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召喚の儀式と状況の確認

 大変遅くなってしまい、申し訳ありません。第一章改訂版二話目です。

 アステリア王国 王宮内神殿

東京サーバーの存在する大陸の中では比較的広大な面積を支配するアステリア王国。園昔、この国を支配していた暴君を一騎士が討ち、それ以降は騎士が治める国として長く続くようになった国の中心部、王宮内部にある神殿である儀式が行われようとしていた。王宮と同じデザインの神殿の中には既に必要な品々は運びこまれている。


 床には古より伝わる巨大な魔法陣と召喚のために必要な触媒。そして高位司祭や神官を何十人も集めて準備が進められているのは『英傑召喚』と呼ばれる儀式だった。触媒になった『聖遺物』と呼ばれる高い高純度のマナを含有するオーパーツを使って次元と次元を繋ぐ『門』を開き、高い資質と適性を持つ異世界人を召喚するこの儀式は古来より幾度となく行われてきた。世界を滅ぼす魔王が現れた際に三度、圧政を敷く暴君を倒すために二度、魔物との戦争を人類の勝利に導くために五度行われ、複数の国家が何人もの勇者を召喚することも慣例化しつつあった。


 魔法陣の中央に聖遺物が置かれ、司祭たちを取りまとめる男が魔法陣の外に出たのを確認するとその周囲に等間隔に並んだ高位司祭達が一斉に詠唱を始める。荘厳な雰囲気の中で響く司祭達の声。それに呼応するかのように魔法陣が発光を始め、青白い粒子が舞い始める。そこから少し離れたところで一組の男女がそれを見守っていた。一人は黒の軍服にも似た制服を纏った金髪オールバックの男。もう一人はドレスに身を包んだ少女だった。


「成功するのでしょうか……?」

「我々が協力している以上、失敗など起こりませんし、起こさせはしませんよ」


 少女の言葉に男が返す。その言葉にはどうあってでも勇者を召喚するという強い意志が感じられた。だが、少女はその言葉に含められている意味を薄らと察し、それ以降は口を閉ざす。魔法陣で行われている召喚の儀式も佳境に差し掛かりつつあった。

 青白い光が光量を増し、粒子も拡散していく。それと時を同じくして青白い雷光が魔法陣の中に発生し始めた。この段階でほぼ成功は確定なのだが、司祭達は詠唱を止めない。そして光と粒子が収束し、神殿の中はほぼ元通りに戻った。唯一異なるのは魔法陣の中で横たわる二人の人影だ。召喚が成功したことに安堵の息を吐く司祭達。そして倒れている二人を運ぶために数人の騎士が魔法陣の中へ入っていく。

今回召喚されたのは二人。二人とも黒髪黒眼、良くも悪くも日本人という出で立ちをしているが片方は中学二年か三年……まだ少年の様な幼さを顔に残しているのに対し、もう片方は青年と言っていい年齢の顔つきをしていた。二人とも瞼は閉じられていたままだったが、後数十秒もすれば目が覚めることは容易に想像が出来た。


「……ってて……どこだよここ……」


 少年が転移の際にぶつけた頭をさすりながら周囲を見渡す。今までいた学校の教室とは異なり、写真の中でしか見たことのない太い柱や感じたことのない荘厳な雰囲気の中できょろきょろと視線を巡らせている。もう片方は落ち着いた表情で周囲を見渡しながら現状把握に努めているようだった。慌てたところで事態が好転しないということを本能で察しているようでもあった。


 そんな二人の元へ一人の少女が近付く。金髪碧眼に白と青のドレスを纏った彼女は彼らが呼ばれた『召喚の間』にゆっくりと入ってきた。後ろには全身甲冑にマントという仰々しい出で立ちの騎士が控えている。


