表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/53

急ぐ主と戦う武装侍女

2015年五月十九日改訂

 将成が契約出来るモンスターの中では契約にかなりの難易度を誇る騎乗用生物の【魔狼フェンリル】に跨って街道を走りながら情報を集めた結果、ランクネンにいる自分のサポートキャラクターは彼が最初に作成し、育成したメイドのリーラであることがほぼ確定した。銀の髪という事前情報は間違いなく彼女の髪型と合致する。最初に育成したメイドだ。


「で、君はこれからどうするの?冒険者サイファーくん」


 だが、平原で各々が夜営の準備を始めている中に将成はいた。大型の幌馬車が六台ほど並び、馬車の中からテントや松明、携帯型モンスター警戒装置などを降ろして拠点を作成しているのはVCO日本サーバーでもそれなりに有名なギルド『朧月同盟』と『獣奏旅団』という二つの中規模ギルドだった。彼が話しているのは獣奏旅団の旅団長……ギルドマスターのライアというドワーフの女性だ。最大でも一メートル半ほどの身長にエルフほどではないにせよ尖った耳が彼女の種族が人間ではないことを示している。VCOでのドワーフはファンタジーの物語に登場するようなけむくじゃらな姿ではなく、人族と比べて多少毛が多い、身長が低めの種族として描かれている。

 彼女は獣奏旅団の中で数少ないレベル二五〇到達者であり、彼女自身も【神薙巫女】という優秀なヒーラー兼前衛として有名で、将成自身も傭兵として彼女のギルドに参加し肩を並べて戦ったことがある。

 彼がこのキャンプを見つけたのは半ば偶然だった。街道を疾走し、一分でも早くランクネンへと向かう予定だったのだが、警戒をしていた朧月同盟のメンバーに停車を要求され、偶然近くにいたライアに見つかったのが運の尽き。結果として彼女や旅団、同盟のメンバーに自分の行動目的を話して今に至る。


「君は思った以上に有名だからね。そこは気にしないといけないよ」

「そこまで有名じゃないと思っていたんですがね」


 馬車を固定するギルド団員を見ながら将成はライアに返す。実際職業が不人気職ということもあって奇異の目で見られることの方が多いため彼は今まで自分の名前がどれほど知れ渡っているかもあまり興味がなかった。外聞を気にする暇もないほど三人のサーヴァントの育成に心血を注いでいたために周りが見えなかったという理由では決してない。


「何せ、不人気職のザーヴァントマスターから限界突破職業のパルフェエグゼクターにまで上り詰めて、おまけに本人の装備や戦闘能力もさることながら、侍らせてるサーヴァント全員が独立職ときた。とどめに全員揃いも揃って傾国の美少女ばっかりだからね。有名にならないほうがおかしいよ」


「そう言われると反論のしようがないですよ」


 肩を竦めながら将成は苦笑する。顔の細部に至るまで凝ったのだ。それぞれ異なる属性の美少女達は確かにその手の人々からすれば垂涎ものだろう。


「で、俺に何を頼みたいんです?」

「私達がここで野営してるって段階である程度察しはついてるんでしょ?」


 質問に質問で返されたことには触れず、将成は夜営の準備を進める二つのギルドを見る。この辺りには冒険者が拠点に出来るほどの規模を持った街はないことから、拠点変更では無い。そしてギルドに合流出来ないということは何かのトラブルに巻き込まれていると考えていい。そうなると自ずと答えは見えてくる。


「俺を先行させてランクネンにいる残存メンバーの安全の保護ですか」

「正解。流石は『黒の傭兵』だね」


 ギルドに所属せず、報酬次第でギルド間戦争やレイドイベントに集まった集団の中で付けられた二つ名だ。個人的には恥ずかしいのだが、今でもこの名前で呼ぶプレイヤーもいるため余計に始末におえない。二つ名そのものは有名だったり、奇抜な行動をするプレイヤーに与えられるものでネタ要素満載のものからひねりの効いていないものまでそれこそ多種多様だ。


