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人の出会いというのは奇妙なものです

朝食が終わり、お客様が出て行く時間になると、今度は客室のお掃除です。


宿泊のお客様をお部屋に入れるのはお昼過ぎからですが、昼と夜は食堂として店を開けているので、お掃除をするなら今しか時間がないのです。


客室から回収した使用済みのシーツを抱えて、食堂と受付カウンターのある一階に降りると、黒髪に碧眼のお顔立ちの整った20代前半の御仁がいらっしゃいました。


焦り顔で、お母様と何か相談されているようです。


この方、身なりなどは冒険者風と言ったところですが、言葉遣いや所作などがそれらしくありません。


どちらかというと、前世で慣れ親しんだ、身分のある方のそれに近いものを感じます。


証拠がないので何とも言えませんが、貴族がお忍びで、町に降りたり旅をしたりというのは珍しいことではないので、可能性はあるでしょうね。


よく鍛えられた体によく使い込まれた冒険者が持つには立派すぎる剣を帯びていますのでもしかすると騎士の方という可能性もあります。


お困りのようですし、まずはご用件をお聞きせねばなりません、回収したシーツを廊下に置いていた洗濯かごに押し込み私はお母様の元へ向かいます。


お母様はこちらに来る私の姿を見つけると美しい眉根を下げて明らかにホッとした顔をなさいました。


「こちらの連れの方の具合が悪いみたいでね。訳あって近くの宿場町の方には行けないみたいなのよ。隣街のリンベルからお医者さんを呼んでるらしいんだけど、急いでも1日はかかるでしょう?アリスの魔法でお役に立てないかしら?」


この村には、お医者様がおりません。

大抵の事は薬で対応し、医者が必要な場合はここから半日かけて宿場町に行くのが通常ですけれど、最近は、その宿場町のとある事情で私の治癒魔法を頼ってくる方もいらっしゃいます。


治癒魔法を使える方は多くはありませんが、私は幸い転生時に祝福として治癒魔法の才能を頂きましたので、使うことができます。


「すまない、女将。まさか治癒魔法を使えるというのはこの少女なのか?」


黒髪の御仁は、私が治癒魔法を使うと聞いて怪訝そうな顔をなさいました。

それも仕方のないことでしょう。


私はまだ8歳なのですから。


8歳の子供が、使い手の少ない治癒魔法を使いこなすなんて、通常であれば私自身も信じられませんもの。とりあえずはご挨拶しませんと。


「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。私、この宿の店主ノイシュの娘のアリスと申します。私はまだ幼い身ですので、ご不安に思うのもごもっともかとは存じますが、拙いながらも治癒魔法が使えます。気休め程度にしかならないかとは思いますがお力になれると嬉しいのですが。」


ワンピースの裾を摘み、にっこり微笑んでカーテシーでご挨拶です。

前世では、見た目が悪いせいで全く様になりませんでしたが、美少女と言って差し支えのない今の容姿であれば、カーテシーも似合いますね。


黒髪の御仁は、びっくりした顔でしばらく沈黙してしまいました。


私の言葉遣いが、丁寧すぎましたね…

家族や村の方々と話すときは砕けた喋り方で対応できるように努力し矯正しましたが、お客様など丁寧語の対応になるとどうしても前世の言葉遣いにひっぱられがちです。


この方は、前世で身をおいていた貴族社会を彷彿とさせるので、前世の喋り方そのままで対応してしまいました。


悪いことではないのですが、平民…しかもこんな農村部の子どもらしからぬ口調なので、びっくりさせてしまったようです。


「…これは驚いた。ずいぶんしっかりした娘さんだ。こちらこそお願いする立場にも関わらず不躾な態度で済まなかった。私は、オーレンと言う旅の者だが、仲間を助けてはくれないだろうか。」


黒髪の御仁は、固まっていた表情を緩めると私の目線に合わせるように屈んでそうおっしゃいました。


こんな小娘とも呼べない子どもにきちんと謝った上でお願いして下さるなんて、お心の広いできた方です。


8歳が使う治癒魔法なんて信用ならないと断られるかと思いましたが、よかったです。きっと8歳の力も借りたいくらいにお困りなのでしょうね。


「もちろんです。私にできることであれば。」


オーレン様のお連れ様は最上階の客室に通されたようです。


この宿で一番大きな客室の扉を開けると、金髪の男性が苦しそうに寝台に横たわっておりました。


その方のお顔を見た私は、驚きで一瞬息が止まりました。


とてつもない美男子であった事にも驚きましたが、何よりも前世で見たことのあるお方でしたので。





お連れ様も身分ある方かもしれないと思いましたが第三王子のエンジュ様だとは、想定外にもほどがあります。






格好を見ると商人風に変装していはいますが一応前世では、従兄弟にあたる方でそれなりに顔を合わせる機会(エンジュ様は私の醜い顔を見てはいなかったでしょうけれども)もあったので間違いありません。


村人となった今の身分で前世の身内や親族に会うことは一生無いだろうと考えておりましたが、人の出会いというものは誠に奇妙なものですね。


それにしましても、王族でいらっしゃるエンジュ様に治癒魔法をかけるとなると大役ですね。


王族であれば旅先にも専属の治癒師かお医者様を伴うのが通常なので、こんな身分の知れない8歳の村人が王族に治癒行う事は通常ありえません。


エンジュ様が寝込んでいる上に、王族の旅の護衛がオーレン様お1人だけという状況がすでに異常ですので、こんな子どもの治癒魔法に頼る事態に陥っているのですけれど…物凄く厄介なご事情が絡んでいそうですが、とりあえずは、治癒に専念致しましょう。

ブックマーク、評価を頂きありがとうございます。

筆は遅い方なのでのんびりお付き合い下さると嬉しいです。

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