「初めまして、異界より来訪せし勇者様。私はこのアステリア王国の第二王女リリアーナ・ヴィ・アステリアです」

「は、初めまして。僕……お、俺は渡部幸助。高校生だ」


 まだ落ち着きを取り戻していない幸助に対し、リリアーナは天使のように微笑むと立つように促す。周囲にいたローブの一団と白銀の鎧に身を包んだ騎士達が周囲を守るように陣形を組む。リリアーナを先頭に連れられる形で二人の少年は王が待つ玉座の間へと案内された。天井からは王国の旗が垂れ、何十人もの見目麗しい騎士が赤絨毯の両側に立っている。その先にある玉座には青いマントを纏った老人の姿があった。老人と言っても眼光は鋭く、傍らには剣が立て掛けられている。年老いて尚、身につけた武技は衰えていないであろうことを容易に想像出来た。


「国王から二人に話があるそうです」


 案内していたリリアーナが後ろへ下がり、王がゆっくりと口を開く。


「よくぞ召喚に応じてくださった。勇者殿」


 その言葉を始まりの合図とし、王がこれまでの国が歩んできた歴史とこの国を取り巻く状況を話し始める。人族と魔族、二つの種族は永い間戦い続けていた。そして今、大陸北部にある魔大陸と呼ばれる場所で新たな魔王と呼ばれる存在の出現が確認され、人と魔族との新たなる戦端が開かれつつあるという。だが、魔族の勢いは凄まじく、現在もこの大陸北部にある要塞が彼らの手に落ちてしまっている。

 そこで大陸に存在する各国は大国の一つである皇国の号令の下『西方大同盟(アライアンス)』を組み、合同で魔族との戦いに備えることとなった。そして人々の希望であり古来より強大な力を持つ勇者を呼び出すために『英傑召喚』の儀式に踏み切り、今頃は大陸各地の国々でもそれぞれの勇者が召喚されている筈だと王は語る。そして幸助の持つ力や身体能力に関しても説明があった。二人とも精霊や神々に愛され、既にこの世界の人間……エルデ人を遙かに凌ぐ力をその身に宿している。

 王国も全力で支援を行うために武器や仲間のことは心配しなくても構わないということを告げると、リリアーナに二人を勇者達の部屋へ連れていくように命じ、玉座から立ち上がった。


「さて、勇者様もお疲れでしょうから本日はこれでおしまいです。明日は各種ステータスの確認、武器防具の調整と仲間の顔合わせもする予定です」


 最後に微笑むとリリアーナが先頭に立って歩き始める。こうして異世界へ召喚された少年は勇者としての道を歩き出すこととなった。



 玲慈が向かうフィフニスの街はモンスターと戦うために街が大きくなり、そこに人々が身を寄せたためにさらに街の規模が拡大した……という設定の街だった。VCOにはそういった設定の街は珍しい物では無く、敵対する相手も多岐に渡る。確かこのフィフニスという街は竜が生息する山脈から近い場所にあるために竜の侵攻による被害が大きく、そのために空と地上からの侵攻を防ぐために武装が推し進められていると言う話だったが……。


「あの黒煙は何だ?」


 村を出て自分の身体能力を確かめるべく歩いたり走ったり、木々の上を跳躍しながら移動すること数分。舗装されていない街道の先にあるフィフニスの街を守る壁と幾筋もの黒煙が見えてきた。このタイミングで立ち上る黒煙。どう考えても嫌な予感しかしない。街に向かう足取りは通常の速度から早歩きに、そして最後は全力疾走になった。レベルが最大のプレイヤーによる全力疾走は想像以上の速さだった。フィフニスの街を一望できる山の上に立つと彼の眼に飛び込んできたのは概ね彼が予想する通りの光景だった。


 フィフニスの街は煉瓦や石造りの建物が並ぶ風光明媚な街で、竜顎海と呼ばれる海に面した港町という位置付けだった。ゲームだった頃は多くの船が行き交う美しい街で、仮想世界でありながらも多くのプレイヤーを楽しませる美しさがあった。玲慈のここ最近の拠点であり、朝になれば商人たちの戦場である市場が活気付き、夕方や夜になれば海から返ってきた船乗り達が酒場で一日の疲れを吹き飛ばすために盛り上がると言う中々に活気がある街だった。