「報酬は……後で考えます。ご要望とあれば直ぐにでも出発しますよ」


 過去の回想もいいのだが、今はそれをすべき時では無い。思考を切り替えて彼はライアの依頼を受諾することにした。


「本当なら私達が強行軍でも何でもして探すべきなんだろうけど……悪いね」


 メニューウィンドウを開き、次々に装備品をチェックする将成を見ながらライアは申し訳なさそうに言う。だが、そこで何かを思いついたのか意外な提案をしてきた。


「お礼ってわけじゃないけど、せめて夕食ぐらいは摂っていかない?」


 その提案に一瞬だけ面食らう将成だったが、すぐに首を縦に振った。



 議事堂制圧から数時間後、拠点の一つを失った傭兵と盗賊の連合軍は港湾地区を中心に防備を固めていた。だが、彼らに平穏が与えられたという訳ではなく街の東部に拠点を構える冒険者達のグループ……『サウザント・ファングス』と呼ばれる余り素行のよろしくないギルドを中心とした冒険者や素行のよろしくないエルデ人が冒険者の存在を真似て作った職業《探索者》を中心としたグループの襲撃を受けている。

議事堂前の再建されたバリケードがハンマーの一撃によって破壊された。決壊した防衛線から蛮声を挙げて突入してくるのはサウザント・ファングスのメンバーと彼らに雇われた冒険者、探索者たちによる混成部隊だった。

バリケードの近くにいた重装備の騎士の格好をした冒険者が膝をつく。鎧でガチガチに着込んでいたとしても、スキルの組み合わせ次第ではダメージを与え、それに加えて状態異常を与える。今重装の騎士に与えた状態異常は『麻痺』。しかも最高レベルの一撃を対人戦における弱点に撃ち込んだため、あの冒険者はHPを回復し、解毒ポーションを使うことも出来ずに死に戻りすることになる。

 騎士を動けなくした忍者の男は鼠のように防衛を行う冒険者との合間を縫うように抜けると刃先が下を向いた独特の形をしたナイフの握りを力強く握り込んだ。黒を基調にした最低限の金属防具が特徴的な服装に身を包んだ男が次に狙うのは、凝った作りのメイド服に身を包んだ銀髪が特徴的な女性だった。使用している武装から考えると剣士系統なのだろうと推測する。更に彼は目を凝らして彼女の頭上に浮かぶカーソルを確認した。VCOにはプレイヤーを始めとする存在に必ずカーソルが付くようになっており、それでプレイヤーの種類やそれ以外の存在を把握できるようになっている。一般的なプレイヤーは青、PKを行ったり、ゲーム内でペナルティ扱いの行為を行ったプレイヤーはオレンジ、敵は赤、NPCはライトグリーン、サポートキャラはアイスブルーといったふうに分けられている。

 メイドの頭に浮かんだカーソルはアイスブルー、つまりサポートキャラクターだ。レベルが上限に達し、尚且つ一級の装備で固めているアサシンである彼の手に掛かれば彼女の首を落とすことなど造作もない。

彼はサポートキャラに自分のアイテムや装備を注ぎ込んで溺愛するプレイヤーをどちらかといえば嫌悪する立場の人間だった。ツールにはツールとしての領分がある。それを越えて単なるプログラム上の霊魂(ゴースト)のない存在を仲間や相棒といった一人の人間として扱うプレイヤーは彼にとって理解の範囲外にあった。やがてツール以上の感情を抱く冒険者に対し彼が嫌悪を持ち、それがやがて彼らへの攻撃に発展していくのに然程時間はかからなかった。

 忍者の男が長らく使っている相棒のナイフを構えて、隠密系移動スキル【影踏み】を使う。戦闘時、非戦闘時の両方で使える優秀なスキルで、これを使えば効果時間内の間は敵に気付かれないという効果を持っている。だが、攻撃後はステルス状態が解除されるために再度使用しなければならないというデメリットもあった。

影踏みの効果は問題なく発動しているために、彼は銀髪の女性の背後に回りこむ。気配を可能な限り遮断し、相手の意識の外に自分を置くという能力だけあって、議事堂で戦っている冒険者には気付かれることなく彼は進入に成功していた。

彼の右手にあるナイフはクエストの報酬で手に入れたもので威力、固有アビリティ、その他含めて彼はこのナイフを愛用していた。何よりも一見すると片手剣にしか見えないほどの大きさを持っている湾曲した刀身が特徴的でリーチの短い短剣を今まで使ってきた彼にとって、この武器は理想の武器の一つでもあった。斬る、突くといった動作を澱みなく行えるほかリーチが長いために少し離れた敵とも戦うことが出来るようになっている。

