとは異なり、地味な活動ばかりしている彼らが格好の的だったというのもあるのだろうが、不遇職……その中でもマイスター系統の職業は他の職業から徹底的に下に見られていた。

 そして彼らが従えるサポートキャラクターは運営が予想していた戦闘のお助けキャラという立ち位置から次第に『戦力』ではなく『労働力』という認識へ変わっていった。武器防具に必要な素材の収集や採掘といった作業になりがちな事柄を全て彼らに任せるのだ。二次職に進化可能なレベルに到達していても進化させない冒険者もいる中で、彼女の主は二次どころか独立職にまで彼女を含む残る二人のサポートキャラクターをランクアップさせた。武器防具、特殊な効果を持つアクセサリーや使用するアイテムの類も高レベル冒険者と同じか、もしかするとそれ以上の品を与えられている。


「……今考えても栓無きこと、だな……」


 ループしそうになる思考を何とか押し留めると彼女に声を掛けてくる二人組がいた。先日助けたスズカとベルの二人だ。二人とも戦闘用の装備に身を包み、この戦いに参加している。先日未遂とはいえあんなことが起きたのによく最前線へ出ることが出来るなと、彼女は内心で感心していた。想い合う二人の結びつきはすごいということなのだろう。スズカは白と赤の巫女服に和風鎧を身に着け、しゃんしゃん、と鳴る多数の鈴が特徴的な錫杖を持っていた。つかの部分などは木製だが、使用している木材も頭から生える耳は狐の耳。巫女服のうしろからぴこぴこと動いているのは狐の尻尾だった。

 彼女の職業は回復三職の一つである神道術師の最上位職【神祇将軍】。人型やお札などを使った結界や障壁の展開、そして回復などを主体とする日本サーバー限定の回復系職業だ。現に今も錫杖を使って戦闘に参加していた冒険者の体力回復に努めている。


「リーラさんは大丈夫?なんかヤバそうな相手だったけど」


 そう言いながらもう一人の少女ベルがやってくる。彼女に生えているのは灰銀色の狼耳と狼の尻尾だった。両手にはそれぞれデザインの異なる二本の剣を持っている。彼女の職業はソードマンの上位職の一つである【エルダーブレイバー】。両手に持った二本の剣がそれを示している。いくつかのスタイルが存在する二刀流剣士のスタイルだが、彼女は攻撃力が優先的に上がるスタイルを選択している。装備は黒と濃灰色の上着や腰巻が特徴的な服の上から黒い胸鎧や籠手。動きやすさと防御力を兼ね備えた装備で、その上に様々な特殊効果が付与されている紋章が入ったフード付きのマントを装着している。それだけでも一目でハイレベルプレイヤーだということが分かるような装備だった。

 リーラ自身はメイドであるということを理由に『さん』付けを拒んだのだが、年上のような雰囲気と何よりも彼女達を救ってくれたことから半ば押し切られるような形でメイド扱いではなく年上として二人は接している。

 彼女達も制圧作戦に参加し、サウザント・ファングスの拠点の中でも最も大きな拠点を攻め落とすことに成功していた。リーダーのマシューを始め、その他の幹部数人、実行役などを捕縛し、現在は拠点の捜索にあたっている。


「では、私はもう二つか三つ詰め所を攻め落としてきます」


 リーラが武器を切り替えると拠点から運び出され、議事堂へ運ばれるのを待つ木箱から新品の剣を二本取り出す。片方は軍刀、もう片方は海賊刀(カトラス)の形をしている。それとは別に大型のリボルバー拳銃を四丁。そして大型のボルトアクション式狙撃銃を一つ手に取る。


「では、暫しの間、お別れです」


 それだけ告げると武装メイドはオレンジ色と藍色が混じり合う街へ消えて行った。残された二人も彼女が去って行った方角を見て苦笑したが、撤収の号令に合わせるようにしてその場を離れた。



 VCOには大小含めて五十近い数の国家が存在する。その中でも特に影響力を持つのが聖王国アルトリウス、神聖ウェストランディア帝国、オストクレス共和国、北部王国連合の四つだ。その内で最も軍事的な国家である帝国の紋章を描いた船がランクネン近くの海域を進んでいく。帝国軍の保有する艦船の中には通常の砲撃機能を搭載した船以外にもいくつかの艦種が存在する。河川での運用を前提にした河川砲艦。水棲型の魔物に対抗するために筒の中に爆弾を詰め込み、それを投下することで攻撃する爆雷艦など、他にもいくつか種類が存在する。だが、その中でも異色の船があった。甲板は一面が鋼板と大陸最硬度の板を層にした甲板が特徴で、艦の指揮を行うための艦橋を始めとした艦上構造物は右側へ固められている。それが帝国海軍が誇る超大型艦『竜母』だった。