 だった……そう、街の盛り上がりも今では過去形だ。見える限りでも夥しい数の建物が損壊している。壁に大穴が穿たれているのなどはまだましで、屋根が消し飛んでいたり、五階建ての建物が四階建てになっていたり、完全に瓦礫の山になっている建物なども少なくない。そして盛大に窓や玄関から炎が噴き出している建物もかなりの数が存在している。襲撃を受けたと言う訳では無く、恐らくは内側から誰かが放った物だと玲慈は予想する。腰に巻いたベルトに付いているアイテムバッグから双眼鏡を取り出し、街の様子を確かめる。VCOでは十八禁のプロテクトコードが存在しているためにR-18な行為をしようとした瞬間、システム的なペナルティが追加される。だが、それ以外の犯罪行為は街の至る所で横行していた。暴れ、壊し、殺す、ある程度の街は戦闘禁止区域として設定され、サーバーの拠点となる街には無敵の衛兵と呼ばれる存在がいる。


 そしてフィフニスのような規模の街には衛兵ほどではないが、ガーディアンゴーレムと呼ばれる街の守り手がいる。だが、バッグから取り出した双眼鏡を巡らせて街を確認していると建物に突っ込んで機能停止をしているガーディアンゴーレムの姿があった。兜は半分以上が破壊され、重装甲冑も陥没したり貫通痕が残っていることから、相当激しい攻撃を受けたのだろう。


「行くか」


 そう短く呟き、自分の意志を定めると彼はアイテムバッグから一丁の漆黒の銃を取り出す。米軍で使われていた回転弾倉を持つグレネードランチャーを取り出す。彼自身もある程度銃は使うのだが、基本的にはこういった狙って撃つ系の銃より爆風や爆発そのものに巻き込む系統の武器を良く使っている。全ての弾倉に弾丸を装填し終えると彼はメールに添付されていた店に向けて歩き出した。


 VCOの世界には気の合う友人同士で組むことの出来るギルドと呼ばれる枠組み以外に、同じ職業を選択している者が集まる〈コミュニティ〉というものが存在する。それよりも一般的な複数のプレイヤーが集まって作ることの出来るギルドに関して彼は所属しては離れを繰り返していた。


 束縛されるのが嫌いというわけでもないが、彼がかつて所属していたギルドは経験や知識を利用して楽をしようとする連中だった。そして気が付けば彼は大勢で定番RPGのように敵を倒すよりも、一人か或いはごく少数で敵を文字通り狩っていくスタイルのプレイヤーになっていた。火力の高い魔法や敵味方を魅了する剣技で戦う華々しいファンタジーの世界では無く、『華々しさ』という無駄を徹底的に削ぎ落とした狩人か殺し屋かと見紛う戦闘スタイル。格好もモノトーンな格好なために余計にそれが印象に残るプレイヤーとして彼は有名だった。


 それに加え、彼が選択した職業は正道を行くプレイヤー達から見れば傍流どころか異端のような扱いの職業だったためにパーティーに組み込み辛いことと、見下す風潮があったことも大きかった。あくまでギルドや他のプレイヤーが欲しかったのは『彼の知識』であり『彼本人』ではなかった。効率よくレベリング出来る狩り場やモンスターの情報、アイテム採取の方法やフィールドやダンジョンの攻略方法。彼個人や同好の志と共に馬鹿にされ、嘲られながらも集めてきた物を何の対価もなく得ようとするプレイヤーに言い様のない『格好悪さ』を感じたためにギルドに入っても長く続かなかったのかもしれない。


 彼は運営が想定しているような『正しい』ゲームのプレイ方法ではないのかもしれないが、ゲームのプレイ方法にはこれといった正解があるわけでもない。初期武器で戦うスタイルの人もいれば、一定条件を設けた所謂『縛りプレイ』をする人も居る。家庭用のゲームでもプレイする人によってそれぞれの楽しみ方があるのだから、ネットゲームでもそういう楽しみ方があってもいいと思うのが彼の持論だった。