VCOの世界が現実になり、彼の所属するギルドは大手の傘下に加わった。今までゲームの中でしか振るうことの許されなかった力。変身願望、超人願望、破壊願望、その他諸々が混ぜ合わさり、暴力を振るうことの快感に彼は酔いしれていた。既に『死』に関する事柄も把握済みだ。だからこそ命を無視した、ともすれば自爆テロを起こすテロリストのような生命を省みない戦い方をしている。

今日一人目の獲物だと舌なめずりをしてメイドの上からアサシンの必殺スキルの一つでもある【エリミネイト】を発動準備に入る。頭の中でスキルの名前をイメージする。動きではなく名前、それだけで身体が最初から知識として入っていた形をとる。

だが、スキルが発動し、瞬間、彼の全身を言いようのない悪寒が通り過ぎた。気の迷いか、それともまだかすかに残った良心か、とも考えるが、既にスキルは発動し、相手は明らかに自分の存在に気付いていないように見える

気のせいだと自分に言い聞かせて彼はナイフを振りかぶる。そして女性の首筋にナイフを付きたてようとした時……

 彼女が身体を動かしてその一撃を回避する。必殺と思われていた一撃は空を切り、渾身の【エリミネイト】は不発に終わった。なるべく驚愕を顔に浮かべないよう務めるが、それでも男は内心で大きく動揺していた。外す筈のない攻撃が外れたのだ。気配遮断で気付かれずに接近したにも拘らず彼女は難なく避けた。アサシンの男は目の前に立つ銀髪の女性を見る。白と黒のメイド服、どこにでもありそうな……それこそこの世界の住人が着ていそうな服に身を包んだ少女。だが、その瞳に宿るのは圧倒的なまでの強者の力だった。


「どうして自分の攻撃が避けられたのか…………まだ理解が追いついてないみたいな顔をしているな」


 内心まで的確に言い当てられ、男は狼狽する。だが、目の前の少女が次の言葉を発して揺さぶられる前に【影踏み】を発動させてしまえば問題ない。再び気配を遮断して攻撃の機会をうかがえばいい。気配が薄れる感覚と共に、彼は再び議会庁舎を防衛する側の冒険者の意識から消え……

「馬鹿な、消え切れてないだと……!!」

 思わず男は内心の驚愕を声に出してしまう。なぜならば【影踏み】で発動した筈のステルス状態がその効果を発揮せず、先程狙ったメイドが迷うことなくこちらへ突っ込んできているのだ。見間違いかとも思ったがそうではない、相手は明らかにステルス状態の彼を捉えている。


「ちぃっ、フレイムバレット!!」


 既に相手が暗殺者の位置を捕捉しているのならステルス状態は意味がない。緊急用武器である小型拳銃『デリンジャーVX』を抜くと男は炎に包まれた弾丸を撃つ。命中と同時に火炎属性のダメージ。普段はナイフや片手剣系統のスキルやアサシンのスキルを重点的に強化している彼だが、銃火器関連のスキルは基礎といくつかの発展スキルしか獲得していない。今の【フレイムバレット】もそうだ。だが、稀に火傷を負わせる弾丸はメイドに命中しなかった。変わりにメイドがその手に持っている剣を振るう。その一撃で彼のHPは大きく減少した。アサシンという職業の構成上、敏捷を優先すると必然的に移動速度が遅くなる鎧を装備しようとせず、耐久関連がお粗末になる。それでなくともアサシン専用装備は敏捷を高める代わりに防御力が犠牲になっていることが多い。まさしく高機動、高火力、紙装甲。それがアサシンという職業でもあった。

