α 第一話 『セリス、○○○○に襲われる。』
α 第一話 『セリス、○○○○に襲われる。』
「禁呪の魔女よ!コッチだ!」
少年が良く響く声で叫んで呼ぶ。
「はぁ、はぁ、クロト、、、まって、、、」
女戦士の人形を片手に持ったセリスが応える。
セリスが孤児院に来て四年が経った。
そんな彼女は今、孤児院裏に少年達が造った
『秘密基地』に招かれ裏山を登っているのだった。
「それにしても、魔女は体力が無いな。皆無だな。」
そんな事はセリス自身が一番良く知っている。
解決策は有るのだが、必要に迫られ無い限り
使うツモリは無かった。
今はそれよりも、、、
「なんでマジョなの?」
その言葉に前を歩く少年は振り返って言う。
「引き籠って本ばかり読んでいて、変だからな!」
要はクロトと言う少年の頭の中で、
本読み+整った容姿+彼のセンス=不気味な魔女
という構図が生まれているのだ。
傍迷惑なセンスである。
「あ、、、」
セリスが考え事をしながら歩いていると、
クロト少年の背中にぶつかってしまった。
「何して、、、」
そう抗議しようとセリスが口を開いた瞬間、
草叢から、その『理由』が姿を現した。
「ゴブリンだ、、、」
ゴブリンとは、
この世界において最も弱いとされる
魔物に属する獣、魔獣の一種である。
最も弱いとは言えど成人を基準とした話であり、
村や街の子供にとっては、
十分な死因となるモノでもある。
クロト少年は、
ジリジリと両手で探りながら後退りし、
その手にセリスがぶつかりハッとした。
幸い、ゴブリンはまだ彼らに気付いては居ない。
が、体力の無いセリスに走らせて逃げるには
クロト少年は冷静過ぎた。
セリスが逃げ切れない事に思い至ったのだ。
が、時間は止まらない。
ゴブリンが摺り足の微弱な音に反応して、
団栗眼を向けて振り返った。
怯えて震えるクロト少年は気付かない。
背後のセリスが落ち着き過ぎている事に。
唸って威嚇するゴブリンは気付けない。
自分がこの周辺で一番、
『手を出してはいけない』子供と、
その連れ合いに手を出しかけている事に。
「さようなら。ナもナきゴブリンさん。」
その声の源にクロトとゴブリンが向く。
少女、
セリスは足許に立たせていた女戦士の人形に
微笑み、手許の端末にペンを滑らせる。
直後。
ゴブリンは人形の剣に喉笛を斬り裂かれて
血を吹き出して倒れた。その表情は驚愕。
知能の比較的低いゴブリンであっても、
モノの道理から人形が動くとは思わない。
ゴブリンの喉笛を斬り裂いたのは、、、
「おツカれサマ。ウォーリアちゃん。」
ゴブリンの横に瞬間で移動した人形を
セリスが拾いに行く。
ゴブリン喉笛を斬り裂いたのは、
女戦士の人形だったのだから。