 玲慈が向かっているいる場所はそんな同じ職業を選択しているコミュニティの会合場所に設定している店の一つだった。場所は街の中にあるシックなバー。店内は常に薄暗く、それでありながらも退廃的な印象ではない、どちらかと言うと紳士淑女の社交場と言う言い方がぴったりと当てはまるような場所だった。幸いと言うべきか、店そのものは戦闘地区の近くにありながらも奇跡的に大した被害を受けていない。精々店の外壁が焦げている程度だった。


 彼のメイン職業は【パルフェエグゼクター】と呼ばれる職業。VCOではとある理由から余り選択されることのない職業だった。能力値の振り分け次第では前衛、後衛から戦士系や魔法使い系までステータスの振り分け次第でどんなポジションにでもなれるという職業で、そこだけ聞けば器用貧乏な万能職業なのかと思いきや、実際に装備制限が解除されるのは最終段階になってから、そこに至るまででその多くが心を折られ、諦めてほかの職業に転職するという曰くつきの代物だ。


 そして玲慈はその中の数少ない「折れなかった組」でもあった。彼が使用する武器は手数を捨て一撃の重さに賭けた武器である『両手用大剣』を使用するスタイル。機動力で相手を翻弄し、カウンターや要所要所で大きな攻撃を仕掛けるスタイルをとっていた。それ故に防具も重量があり、防御力も高い金属製の防具ではなく防御力は落ちるものの高い機動性を保つことが出来る布製防具を使用していた。

 店の中に入った玲慈は磨き上げられた机が特徴のカウンター席に座る。すると間を置かずに彼を呼ぶ声が掛かった。声のした方へ視線を向けるとそこには一人の女性が座っていた。滑らかな銀色のショートヘアに透き通るようなサファイアブルーの瞳。出るところは出て、へこむところはへこんでいる美しい体型。顔を始め身体全てのパーツが整った女性の理想的な姿をもった一人の女性がそこにいた。服装はパンツスーツに黒い編み上げブーツ。店のハンガーには玲慈と同系統の真っ黒なロングコートが掛けられていた。


「初めまして、だな。レイジ・ミラーくん。それともここはリアルネームで呼んだ方がいいのかな?」

「リアルでもこっちでも読み方はあんまり変わってないですよ。それはジェーンさんも知ってるでしょうに」


 普段から人をからかうような態度だが、この辺りも変わっていないらしい。そのことに少しだけ安堵しながらも玲慈は彼女を改めて見た。頭上に表示されているプレイヤーネームは『ジェーン・ドゥーン』の筈だったが、今ではリアルの名前である『ナタリア・遠藤・エーベルヴァイン』という名前に変わっている。緑色のHPバー、青色のMPバーの隣にある職業アイコンには玲慈と同じ職業であることを示すアイコンが表示されていた。

 彼女も玲慈と同じ職業【パルフェエグゼクター】であり、一部のステータスが上限に達しているカンスト冒険者の一人だった。玲慈と組んでイベントや狩りに行った間柄、所謂戦友という立ち位置にいる女性であり、彼に様々な技術を教え込んだ師匠にも当たる女性でもあった。


「ジェーン・ドゥーンさん……それとも、ナタリアさんでいいんでしたっけ?」

「好きに呼んでくれて構わんよ。私はこの際リアルネームで呼ぶことにしよう。座ったらどうだ、玲慈くん」


 ジェーンことナタリアと名乗った彼女の名前を知っているのは玲慈も所属するとあるコミュニティで開催したオフ会で出会ったからだ。そのとき彼は未成年だったために酒は飲まされなかったが、気がつけばバーのカウンターで酔っている彼女の話を数時間も聞かされることになっていたのはいい思い出になっている。バーのマスターに年齢を間違われてカクテルを出されたのもいい笑い話だ。言われたとおりに玲慈はナタリアの隣に座る。既に店主や店員は逃げたあとらしく、実質的にはナタリアの貸し切り状態だった。彼女もグラスの中に入っている液体を飲み干して喉を湿らすと喋り始めた。