 航空戦力の一つである竜を船に載せ、然るべき場所まで到達すると同時に艦内にいる竜とその騎手である竜騎士と共に発進。そして帰艦してきた竜騎士に補給を行い再び出撃させるという竜を収容、発進させる洋上プラットフォームと補給、修理を行う洋上補給基地の二つの役割を兼ね備えた船。それがこの竜母という存在だった。

 嘗てこの世界にやってきた異世界人が伝え残した技術とこの世界における戦術が見事に融合した結果、竜母は帝国海軍を象徴する艦となっている。唯一の問題は大小様々な大きさの竜を載せるために艦そのものが大型になってしまうことと、それを支える動力の問題があるために、帝国軍も三隻建造するのがやっとだった。

そんな帝国軍が誇る竜母の一つ『蒼龍』の艦内では、ランクネン市街地へ向けて出発する竜の出撃準備に追われていた。だが……

「はあ?私が乗る予定だった竜を勝手に連れ出していっただと?」

 空の檻の前で一人の女性が担当の兵士の報告を受けていた。厚手の竜調教師の作業服に身を包んだ若い下士官は泣きそうになりながらも起こったことを彼女に話す。二十代後半の女性が放つある程度成熟した色香と一部の……フィクションにおける悪役軍人が持つ残酷さと酷薄さを併せ持った女性。ダークグリーンに金糸の装飾が施された帝国軍服の上にマントを羽織った女性将軍、アーデルハイト・ヴァルトフルーデ・ブレーメは自分の緩くウェーブのかかった黒髪の先端を指で弄んだ。

 下士官曰く、聖王国で召喚された勇者と一行を名乗る一団がこの蒼龍にペガサスで着艦してきたのが五分前。聖王国の姫と大陸各地に影響力を持つ聖光教会の枢機卿の名前が書かれた証書を掲げて格納庫に入った。その後アーデルハイトの使用する乗騎の前で立ち止まったかと思うと勇者の傍らにいた一人の少女が透明な球を前に出し、竜と二言三言話したのだという。その後、恭順の姿勢を見せた竜は勇者とそのお供を背に乗せ、エレベーターで甲板に出た後にランクネンの方角へ向けて飛び立っていったのだという。これが通常の騎士が使用するレッサードラゴンならまだしも、彼らが連れ出したのは帝国軍の将軍クラスが騎乗する予定だった大型の竜だった。体格に始まりそれ以外の部分でも低級の竜の倍以上の力を持ち、ある程度の知能を持つ彼らは帝国軍でも完全に制御化においている者は然程多くない。冒険者の中には竜と心を通わせて己の騎竜とすることが出来る者がいるとは聞いているが、彼らは超人的な冒険者ではなく凡庸なエルデ人だ。だからこそ、竜も人も貴重なのだが、そんな一騎が一応の同盟国である聖王国アルトリウスの召喚した勇者に何の断りもなく連れて行かれたのだ。最悪両国の同盟関係にひびが入る問題に発展しかねない。


「申し訳ありません、将軍。将軍がお乗りになる予定の騎を奪われた罪、如何様な裁きでも受け入れます」


 下士官が今にも自害しそうな勢いで膝をつく。だが、アーデルハイトは彼の肩を優しく叩くと少し休むよう促した。同僚に連れられて居住区画へと引き上げて行く彼の背を見送るとアーデルハイトは忌々しげに空の檻を見つめた。聖王国アルトリウスで勇者召喚に成功したという話は勿論彼女にも来ていたが、今回の作戦に彼らが参加するとは聞いていない。


「……それに竜の主人を書き換えただと……そんなことが可能なのか……?」


 彼女自身もまだ事の次第を完全に呑み込めていないため、情報が整理出来ずにいる。だが、そこでふと彼女はある情報を思い出した。そこからの行動は早い。彼女はすぐに竜の格納庫を後にすると竜母の居住区画に宛がわれた自室に入った。将軍クラスともなれば個室が与えられ、内装もかなり整ったものになっている。

 そんな仮の自室にあるダークブラウンのテーブル上には内側で燐光を放つ紫色の結晶がスタンドにセットされていた。冒険者が『通信結晶』と呼ぶアイテムを使い、彼女は本国にいる部下の一人に連絡を取る。