やられっ放しは性に合わない彼は何とか最後に一矢報いようと愛用の得物を振るう。だが、振るった先に、メイドの姿はなかった。そして背中側に感じる誰かの気配。その気配を感じて首を動かした先に確かめた彼の目には軍刀を振り上げ、今正に振り下ろさんと構えるメイドの姿だった。だが、そうであったとしても彼はある程度場数を踏んでいるために、こういうときの対応も考えている。武器を即座に切り替える戦闘系冒険者には必須ともいえるスキル【クイックチェンジ】を使用して弾丸の尽きた拳銃からナイフへ。相撃ち覚悟でそれなりの速さを持つスキル【ファストファング】を放つ態勢に入る。愛用の得物がオーラに包まれ、剣を振り下ろそうとしているメイドを斬り倒そうと発動しかけたとき、彼は見た。二刀を振るうメイドの茶色の両目が彼を捉え、その数瞬後には放つ姿勢に入っていた筈の【ファストファング】がキャンセルされる。同時に彼の身体が強張り、一切の攻撃行動が出来なくなった。


(――こいつ、出掛かりから潰しにきたのかッ!)


 男は咄嗟に自分に向けて行われた攻撃を理解する。あのメイドは男が相撃ち覚悟でスキルを使うことを瞬時に察知し、それよりも先に【威圧の魔眼】と呼ばれる相手から先手をもぎ取るスキルを使って封じ込んだのだ。結果として男はメイドにダメージ一つ与えることが出来ずに軍刀の一閃で得物を握る右腕が斬り飛ばされ、続くレイピアの一閃が彼の両足を叩き斬る。そこで終るかと思いきや、メイドが落下する男をサッカーボールのように上へ蹴り上げた。アサシンの男の身体は宙に浮き、後はただ地面に落ちて行くだけ、ここまで痛めつけられた場合、落下ダメージだけでも死に至る。だが、最後までメイドの攻撃の手は止むことなく、鋭利にして凄絶な一撃が男の身体を切り刻む。雪の様な髪のメイドをまぶたの裏に焼き付けながら彼の意識は闇の中へ落ちた。


 振り下ろされた軍刀がアサシンの男のHPを完全に削り取る。青白い粒子となって消えた男には目もくれずにリーラは次の行動を始めた。議事堂の議長室を勝手に占拠して色々と仕掛けと準備を行っている彼女は今回、黒い鞄を肩に掛けていた。スポーツバッグサイズの黒い鞄を半壊したバリケードの近くに置くとその周囲の敵を掃討。それが終わってから近くにいる冒険者に警戒を任せ、黒い鞄の中でコンパクトに折りたたまれていた物体を取り出す。まず取り出したのはカメラや望遠鏡を固定するような三脚を展開、小型モーターが付いた台座に、カメラに始まり温感センサーや各種測定機器が合体した球体のセンサーユニット。そして台座の上には二丁のP90サブマシンガンが固定されていた。現実世界に存在するP90とは少しだけ形状が異なり、SFチックな外観を取り入れているようにも見えた。複数のケーブルと弾薬ボックスを手際よく繋ぐと、夜桜はそれを門の近く、遮蔽物のないエリアに設置した。モニターを起動し、センサーが動くことを確かめると彼女は立ちあがって周囲を見渡す。

 彼女が設置したのはガンスリンガーを始めとした銃火器を使用する職業の冒険者が使用する自動迎撃装置『セントリーガン』の一つだった。最初の方で購入できるものは使用できる銃も少なく、簡素で射撃の精度も今一な物しか存在しないが、最高レベルとなると一台で幾人もの敵を封じ込めることが出来るようになる。

 かつて行われた防衛戦のイベント時に初めて実装され、街に支給された数十基と冒険者自身が素材を集めて作ったタレットはその力を遺憾なく発揮し、それ以降拠点防衛のクエストなどでは一基あれば随分と防衛が楽になる装備として定着している。

 夜桜がここで使用しているのはその最高モデルの一つでSMGを二つセットし、センサーとリンクさせることで攻撃を行うようになっている。コンパクトさも売りの一つで小型の鞄に携帯し、現地で組み立てるということも可能だ。

 既に通信結晶を使って主へはメッセージを送っている。後は彼が気付くのを待つだけ。気付いた後の行動は早いだろう。何せ何だかんだ言いつつ彼は彼女達メイドにとことん甘く、彼女達に危機が迫ればその身を投げうって行動する人物なのだから。


 来週もできれば二話投稿できるようにしていこうと思っています。しかしこの前評価ポイントを見たとき、以前よりも一気に増えていたのは驚きでしたね、評価してくださった方ありがとうございます。

 それでは皆様の感想、批評等をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