「……何があったんです」

「私にも分からん。いつも通りに過ごして、牛丼買って帰って、一人で酒盛りして、メンテナンスが終わったのを確かめてから、剣の強化に必要な最後の素材を手に入れて、落ちてベッド寝たところで記憶が途切れている。で、気が着いたら街の入り口に立っていたというわけさ」


 シガレットケースから新しい葉巻を取り出すと先端を斬り落とし、マッチで火を点けながら彼女は話す。煙が宙へ消えて行き、上で静かに回っている四枚羽の換気扇が煙を拡散させる。着ている服の影響もあってか彼女の姿は異様に様になっていた。キャリアウーマンというよりはマフィアの女ボスか優秀な女軍人といった趣を感じるのだが、彼は取り敢えずナタリアの話を聞くことにした。


「私の見た限りじゃ、この一週間の内に人がどんどんこっちの世界に来ている。私は初日に来た組だが、今日は初日並みの数だった。この街だけでも相当数来ていると見ていいだろう。ホームタウンになっているセレスフィアなんかは想像もつかないことになってるかもしれないな」


 ナタリア曰く、玲慈たちが来る前の内に試せることは全て試したらしい。流石に『死』を実践する訳には行かなかったが、攻撃や魔法、スキルの発動等やアイテムの使用などはゲームと変わらずに使用できることが確認できた。


「死については多くのことが分かっていないからな。余り無茶な戦い方は止めたほうがいいかもしれん」


 彼女の言う通りゲームにおける死亡と現実の死に関しての因果関係はまだはっきりとしたことは分かっていない。近いうちに公表されることにはなるだろうし、復活アイテムである【不死鳥の涙】と呼ばれるアイテムもアイテムバッグ内に存在する。

 このアイテムは基本的にアイテムバッグに入れ、ショートカットに登録、設定することによって自動的に使用されるアイテムの一つだ。死亡時にはHP、MPを全回復させるという効果を持っている。復活アイテムに関する話題を切ると、次はフィールド関連の話題にシフトしていく。フィールド自体はゲームだった頃と殆ど代わっていなかった。出現するモンスターも初期の猪やスライムといった定番の魔物から、そのエリアに出てくるモンスターの上位互換型まで、確認しただけでも危険なのは強酸性の液体を吐くスライムや興奮した状態に加え、普通のイノシシよりも倍近い体躯を持つラースボア等の出現が確認されているらしい。


「で、この街でドンパチが始まったのが三日前、サウザント・ファングスだったか?その辺りの中途半端な不良系ギルドとDPの一部連中がドンパチを始めたのが発端で、それの煽りを喰らってこの街に逗留していた他のギルドが応戦。今は三つ巴のドンパチ中って有様だよ」

「異世界転移だかトリップして一週間経たずにドンパチ開始とは随分とまあ……血の気の多い連中ですね」

「それに関しちゃ大いに同意見だね。で、どうする?私達(、、)だけならこの状況、余裕で脱することが出来るんだが……生憎とサポートキャラクター達の帰還地点をここ(フィフニス)に設定していてね」

「あー……それは俺もです」


 この世界において冒険者は一定レベルに到達し、それと同時に発生するクエストをクリアすると『サポートキャラクタークリエイト』というシステムが解禁される。

 彼女達はそれで作成した玲慈の忠実なる従者達。従来のオンラインゲームで言うところのペットシステムや使い魔に高度なAIを積んで進化させた様なものだ。基本的には単純な動作しか出来ず、ステータスもこの世界で生きるエルデ人に毛が生えた程度の物しか作成できないが、パルフェエグゼクターである彼らが使役するサポートキャラクター達は特別だ。