『お早うございます将軍。如何なされましたか』

「今すぐ帝国軍情報局に連絡を入れろ。私から直々の指示だ。作戦名『白き闇』と言えば恐らく向こうも理解するだろうさ」


 通信結晶の向こうにいる部下の一人に彼女は指示を簡潔に伝える。帝国は正規軍以外にも自前の強力な部隊を幾つも有している。国内外の情報を管理する帝国軍情報局もその一つだ。主に非正規作戦を主体に帝国内外で様々な諜報活動を行っている。情報局の重要性を理解していない将軍もいるが、彼女は『情報』という物の価値を理解している。だからこそ正規軍の将官でありながらもある程度情報局に干渉することが出来ていた。


『分かりました。詳細な情報は追って連絡いたします』

「ああ、向こうにも急がせろ。ノロノロするようなら副局長のスキャンダルを公開するぞと脅せ。それと、蒼龍から二等級の竜が一頭、勇者によって連れ出されたが軍の上層部には公にするなと伝えろ」

『了解いたしました』


 疑問を挟むことなく通信を切る部下への命令を終えると彼女は持ち込んでいた専用の甲冑に身を包む。冒険者が装備する鎧の色違いであるこの甲冑は太古の技術が一部に入っていることもあって着脱や細かい調整を必要としない。使用者が最も望む形で鎧は装着者に適合する。煩わしい調整をすることなく、使用者に最適な形をとる。そこが彼女は気に入っていた。血のような真紅の装甲と黄金色の装飾も相手に威圧感を与えるという意味で好んでいる。腕鎧と脚甲、腰鎧を装備し終えると彼女は廊下を戻っていく。

 再び格納庫に戻ると格納庫内のエレベーターが上昇していくところだった。エレベーターに乗せられているのは四等級の竜、レッサードラゴンと呼ばれる個体で竜と個人的な契約を果たしていない一般の竜騎士が使用するタイプでもあった。

 彼女はテイマー達の長らしい人物を見つけると一気に詰め寄る。帝国軍の中でも武闘派で通している彼女が完全装備でしかも威圧感を纏っているのだ。並の兵士は怯えるしかなくなる。


「おい、レッサードラゴンの予備騎は何頭いる」

「は……はい、予備騎は現在のところ三頭であります!」

「そうか、ならばその内の一頭を借り受けるぞ」


 そこでリーダーらしき男は呆けた表情を見せる。だが、有無を言わさぬアーデルハイトの威圧によって最終的には首を縦に振らざるを得なくなった。


「よし、では五分で甲板に上げろ。私は武器を取ってくる」


 今にも腰を抜かしそうなリーダーの男の肩を叩くと彼女は格納庫の近くにある竜騎士用武器格納庫と呼ばれる部屋に足を踏み入れた。部屋の中には伸縮式の柄を持つ槍が多く並んでいるが、彼女が使うのはそれではない。大型のクロスボウが並ぶ棚を通り過ぎ、その先にある『砲槍(カノンランス)』と書かれたプレートが貼られた区画に足を踏み入れた。

 竜騎士用の武器として神代の大戦で使用された武器の機構を解析し、一部を魔導技術に置き換えた武器の一つにこの『砲槍』がある。突撃槍に魔導砲撃機構を搭載した槍として誕生し、近接攻撃と遠距離攻撃が可能な竜騎士用の兵装だ。

 アーデルハイト自身はこういった飛び道具が併設された武器をあまり使わない。基本的に使うのは刀身のサイズから彼女専用に作られた特注サーベルだが、彼女は帝国軍の軍人であり、将軍でもあるために一通りの武器は使いこなせるし、それなりの戦果をあげることも出来る。彼女が選んだのは制式74式魔導砲槍。帝国軍の使用する砲槍の中では使用者を選ばない、癖のない砲槍だ。

 いくつか同型のものを手に取り、その中から馴染むものを一つ選ぶと彼女は格納庫ではなく、甲板に上がった。甲板上では前方で発艦、後方で着艦というように分離して作業が行われていた。

 アーデルハイトが暫定的に使用するレッサードラゴンは甲板の前方で発進のための準備を整えた状態で待機している。レッサードラゴンそのものに騎乗するのも随分久しぶりだし、七四式も随分と使っていない。いつもとは勝手の違う戦いだが、将軍級ともなればこの程度のことに動じていては話にすらならない。甲板で指示を行う兵士が、彼女にいつでも発艦出来ることを示すハンドサインを送ってくる。ゴーグルを着け、彼女自身も準備が整ったこと示すハンドサインを送ると、一斉に甲板にいる兵士達が敬礼を送ってきた。

 アーデルハイトはその敬礼に応えつつレッサードラゴンの腹を蹴る。同時に黄緑色の鱗が特徴的な竜はその翼を広げると一気に空へ舞い上がった。


 今回の話は以前の作品からの変更点の一つです。それでは皆様の感想、批評等をお待ちしております。


感想、今回は来るかな……

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