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「ジェイル」 その1

 旅行代理店のパンフレット置き場に「異世界」行きのツアーが組まれている事を始めて知った時、俺は時代の急速な躍進に感動した。海外旅行と同じ位の気持ちで異世界にいけるようになった世の中は、新たな貿易関係が築き挙げられたおかげで中々の好景気に浮かれていた。それでも500円のコンビニ弁当しか買えない俺様は、完全に時代の波に乗れないままで、今日も裏ルートを使い、異世界での仲間集めに勤しむために密入国した次第である。

声を掛けるのは女だけ。何故なら女が好きだから。幾ら腕の立つガテン系戦士や高等魔法使いをパーティーに入れたとして、こっちのモチベーションが上がらなければ仲間にする意味が無い。男はみんなエロい。しかし、俺は常人の何十倍もエロいと自負している。現実世界で、初めてポリに捕まった理由が痴漢だった。しかも10歳の時。幸い、少年法とやらのお陰でお咎めはなかったが、家に帰ると鬼の形相で待っていた親父にパイルドライバーをされ、首に激痛が走った。

「父さんだってな、本当は触りたいんだぞ!!!」

親父は涙ながらに言った。

「でもな、男はグッと我慢しなくちゃいけねぇんだよ。それが社会ってもんなんだよ!!

儘ならねぇけど受け入れろ。お前はそれができる子なんだ」

「父ちゃん!!」

俺と親父は暑い抱擁をし、もう二度と電車でOLのケツは揉まないと硬く誓った。


そして1年後、親父が痴漢で捕まった。

「魔が差したんだ・・・」

面会の時、親父は石原裕次郎のような雰囲気を醸し出して不敵に微笑んだ。

「・・お前は10歳で痴漢、俺は46歳で痴漢。フッ、血は争えんな」

「ケツか!? さてはOLのケツを揉んだのか!?」

「いや、揉んだのは女子高生胸だ」

「・・・すげぇぜ父ちゃん。あえてバレる確率の高い胸を攻めるとは。俺には到底マネできねぇよ。さすがだな」

「父はな、ガキの手本にならないといけないんだよ。だから、リスクの高い賭けしてお前に伝えたかったんだ。後先考えずに大胆な事をやって生きてみろってな」

「父ちゃん・・・」

涙が溢れそうになる。明日からの生活を考えると。

その日以来、俺はホームレスになった。





当ても無く、フラフラ仲間集めをするのが俺流だ。

タイプの女の子に声を掛け、勧誘をする。

相手の機嫌が悪いと殴られるので、ヤバかったら一目散に逃げる。

今日は市場でナンパ、もとい仲間集めをする事にした。

情景描写を一々語るのは面倒なので、適当に想像して欲しいがとても大規模な市場だった。

肉、魚、野菜や果物、武器や魔ヶ玉(魔法使いや魔女が魔力供給の為に使うアクセサリー)などを扱った店舗がずらりと並んで、何処も彼処も大いに賑わっていた。

「お兄ちゃん、ちょっと遊んで行かないかい?」

しばらく徘徊していると、薄毛のおっさんに声を掛けられた。

「何だ、ギャンブルか?」

「女だよお・ん・な。いい子揃ってるぜ」

おっさんがそう言ったと同時に、前から歩いてきた女と肩がぶつかった。

女は軽く会釈し、立ち去ろうとする。

「悪いが無一文なんだよ。他を当たってくれや」

「お兄ちゃん向こうの人だろ? 最近景気いいって聞くぜ」

「儲かってんのは一部の企業家か、実業家だけだっての。だから俺の財布なんかとっても意味ないぜ?」


「!」

俺は即座にぶつかった女の手を掴んだ。その手には俺の長財布が握られている。

「スリか。お前初めてじゃないだろ? 随分と手馴れてやがる」

「・・・ちぃっ!」

女はズレたメガネを人差し指で掛け直し、懐から短剣を取り出した。

「離せ。さもないとテメェの手首ごとぶった切るぞ」

「怖いねぇ、そんな眉間に皺寄せちゃって。痕が残っても知らねぇから」

俺が皮肉ると、女は歯ぎしりをしだして威嚇してきた。

「向こうの人間はな、こっちじゃカモなんだよ。レイスも魔法もロクに使えないボケが」

「口の悪りぃ女だな。俺はMじゃないからは興奮しねぇぞ?」

「黙りやがれ変態!! マジに死にたいのか!?」

女は激しい口調でかなり苛立っている。


「おい、兄ちゃん・・・」

急に、この光景を見ていたおっさんが言った。

「この女はジェイルだ! 名前ぐらい聞いたことあるだろ? あの悪名高い「音速のジェイル」だ!!」

「あ?」

俺がおっさんの方を振り向いた時には、もう遅かった。手首に走る激痛が一瞬の油断を作り、女の手を放してしまったのだ。そして女の姿はすでに消えていた。








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