 だが、職業や戦闘スタイルなどは作成者に一任される。サポートキャラクターである彼らにもレベルがあり、職業やスキルの構成などがあるために彼らが実際使用されているかと聞かれれば疑問符を浮かべざるを得ない。基本的にはギルドが購入できる拠点、ギルドホームの管理と維持、清掃が主な仕事だ。

 『時間が有り余っている冒険者の道楽』。彼らを育成するプレイヤー達はその他多くのプレイヤーからそう言う認識で見られていた。だが、玲慈やナタリアが選択している職業のようにサポートキャラクター達と連携することを前提に作られた職業も存在している。


 玲慈がナタリアに尋ねる。(玲慈)彼女(メイド)達の主だ。そして離れている従者に対し、自力で戻って来いと彼は言わない。彼女達の実力ならば勝手に戻ってくることが出来るはずなのだ。それをしないということは自力で帰還出来ない状況下にあるということでもある。それならばどうするか、一人の冒険者として、それ以前に一人の主として、どうするか。彼の中には既に一つの答えしかなかった。


「俺は彼女達が戻ってくるまで待ちますよ」

「そうかい。……君ならそう言うと思っていたよ。私もあの子が戻ってくるまではここで徹底抗戦する構えだ。その後はどうするか考えてはいないがね」


 玲慈の言葉にナタリアはにやりと笑うと二人は上着をハンガーから外した。玲慈は夜を固めたかのような機能性とある程度の見栄えが特徴的なロングコートを、ナタリアは厳めしい軍人が着るようなフラップポケットやエポーレット(肩章)が特徴的なロングコートを羽織る。


「取り敢えずと言えば取り敢えずだが、君も覚悟はした方がいい」


 ナタリアの言う覚悟の意味を玲慈は瞬時に察する。戦う覚悟、敵対する相手の生命を奪うと言う覚悟だ。この状況下で非殺を貫くのは非常に難しい。それに生き残った敵がまた立ちはだかる可能性もゼロではないのだ。『やるなら徹底的に』ということだ。


「おい、この店まだ綺麗だぜ!何かあるんじゃねーの!」


 そこに表から頭の悪そうな声が響いたかと思うと荒々しく店のドアが開かれた。入って来たのはバンダナを頭に巻いた少年とタトゥーを入れた少年、手にはトマホークと片手剣を持っていた、どちらも比較的初期に手に入れることの出来る武器で、防具も相応に貧弱な物だった。


「お、女みーっけ!」

「マジかよ!やったぜ……」


 バンダナの少年が喜びの感情を表そうとするが、最後まで言い切る前にいつの間にか背後から現れた玲慈が抜いた減音器(サプレッサー)付きの拳銃によって頭を撃ち抜かれる。相棒の死に、タトゥーの少年が信じられないものを見るような視線を彼に向けた。まるで闇の中から現れたかのようなその動きはまるで死神のように見えたからだ。


「おい小僧」

「な、何だっていう」

「落第だ。死ね」


 玲慈に気を取られている少年にナタリアが声をかけるが、伝えたのは戦闘に対する採点の結果だった。こちらも減音器を付けた拳銃が二回立て続けに頭に撃ち込まれ、少年の身体が跳ねる。HPを全損した二人の身体はやがて青白い粒子となって消えていった。


「取り敢えず、戦う覚悟はあるようだね。……いいだろう、私は当座の雇い主を探す。この状況だ、どこのギルドであっても腕利きは一人でも二人でも欲しいだろうさ」


 ナタリアの告げた今後の予定に玲慈は首を縦に振る。玲慈は街の現状把握と自分のサポートキャラクターを待つ。翌日の深夜十二時にフィフニスの中央区にある噴水広場前で合流しようと言うことを決めると二人は夜闇の中に飛び出した。夜のようなロングコートを着た二人が街を駆けだしていく。


 それでは皆様の批評、感想等をお待ちしております。

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